告白

社会保障

社会保障

康二は、退職後に傷病手当金が支給されることを見込んでいたが、会社側がその支給を認めようとしない事態に直面した。傷病手当金は、健康保険から支給される制度で、病気やけがで働けなくなった場合に、最長で1年半の間、給与の約7割が支払われるものである。しかし、会社が康二の病状を正式に認めないことで、彼はその手当を受け取れない状況に追い込まれた。
「どうして、こんなことになるんだ…」康二は、無力感を抱きながらも、諦めるわけにはいかなかった。彼の生活は、障害年金の申請とこの傷病手当金にかかっていたのだ。会社との交渉は予想以上に困難だった。会社側は、康二の精神的な病状を軽視し、彼が業務に支障をきたすような病気だとは認めたくない様子だった。康二は健康保険組合や労働基準監督署など、さまざまな機関に相談を持ちかけながら、自分の権利を守ろうと必死だった。
「これ以上、会社側に押し切られるわけにはいかない…」そう自分に言い聞かせながら、康二は労働組合にも協力を仰ぎ、証拠となる診断書や、過去の業務に関する記録を揃え、正式に会社と対抗する準備を進めていった。この格闘は、彼にとって精神的にも肉体的にも負担が大きかったが、同時に、自分自身を守るための戦いでもあった。康二は、かつての自分が体験してきた孤独や苦しみを思い返しながら、もう一度立ち向かう決意を固めていた。康二は、障害者手帳と障害年金の申請を同時に進めていた。特に障害年金の申請には、発病当時の診断書が必要であった。しかし、それは20年前のことであり、診断書が今も存在するかは不明だった。康二は、当時のことを必死に思い返し、精神病院の名前を思い出したが、東京の品川区にあったその病院は、すでに電話帳には載っていなかった。
「どうしよう…もう無理かもしれない」と、康二は一度は諦めかけたが、ふとしたきっかけで病院が移転しているという情報を得る。これが康二にとって最後の望みとなった。移転先を調べて電話を入れると、なんと20年前の診断書がまだ保管されていたのだ。
「本当に残っていたんだ…」康二は胸を撫で下ろし、感謝の気持ちがこみ上げてきた。これで障害年金の申請に必要な書類が揃い、手続きは大きく前進することになった。長い年月を経ても、過去の記録が彼を支えてくれるということに、康二は少しだけ救われた気持ちになった。この診断書が無事手元に届けば、障害年金の申請は大きく進展する。康二は、再び未来への希望を感じ始めていた。康二が手に入れた20年前の診断書には、「悪霊に取り憑かれているといった意味不明な症状」と記され、診断名は「統合失調症」となっていた。その言葉を目にした瞬間、康二は唖然とした。自分の過去に深く向き合ったことはなく、これまで病気について真剣に考えることを避けてきた。それがかえって幸運だったのかもしれない。病名に向き合わず、何とか普通に生きてこられたからだ。しかし、今さらその病名を悔やんでも仕方がない、と康二は冷静に考える。過去を振り返っても、病気がもたらした辛い思い出もあったが、それでも生き延びてきたことには意味があった。目の前には、今後の生活を安定させるための障害年金という現実的な問題がある。
「病名は関係ない。大事なのは、これからどう生きていくかだ」と康二は自分に言い聞かせた。過去の診断書は、今ではただの紙切れに過ぎない。大切なのは、これをどう自分の未来につなげるかだ。康二は新たな覚悟を持って、次のステップへと進む決意を固めた。
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