告白

幻覚

幻覚

新聞配達のバイクを走らせていた康二は、配達を終え、精神病院の隣にある老人ホームへと向かう坂に差し掛かった。天気は晴れ渡り、静かな朝の風景だった。しかし、その静けさを破るように、突然眩しいライトをつけたバイクが横から現れた。耳をつんざくような爆音を響かせながら、坂の頂上へと進んでいく。
「奇妙なところから現れたな…」と康二は思った。他の新聞販売店の配達員だろうかと考えながら、バイクを追いかけるように坂を登っていった。しかし、頂上に到着した瞬間、そのバイクは忽然と姿を消した。前方には道が途切れ、崖となっているはずなのに、バイクはどこにもいない。康二は一瞬、混乱し、背筋に冷たいものが走った。「幻覚か…?それとも幽霊か?」と彼は自問する。これまで何度も幻覚に悩まされてきたが、今回の出来事はあまりに鮮明で現実感があった。精神的な不安定さが影響しているのだろうか、それともこの場所に何か特別な力があるのだろうかと、康二は不安に包まれたまま、その場を後にした。配達を終えた康二は、一眠りして疲れを取った。昼過ぎになり、ふと気分転換がしたくなり、本屋へと出かけた。店内を歩き回っていると、ふと目に留まったのは「潜在意識」について書かれた本だった。興味を惹かれた康二は、その本を手に取り、中身を確認すると瞑想用のCDが付録としてついていた。家に帰ると、康二は早速その瞑想のCDをラジカセにセットし、深い呼吸を意識しながら瞑想を始めた。しかし、瞑想が進むにつれて、突然下半身が重くなる奇妙な感覚に襲われた。まるで何かに押さえつけられているかのような不快な重さが広がり、康二は不安と焦りを感じ始めた。
さこのままでは良くないと思い、康二は瞑想を中断し、気晴らしに車に乗って街をドライブすることにした。車の中で流れる景色や風に当たることで、次第に心が落ち着いていき、重苦しかった感覚も消え去っていった。ドライブは彼にとって心の平穏を取り戻す手段となったのだった。康二は、音信不通となっている真子のことを考えながら、彼女に対する思いをLINEで呟き続けていた。返事が来ないことに不安や孤独を感じるたびに、彼は年齢差や「既読スルー」の意味を調べ始めた。ある時、検索結果の中に「ツインレイ」というスピリチュアルな言葉が目に留まった。康二にとって、この言葉は初めて聞くもので、その意味に惹かれるように調べ始めた。
「ツインレイ」は、スピリチュアルな概念で、魂の双子や唯一無二の運命の相手を指すというものだった。2人が出会うことで魂の成長や統合が進むと言われるが、試練や困難が伴うことも多いとされていた。この考えに触れるうちに、康二は真子との出会いや今の状況が「ツインレイ」に関連しているのではないかと感じ始めた。彼女との年齢差や、心の距離を感じることも、この試練の一環なのかもしれないと、康二は自分なりに解釈していった。そして、スピリチュアルな視点から彼女との関係を捉えることで、少しだけ心が軽くなるような気がしたのだった。康二は「ツインレイ」というスピリチュアルな概念に辿り着いた出来事も、真子に送っておくことにした。しかし、その夜、康二は突如として被害妄想に襲われる。理由もなく周囲が自分を攻撃しているかのように感じ、頭の中で不安や恐怖が膨らんでいった。この妄想は三日間続き、康二を苦しめたが、彼は心の中で不思議な戦いを繰り広げていた。コロナウイルスを倒すようなイメージが頭に浮かび、それが何故か彼の妄想を和らげていった。
「コロナをやっつけた」――そう感じた瞬間、康二は妄想から解放された。彼の頭の中は静まり返り、ようやく平穏を取り戻すことができた。この出来事を通じて、康二は自分の精神の揺れに対して新たな認識を持つようになったかもしれない。
< 15 / 20 >

この作品をシェア

pagetop