告白

出向

出向

康二たちは、会社の敷地内での草むしりをもう一週間も続けていた。経営状態が悪化している影響で、こうした雑務が続くのは不安を煽るものだった。若い同僚たちの中では、東京本社への転勤の話が持ち上がっていたが、康二はその流れに乗れずにいた。平均年齢27歳の職場で、36歳の彼は明らかに異例だった。
「康二さん、まだ草むしりやってるの?」と、若い同僚が冗談交じりに声をかけてきた。
「まあ、これも仕事だからな。」康二は軽く笑い返すものの、心の中には不安が渦巻いていた。このままでは、若い連中に置いていかれるのではないかという恐れがあった。ある日、昼休みに同僚たちが集まっていると、課長が近づいてきた。「みんな、ちょっと話がある。実は、今後の人員整理や出向の話が出ている。」
その言葉に、康二の心臓が大きく跳ね上がった。若い同僚たちはざわめきながらも期待と不安の入り混じった表情を浮かべている。
「出向が決まった場合、あなたたちには東京本社に行ってもらうことになります。ただし、今後の経営状況によっては、出向先での雇用が続く保証はありません。」
その言葉に、康二は背筋が寒くなった。若い社員たちは、期待と希望の顔を見せていたが、彼にはその余裕がなかった。もし出向することになれば、東京での生活や仕事に適応できる自信がないからだ。昼休みが終わり、作業に戻った康二は、自分の未来について考えざるを得なかった。「これがチャンスか、それともさらなる苦境になるのか…」
次の週、康二は課長から呼ばれた。「荒瀬、実は君を東京本社に出向させることを考えている。経験も豊富だし、いい機会になると思うんだ。」
その言葉を聞いた瞬間、康二は内心動揺した。「でも、私は…」
「大丈夫。君ならやれる。東京に行って、新しい環境で自分を試してみてほしい。」
康二は、一瞬躊躇したものの、浩美との時間を思い出した。彼女の応援があったからこそ、ここまで来られたのだ。「やってみます」と決意を固め、彼は課長に答えた。その夜、康二は浩美にこの話を打ち明けた。「出向の話があって、東京本社に行くことになりそうなんだ。」浩美は驚いた表情を浮かべた後、彼を励ました。「それなら、ぜひ挑戦してみて。新しい環境で成長できるチャンスだと思うよ。」康二は、浩美の言葉に背中を押されるような思いがした。自分の新しい挑戦が始まろうとしている。この一歩が、彼の未来を変えるきっかけになるかもしれないと、少しずつ希望を感じ始めていた。
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