告白

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康二はトイレで浩美とすれ違い携帯番号を交換した。
浩美から携帯番号をもらった日のことを思い出し、少しずつ緊張が高まっていった。トイレでのすれ違いは一瞬の出来事だったが、彼の心には大きな意味を持っていた。しかし、浩美からの「変なメールはしないでよ」という言葉が、彼をためらわせる原因にもなった。それでも、康二は浩美に自分の気持ちを伝えたいと思い、三週間後、勇気を振り絞ってメールを送った。「好きです。」シンプルだが、真剣な思いを込めて。しかし、返ってきた返信は予想外のものだった。「会社の同僚としか思ってません。もうメールしないでください。」
その言葉が康二の胸を締め付けた。彼は一瞬、携帯電話を握りしめて動けなくなった。浩美との関係が一瞬で崩れ去ったように感じ、心に大きな穴が空いた。職場に戻ると、周囲の喧騒が耳に入らなかった。康二は自分のデスクに座り、頭の中で浩美の笑顔や優しさを思い返していた。しかし、彼女の言葉が頭から離れない。「同僚としか思ってません。」その後、康二は自分の気持ちを整理するために時間が必要だと感じた。彼は浩美との距離を置くことを決意し、彼女に接触することを避けるようにした。だが、職場で彼女を見かけるたびに、心の中に小さな痛みが蘇る。仕事は続けていたが、以前のような明るさは失われていた。仲間たちとの会話もどこかぎこちなく感じ、浩美の存在が彼にとって大きな影を落としていた。
「どうしてもっと早く言えなかったんだろう…」康二は自問自答しながら、時間が経つのを待った。彼の心には、未練と後悔が交錯していた。やがて、彼はこの経験を通じて、自分の気持ちをどう受け入れていくかを考え始めるのだった。康二は転勤を決意した。その日のうちに課長に申し出て、次のステップへ進むことを決めた。事務所で一人になったとき、少しの間静かな時間を過ごした。自分の気持ちを整理し、新たな環境に向けての期待と不安が交錯していた。そのとき、浩美が事務所に入ってきた。彼女はパソコンの不具合を見に来たようだったが、康二は声をかけることができなかった。心の中で言葉を何度も繰り返すが、口が開かない。10分、20分、30分。浩美は真剣な表情で作業を続け、康二はその様子を見守っていた。彼女が目を細めながらモニターを見つめる姿や、時折眉をひそめる仕草に、康二はどこか懐かしさを感じていた。やがて、浩美は用事を済ませ、事務所から出て行った。康二はその背中を見送りながら、胸の中にぽっかりと空いた穴を感じた。彼女と直接話すこともできず、心のもやもやは一層深まった。
「どうして、あの時にもっと素直になれなかったんだろう…」康二は心の中で思い、後悔が押し寄せてきた。その日の午後、康二は転勤の手続きを進めながら、浩美との思い出に浸っていた。職場の雰囲気が変わっていくことに対する不安はあったが、新しい環境で自分を見つけ直すことができるかもしれないという期待も抱いていた。次第に、康二は自分がどれだけ浩美の存在に影響を受けていたかを再認識した。彼女との距離が縮まらなかったことが、これからの自分にどう影響するのかを考えるようになった。
「新しい場所で、もう一度やり直そう。」康二は決意を新たにし、次のステージへ向けて歩き出す準備を整えた。彼は自分の人生を取り戻すための一歩を踏み出そうとしていた。
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