闇の龍神様と癒しの神子
天狗たちが去り、しばらくたった頃、榛名の頬にくすぐったい小さな風が当たっていることに気づき目を開ける。


「大丈夫ですぅ?」
「ムクちゃん!」
先ほどの小さな風はムク(鹿の姿)の鼻息だったようだ
ムクは鹿から人型になる。

「ここは?ムクちゃん、いつの間にいたの?」

「ここはアヤカシの世界で天狗の敷地内にある牢屋みたいですぅ。ボクはミツキの屋敷に入る前に十六夜様からハルナ様の腕輪にコッソリ入って護衛しろと命令されたですぅ」

「そんなことできるんだ…ありがとう」
榛名が微笑むとムクは気まずそうな顔をした。

「お礼は違うですぅ。十六夜様がやられた剣は十六夜様の神通力を持つボクたちにも不利だったから助けられなくてゴメンナサイですぅぅ〜…」

涙を流すムクに榛名は抱きしめた。 

「ミクちゃんは?」
「ミクは十六夜様の所にいるですぅ」

「十六夜様はどうなったの!?」

「ボクとミクはママは違うけど同じ日に産まれた幼なじみなんですぅ。だから十六夜様はボクたちに以心伝心の能力を与えてくれたんですぅが、ミクによると十六夜様は崖から海に投げられたですぅ」

「そんな…」

(罠だって言ってたのに…私が我儘言ったばかりに…私が行きたいなんて言わなければ今頃…幸せな日々を過ごせてたのに……ごめんなさい、十六夜!)

ムクは無垢な笑顔で笑いかけた
「十六夜様はまだ生きてるですぅ!あの剣はヤバいですぅが十六夜様から神通力もらったボクたちが消えずに生きてるのが証明ですぅ!鹿は嘘つかない!」

ドヤ顔でピースするムクに榛名は希望をもらった。

「十六夜様を助けに行きたいけど…」

「行くですぅ!ボクに任せるですぅ!」

「えっ!」

ムクは人型から鹿の姿に戻り、更には姿を変えた。

体は馬のような大きさに、強く鋭く立派な鹿の角を生やした。

「ボクたちは戦闘と速さが得意ですぅ!エッヘンですぅ!!」
立派な成獣になっても声は幼くて可愛い子鹿のままだ。

「ムクちゃん凄い…」
「ありがとうですぅ!ハルナ様、乗るですぅ!こんな場所、ボクの角で余裕ですぅ〜!!」
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