白球を天高くかざせ乙女たち!

 トイレに行って気持ちを落ち着かせようと席を立ったが、やはり気持ちが高ぶっていたのか、教室の出口で他の生徒と激しくぶつかってしまった。

 相手は女子生徒。僕は今でもそれなりに身体を鍛えており、身長175センチ、体重は65キロはある。


 ──そんな()の方が吹き飛ばされた。


 相手が彼女で助かった。

 大門亜土(だいもん あど)さん。

 身長は180センチを軽く超えていて、体重は……女性の年齢や体重は詮索しないのが、身のためだと僕は知っている。

 びくともしなかったどころか、はたしてぶつかったことに気が付いたかどうか……。

 眠そうにしながら虚ろな目のまま、自分の席へ座って豪快に寝始めた。

 とにかく他の女子じゃなくてよかった。

 怪我でもさせたら、公開処刑されそうで怖い。

 気を取り直して、トイレに向かって歩いていると、先の角からこの学院の天敵に遭遇してしまった。


「お、お前は隣のクラスの男っ!」


 隣のクラスなのは知っているが名前は知らない。

 僕が何かしたという記憶もないが、彼女に見つかると必ず因縁をつけられる。

 赤毛ロングのくせ毛。前髪は作らずに左右に自然に分けている。

 瞳も赤いので、ハーフかクォーターかもしれない。


「どこへ行く? 変態野郎」

「なっ、なんてことを……僕はトイレに行こうとしているだけです」

「女子トイレで盗撮するつもりだな?」

「そんなことしませんよ、男子トイレに行くだけですから!」


 彼女の言い分はこうだ。

 今年から共学になったとはいえ、この学校をわざわざ選んで入ってきた男子は、絶対まともではないはずだ、と。

 ちなみに僕は彼女を「女子」としてカウントしていない。

 どっちかっていうと、どこにでもいる陽キャ属性、イキり系男子のニオイがぷんぷんするから。


「ちっ、今日のところは見逃してやる!」

「いや、そもそも何もしてないですから!」


 見逃してやった感を出したまま、赤毛の女子がすれ違いながら、もう一度舌打ちした。

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