白球を天高くかざせ乙女たち!
放課後、チャイムが鳴り終わると同時に天花寺さんが迎えにきた。
ジロジロとまわりの視線が痛いが、ここはあえて鈍感になることにした。
体育館裏にある部室棟。
その中のひとつに「野球部」としっかりと印字された木札が貼られているが、その前に「女子」とマジックペンで書き足されていた。
「失礼しまーす。入部希望の天花寺 月です」
「志良堂 太陽です」
「……」
あれ、返事がない。
天花寺さんはノックして返事も待たずに勝手に入ってしまったので、恐るおそる部室の中に入った。
不思議な光景が広がっていた。
野球部の練習用のユニフォームを着た女子がふたりバットの手入れをしている。
しかし、あとの3人は制服のままで四脚のテーブルを囲み、人生ゲームをして遊んでいた。
3人はすぐにヤンキーだとわかった。
元女子高だが、こんな一目でわかるヤンキーがいるとは。
「野球部って、5人だけですか?」
すごい。
さすが、入学して早くも学院四天王のひとりになった天花寺さん。並のメンタルじゃない。
「いえ、去年の3年が卒業して今年はふたりだけです」
おどおどしている黒縁眼鏡のお下げの女子が答えた。
ん? それだと人数が合わないんじゃ……。
「ドンッ」──急に人生ゲームで遊んでいた女子が、ゲーム用のお札をテーブルへ叩きつけて立ち上がった。
その大きな音を聞いて、黒縁眼鏡の女子がびくりと肩を震わせた。