白球を天高くかざせ乙女たち!

「久しぶりだな、太陽(てだ)
「あ、うん、雷闇も元気そうだね……」

 身長192センチ。
 高校1年生にして超高校級と呼ばれる怪物が、練習試合を終えすぐに僕の目の前にやってきて、縮こまった僕を見下ろしている。

 八景シニアで彼とバッテリーを組んでいた。
 そこで嫌と言うほど思い知らされた。
 どんなに好きでも、どんなに努力しても才能(・・)には勝てないってことを……。

 目の前の男は最初からチート能力を持っている癖に誰よりも努力する。そんな奴が近くにいるだけで、心が何度折れたことか。いい加減疲れたので、野球は趣味程度に続けようと諦めた(・・・)のに……。

「俺のところに戻ってこい!」
「いや、それは……」

 雷闇はどこまで行っても物語の主人公だ。凡人が言ったら恥ずかしいセリフでも彼が言うと、物語のワンシーンに早変わりする。

「あれ、太陽(てだ)の元カレ? それは残念ですね」

 これ以上、雷闇の目を見るのが耐えられなくなった僕は頭を下げたが、ふたたび月の声で、顔をあげることになった。

「誰だ、お前は?」
「私は天花寺 月。太陽(てだ)は私たち九家学院女子野球部の女房役なんです」

「太陽、どういうことだ?」
「あっ、これはつまり……」

 よりにもよって、雷闇に説明することになろうとは。
 入った高校が男子野球部がなく、誘われるがまま、女子野球部のコーチになったことを簡単に説明した。

「なるほど、それはいいかもしれん」
「でしょ?」

 え……どういうこと?
 てっきり、あんなに打ち込んでいた野球をやめてコーチをやっていることを批判されると思っていたのに。雷闇は納得した顔をしていて、月はちょっと得意げな表情をしている。僕にはどういう状況なのか全然理解できない。
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