白球を天高くかざせ乙女たち!

「僕たちは絶対に負けません」

 中条先生もきっとこの監督に嫌なことを言われたんだろうな。心の底から軽蔑できる人間なんて、そうそう出会えるもんじゃない。

 彼は僕たち九家学院の選手だけじゃなく、自校の女子選手まで侮辱した。男子野球だけがいまだに脚光を浴びている時代。女子野球なんてぜんぜん世間から見向きもされないのは紛れもない事実。男子野球を強化ができれば女子なんてどうでもいいと間接的に言ったようなもの。でも、選手を育てるべき監督がそんなことを言っていいはずがない。

「ははっ、これは怒らせてしまったようだ。冗談だよ」

 いや、冗談じゃない。さっきの目は本気だった。

「男子部員から審判を出すが、君もやるかね?」
「はい、やります」

 中条先生は監督だけど、野球は素人。ベンチとのサインも決めていないので、結局僕がベンチでできることはない。




「そっちのピッチャーの名前は?」
「えっと、桜木茉地さんです」
「へぇ、不良にピッチャーを任せるなんて、三流もいいところだね」
「さあ、それはどうでしょうね?」

 この人が桜木さんと揉めた人か。ガムを噛みながら、時々風船を膨らませて遊んでいる。九家学院高校のベンチに戻ろうとしていたら、ピッチング練習をしていた聖武高校のピッチャーに声をかけられた。

 グラブで握り方をずっと隠している。変化球を多用してくるピッチャーかも。少なくとも3種類は球種を持っているみたい。

 他の女子部員もそうだけど、練習用のユニフォームにナンバービブスを着けており、正式な番号じゃないないことがわかる。

 相手は背番号1、エースのようだが、おそらく桜木さんの敵ではない。


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