白球を天高くかざせ乙女たち!
「ハァハァ……くそっ」
試合が始まって、約1時間が経過。
3点差で九家学院がリードしている。
相手校のピッチャーは、桜木さんの速球に完全に呑まれていて、スコアは3対0のまま。現在、6回表の攻撃で桜木さんはこの回にくるまで秘密兵器であるカットボールを出すまでもなく、ストレートだけで相手を圧倒してきた。
序盤の1回裏の攻撃で、1番の時東さんがバットに掠ることなく倒れたが、2番の火華と3番の月が連続でヒットを打って出塁。続く亜土は豪快に空振りしていたが、食べ物の名前が違っていたので気になった。5番の林野さんがタイムリーツーベースを決めて2点リードすると、6番の西主将もツーベースヒットを打って一気に3点を奪うことができた。
しかし、2回から聖武高校のピッチャーの変化球のキレが急に増した。天花寺さんだけ2回目のヒットを打った以外は、みんなゴロやフライでアウトを取られてしまった。
6回表の攻撃が終わり、九家学院高校の攻撃が始まる。これまで2打数2安打と完璧な天花寺 月。彼女の場合、どんなに変化量の大きい変化球でも縦だろうが横だろうが、簡単に芯に当ててしまう。ここまでくると、ちょっと怖くなってくる。
縦のカーブだと思うが、落差が大きすぎて、ワンバウンドした。そのため、キャッチャーが捕球しきれず弾いてしまった。そのボールが僕の顔面に飛んできたので、マスクをしていたが、反射的に手を出してキャッチした。
って、このボールは……。
「ボールが汚れているので、交換します」
相手校のボール係が来て、僕が持っていたボールを無理やり奪った。
「た、タイム!」
球審をしていた僕はあわててタイムを取って、相手校のピッチャーのところへ駆け寄る。するとキャッチャーや内野の選手まで走って集まってきた。
「なんだよ?」
「それは君たちが一番よくわかっているはずだ」
先ほど触れたボールに粘っこいものが付いていた。不正投球であるため、本来、警告を行うべきケースではあるが……。
「証拠でもあるの?」
「これから何度でもボールをチェックする。それで不正投球を確認した場合は没収試合とし、君たちの監督にもちゃんと報告させてもらう」
没収試合になっても、彼女らにとっては所詮は練習試合なので痛くもかゆくもないはず。だけど監督にバレるのは彼女たちも避けたいのだろう。しかめた顔のまま「わかった」と返事があった。