白球を天高くかざせ乙女たち!
「私はどんな球でも打っちゃうけどね」
マウンドからホームベースに戻る。その途中、バッターボックスの手前で軽く素振りをしていた月がひとり言をつぶやいているのが聞こえた。
わざと僕に聞こえるように言った。
月は知っていたのか、それとも今のタイムの最中に気づいたのかも。
でも、今は審判の立場だから、自チームとはいえ、余計なおしゃべりはできない。
ボールパーソンの女子が新しいボールをファーストに渡し、それがピッチャーへと渡った。今日は1回から球審をしている僕に替えのボールを渡さないカラクリが解けたところで試合を再開した。
月が本日、3打数3安打を記録した。次は亜土の番だが、2打席ともタイミングがまったく合っていない。そろそろ誰か食べ物の名前が違うことを教えてあげないと……。でも、正しい食べ物の組み合わせと順番ってなんだっけ? とんかつ、焼き鳥、肉まん、たこ焼き、牛丼、焼き肉、うどん、お好み焼き……いやもんじゃ焼きだったか?
「亜土~、いなり寿司とから揚げ、フライドポテトじゃなかった~?」
おお、月、ナイス!
1塁から大きな声で亜土へアドバイスをしてくれた。
でも、ちょっとだけ違っていたかも?
「いなり寿司、から揚げ、フライドポテっト!?」
2ストライクまで追い込まれていた亜土はタイミングは完璧ではなかったが、ようやくバットに当てることができた。ライト方向にライナー性の低い弾道のまま、グラウンドの外へと消えていった。
「ファール」
今のは惜しかった。
打たれたピッチャーも口をポカンと開けて、打球が消えていった方向を見つめている。