白球を天高くかざせ乙女たち!

「タイム」

 九家学院高校側のタイム。中条先生が伝令を送った。
 控えの審判がいないので、球審である僕がタイムを宣言して時間を計り始めた。

「監督からの伝令です。『考えるな、イメージしろ』だそうです」

 時東さんがダッシュで西主将の元に駆け寄って伝えるが、この場合、相手捕手に聞こえないよう耳打ちした方が良かった。

 へぇ……。

 美術教師らしいアドバイスだが、今の状況であれば適切だと思う。

 西主将は、いまいち理解できていない顔をしている。明確な指示でなければ動けないタイプだろうな、きっと。

「早くバッターボックスに入って、無心になるよう集中して(・・・・)ください!」

 僕に言えるのはそれだけだった。球審として、プレーの遅延行為と見られそうな西主将のつぶやいてバッターボックスになかなか入らないことに対して警告を行う。警告を利用したアドバイスのつもりだが、うまく伝わったかな?

 球審である僕の指導に対して、バッターボックスに入ると明らかに構えが変わった。

 西主将は自分の考えに閉じこもる癖がある。それが行動に出ると相手キャッチャーの思うつぼ。読み合いでは、どうしても負けてしまうのは仕方ない。なら、この際、余計なことを考えなければいい。

 飛んできたボールを打つ。実にシンプルな考え方だ。でも、そのおかげで西主将は本来の構えに戻り、相手キャッチャーは西主将の思考を読めなくなった。
< 50 / 65 >

この作品をシェア

pagetop