御曹司は溺愛彼女を捕えて離さない
どこかで言ってくれるかとも思ったが、春香は朝目を覚ますと俺が寝てると思ってかそーっと俺の腕から抜け出した。

俺は手を引いて引き戻したいのをグッと堪える。

そして静かにドレスに着替えて春香は部屋を飛び出した。

俺はそのドアが閉まる音を聞いて我慢ならずベッドから飛び起き追いかけてしまう。

するとドアの向こうから、声を押し殺して泣いている春香のすすり泣く声が聞こえ、俺はその場に座り込んだ。

ドアに手を当てて。

春香…
頑張れ…

立ち上がれ。

俺の事なんて気にせず夢を叶えるんだ。

春香…
泣くな…

今は拭いてやれない。
今は抱きしめてやれない。

そんな事をしたら俺は、お前を攫ってしまう。
せっかくの憧れていた夢を潰してしまうから。

だからだよな。
だから、何も言わなかったんだよな。

春香…

愛してる。

俺の目から涙が零れ落ちた。

< 106 / 270 >

この作品をシェア

pagetop