トップオブザロック
目の前の観客達は、俺達に触れようと必死で手をのばしている。


きゃーきゃー奇声を発する女の子達の耳に、音楽なんてこれっぽっちも入っていないんだろう。


ボーカルなのに一言も声を発することなく口を動かすだけの俺。


そんな俺がちょっとサービスして観客の一人に微笑みかけると、会場は更にヒートアップした。


本当はそんなことしたくない。
だけどしなくちゃならない。

「ファンサービスは旺盛に。」

常にマネージャーから言われている。
ぶっきらぼうな俺は特に。


観客が、会場が熱くなればなるほど、俺の気持ちは目の前にある現実から離れ、体温を失っていく。

今まで数々のステージに立ってきて、何度自分を殺してきたか分からない。


俺、何やってんだろう?


飽きることなく自分に問いかける疑問。

答えは分かりきっている。


ただのアイドルごっこ。
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