私と彼の3年間
あれから数週間。ついに髪も抜け始めた。

鏡には相変わらず血色が悪くて頬が痩けた見るにも堪えない顔が映る。

とりあえず帽子かウィッグ?買った方がいいのかな。

手ぐしで梳かすと髪がごっそり抜ける。

そんな状況に中途半端に残る髪の毛が煩わしく思えた。

「先生、私ついに髪抜け始めちゃった。」

『治療初めて数週間だもんね。』

「帽子とかウィッグ被った方がいいかなぁ。」

『帽子もウィッグも色々あるからね、普段できない髪型とか髪色とかも楽しめちゃうかもよ。』

「確かに。先生の考え方前向きだなぁ。」

『あ…ごめん。今のは無神経だったよね。』

「ううん。いいの。友達なんだからそんな気遣わないで?」

いつの間にか先生と話す時の敬語も抜けきって、なかなか屋上には行けないけどよき友人として関係が続いている。

『そういえば、そろそろ退院なんだっけ?』

「うん。外来での治療に切り替えられるって。」

『よかったね。そしたら吉川さんに簡単には会えなくなるのか。』

「会えるよ!先生ごはん連れてってくれるんでしょ?」

『うん。連れてくよ。だから副作用落ち着いたら教えてね?』

「そうだね!教えられるようにしなきゃ。先生の連絡先って教えてもらえたりします?」

『…本当は患者さんに連絡先教えるのは禁止だから。これは僕と吉川さんの秘密ね?はい、これSNSのID』

「ありがとうございます。」

先生にトークアプリのIDを教えて貰って、先生が仕事に戻って1人になった病室で登録する。

「アイコンも空だ…先生ほんとに空好きなんだなぁ」

そう1人で呟いて先生のトーク画面を開く。

「吉川です。よろしくお願いします」

と送ったあとにぺこりとお辞儀する動物の可愛いスタンプを送った。

きっと忙しい先生から返信が来るのはもっともっと遅い時間だろう。

案の定返信は来ないままその日は眠りについた。
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