私と彼の3年間

初めての手術

ついに手術の日が来た。

今回の手術はお腹を切ってがんと転移したリンパ節を取り除くらしい。

この手術とこれからの抗がん剤の治療が上手く行けば私の生きられる確率は高くなる。

でも生きれたとしても私は子どもを産めない体になるのだ。

生きていられること、それが一番に決まっているけれどいつか私も自分の子を持ちたいと思っていた。

その夢は閉ざされるのかと思うとまた涙が出そうだった。

看護師さんの監視が厳しくなって病室から自由に出れずにいたから時間の流れがすごく遅く感じていた。

その分悪いことしか考えられなくなってしまってずっと泣いていた気がする。

正直今だって辛くてしょうがない。でも受けるしかないから、頑張るしかないから…

そんなことを思っていた時ドアをノックする音が聞こえた。

「失礼します」

穏やかな声、陽先生の声だった。

私はあれから結局1度も屋上に行けていなかった。

「吉川さん、お休み中ごめんね。全然屋上来ないから心配してたんだ。」

陽先生はどうやら私を心配してお昼の休憩時間に訪ねてきてくれたらしい。

『先生、ごめんなさいあの日無断で外に出たから看護師さんに心配かけちゃって、なるべく安静にしてたんです。』

「そうだったんですね…じゃあ今度から迎えに来ちゃおうかな!」

『えぇ!?先生が?』

「はい。医師が着いていれば看護師さんたちも許してくれるはずです。」

『でも…悪いです。先生の休憩時間ですよね?』

「私の休憩時間ですから何しようと私の自由ですよ。私が吉川さんとまた空を見たいだけですから…もしよければ一緒に見てくださいますか?」

『はい!もちろんです!』

「約束ですからね?今日の手術頑張ってきてくださいね。」

『手術のことなんで知ってるんですか?』

「ナースステーションで聞こえてきて。応援したいなって思って来ました。」

「不安も恐怖もいっぱいかもしれないですけど吉川さんの手術を担当する執刀医はベテランですから技術に関しては安心してくださいね。」

『…はい、ありがとうございます。』

「手術終わったらまた来ますから看護師さんに相談できないような辛いこととか不安なこととかあったら私でよければ聞きますから言ってくださいね。」

『先生…ありがとうございます。』

泣きそうだった。この先生は1患者の私にすごく寄り添ってくれる。

でも担当科も違う専門外の病気の私をどうしてここまで気にかけてくれるのだろうか。

理由は分からないけれど今の私にはその存在が入院生活唯一の希望だった。
< 5 / 16 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop