「生きること」
「あのぉ、色々ありがとうございます。」
わたしがそう言うと、男性はキョトンとした表情で「何が?」と言った。
「色々教えてくださったり、家まで紹介していただいて。」
「あぁ、気にしないで!あ、俺は村坂敬介!君は?」
「桐屋くる実です。」
「くる実ちゃんね!あ、俺のことは敬ちゃんって呼んで!」
楽しそうに話す彼は、わたしに向かって親指を立てて見せた。
「くる実ちゃん、何歳?」
「27です。」
「マジぃ?!俺と同じ年やん!」
話しやすい彼は、、、敬ちゃんは、嬉しそうに微笑んだ。
同じ年なら話しやすいし、敬ちゃんも馴れ馴れしいというか、わたしが警戒しないように気を遣って話してくれているのを感じた。
少し歩くと、敬ちゃんは一軒のアパートの前で止まり、そのアパートを指さして「ここだよ!」と教えてくれた。
扉は自動ドアで中に入ると、右側の方に窓口があった。
敬ちゃんは窓口に向かうと「クロダさーん!」と呼び掛けた。
窓口を覗き込むと、白髪を頭のてっぺんでお団子にしたおばあさんが座っていた。
クロダさんというおばあさんは、クロキさんと同じ黒いスーツを着ていた。
「なんだい、あんたか。」
面倒くさそうにクロダさんは言った。
「この子、桐屋くる実ちゃん!新人さんなんだ!俺の隣空いてたよね?そこ、くる実ちゃんに貸してもらっていいかな?」
敬ちゃんがそう言うと、クロダさんはあっさり鍵を差し出してくれた。
敬ちゃんはその鍵を受け取ると「サンキュ!」と言って、それからわたしに向かって「こっちだよ!」と真っ直ぐ先にある階段の方へ案内してくれた。