「生きること」

階段を上り始めると、敬ちゃんが「三階まで上るのキツイけど、一階よりは良いでしょ?二階と三階は人気があるから、たまたま空いてて良かったよぉ!」と言った。

そんな敬ちゃんに、わたしは「渋宮舞さんって知ってますか?」と聞いてみた。
敬ちゃんは、さっきまでの明るいテンションとは打って変わって、苦笑いを浮かべると「あぁ、舞ちゃんね。」と言った。

「舞ちゃんは気をつけた方がいいよ。クロキさん大好き人間だから、クロキさんと関わると目の敵にされるから。」
「さっき、クロキさんに住宅街まで案内していただいている途中で会って、睨まれてしまいました。」
わたしがそう言って苦笑いすると、敬ちゃんは「やっぱりね。」と笑った。

三階まで辿り着くと、奥の方へ歩き出し、敬ちゃんは303号室の前で立ち止まり「ここまだよ。」と教えてくれた。
どうやら、ここは305号室まであるらしい。

「俺は、隣の302号室。何かあったら、いつでも声掛けて!大体、ここに居るから。」
そう言うと、敬ちゃんはわたしに鍵を差し出した。

わたしは鍵を受け取ると、「ありがとうございます。」とお礼を言った。

敬ちゃんは「じゃあね!」と手を振って言うと、隣の302号室に入って行った。

わたしも小さく手を振り返し、それから303号室の扉の鍵を開けた。
扉を開けると中は真っ暗で、まず電気を点けようとスイッチを探した。
スイッチはすぐに見つかり、玄関のすぐ右側にあった。

わたしはスイッチを押し、電気を点けると部屋の中を見て驚いた。

その部屋は6畳程のワンルームでベッドと小さな一人用のテーブル、それからテレビしかなかったのだ。
わたしは部屋の鍵を締めると、殺風景な部屋に恐る恐る入り、まずはカーテンを閉め、部屋中を見渡した。


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