「生きること」

わたしは気付いた。
キッチンがない、お風呂場もない、トイレもない。
ベッド、テーブル、テレビだけで生活出来るのか?

わたしは思わず、隣の敬ちゃんの部屋に向かっていた。

302号室の扉をノックすると、すぐに敬ちゃんが出てきた。
そして、驚いた表情で「どした?」と尋ねてきた。

「教えてもらいたいことがあるんですけど、中に入ってもいいですか?」
わたしがそう言うと、敬ちゃんはちょっと照れたように「いいけど、女の子部屋に入れるなんて初めてで緊張するなぁ。」と笑って見せた。

そして、「どうぞ!」と中に促してくれた。

敬ちゃんの部屋は、わたしの部屋と全く同じ構造で、ベッド、テーブル、テレビしかなかった。

敬ちゃんはベッドに腰を掛けると「で、なしたの?教えてほしいことって。」と言った。
わたしはテーブルと向かい合うように座ると「この部屋って、キッチンとかお風呂とかないんですか?」と尋ねた。

すると、敬ちゃんは「あぁ」とでも言うように納得した表情を浮かべた。

「俺たちにキッチンも風呂も必要ないんだよ。もちろんトイレも。」
「どういうことですか?」
「俺たちは、生霊なんだよ。だから、食べる必要がない、風呂に入る必要もトイレも必要がないんだ。」

敬ちゃんの言葉に驚き、言葉が出てこなかった。
わたしたちは、生霊?

「だから、寝る必要もないんだけど、一応ベッドだけは用意してくれてるみたいだね。」
敬ちゃんはそう言うと、大の字になってベッドに寝転がった。
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