「生きること」

クロキさんは、わたしに駆け寄ってくると「さっきは、途中で居なくなってしまってすいませんでした。」と申し訳なさそうに謝った。

「いえ、仕事だったんですもんね。仕方ないですよ。」

わたしの言葉にクロキさんは目を見開くと、「誰かから僕のこと聞きました?」と言った。
わたしは何て答えたら良いのか分からず、少し困っているとクロキさんは察したのか「聞いたみたいですね。僕が怖いですか?」と優しく尋ねた。

クロキさんの問いにわたしは首を横に振ると、「いえ、怖くないです。」と答えた。

クロキさんはホッとしたように「良かった。」と笑顔を見せた。

「そういえば、お家は見つかりましたか?」
「はい、敬ちゃん、、、あ、村坂敬介さんって方に紹介していただきました。」

わたしがそう言うと、クロキさんは安心したように「良かった。敬介さんは良い方なので、信用して大丈夫ですよ。」と言ったあと、「敬介さんの紹介なら、クロダさんのところですね。あのアパートなら安心です。」と付け加えた。

「そうなんですか?」
わたしがそう尋ねると、クロキさんは「クロダさんは、僕の師匠なんです。」と言った。

「え!そうなんですか?!」
「凄い力のある死神だったんですよ。もう引退してしまいましたけど、僕が尊敬している死神です。」

クロキさんはそう言って微笑むと、左腕に付けている時計ようなものをわたしに向かって見せてくれた。

「これは、クロダさんから受け継いだ僕の大事な物なんです。困ったことがあれば、クロダさんを頼るといいですよ。もちろん、僕を頼っていただいても大丈夫ですけどね。」

そう言ったあとでクロキさんは「あ、そうだ」と何かを思い出したように言い、「くる実さんに僕のとっておきの場所を教えますね。」と言った。
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