「生きること」
「ついて来てください。教えるのはくる実さんが初めてなので、誰にも秘密ですよ?」
クロキさんはそう言うと、微笑んで見せて歩き出した。
わたしは、「くる実さんが初めて」と「秘密」という言葉にドキッとしながら、クロキさんのあとについて行った。
住宅街を真っ直ぐ歩いて行くと、緑が茂る林というより森のようなところに辿り着いた。
クロキさんは一度こっちを振り返り、「この先です。」と言うと、再び歩き始めた。
無風で微動だにしなかった木々たちが、クロキさんが通ると優しくサラサラと揺れだした。
柔らかな風に揺られ、緑の良い香りがする。
わたしは、自然に触れたのが久しぶりなことに気付き、緑の香りを大きく吸い込んだ。
すると、目の前に大きな湖が姿を現した。
青く透き通った湖に、つい「綺麗、、、」という言葉が溢れた。
クロキさんは「ちょっと待っててくださいね。」と言うと、湖の目の前でしゃがみ込み、掌を湖にかざした。
それと同時に湖がキラキラと輝き出した。
わたしは、その神秘的な光景に息を呑んだ。
「くる実さん、手を出してください。」
クロキさんはそう言うと、わたしに手を差し出した。
少し照れたが、わたしはクロキさんの差し出した手をそっと握った。
その瞬間、一瞬にしてさっきの湖から場所が変わったのが分かった。
そして、目の前の光景に言葉を失う。
「凄い、、、!」
目の前に広がる夜空には、今までに見たこともないほど、大きな満月が浮かんでいたのだ。
どこも欠けることがない、真ん丸い満月だ。
「くる実さんにこれを見せたかったんです。」
クロキさんはそう言うと、わたしの隣に来て、一緒に大きな満月を見上げた。