「生きること」

「何だ、あんたかね。」
舞さんの姿を見て、クロダさんは言った。

舞さんは気まずそうに黙り込むと、「だって、この人が、、、」と、さっきの勢いはどこへいったのか?という程、小さな声で言った。

「桐屋さんにここを紹介したのは、敬介だよ。勝手に勘違いするんじゃない。あんまり騒ぎを起こすと、現実世界に戻すよ。」
クロダさんが淡々とそう言うと、舞さんは慌てて「ごめんなさい!」とクロダさんに向かって謝り、それからわたしを睨みつけると、走って去って行った。

それを見送ったクロダさんは、「敬介、桐屋さんを守ってやるんだよ。」と言い、アパートの中に戻って言った。
わたしはその後ろ姿に「ありがとうございます!」と声をかけたが、クロダさんは反応しなかった。

「大丈夫だった?」
心配そうに敬ちゃんが尋ねてきた。

わたしは「何とか、、、」と苦笑いを浮かべた。

「あの人、強烈だよなぁ、、、。クロキさんのこととなると、目の色変わるからね。
とりあえず、部屋戻ろうか。」
敬ちゃんがそう言い、わたしはコクリと頷くと、敬ちゃんと一緒に三階まで上がった。

そして、303号室の前に辿り着くと、敬ちゃんは「一人で大丈夫?」と言った。
わたしが「大丈夫です。心配していただいて、ありがとうございます。」と言うと、敬ちゃんは少し寂しそうな表情を浮かべ、「何かあったら、頼っていいからね。」と言い、自分の部屋へと入って行った。

わたしは、敬ちゃんの寂しそうな表情に頼った方が良かったかなぁ、、、と少し後悔し、自分の部屋に入った。
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