「生きること」

敬ちゃんは、慌てて涙を拭うと「あー、目から鼻水出てきた!」と誤魔化した。
わたしが「目から鼻水なんて出ません。」と笑うと、敬ちゃんは「出るんだよ!」と言い張って笑った。

そして、二人で顔を見合わせて笑い合ったのだった。


家への帰り道。
敬ちゃんはスッキリしたような顔をしていた。

「そういえば、あのとき何でわたしに声掛けたの?」
わたしの隣を歩く敬ちゃんに、わたしは初めて会った日のことを訊いてみた。

「あのとき?」
「ほら、初めて会った日。わたしを見て、声掛けてきたでしょ?」

敬ちゃんは思い出したように「あぁ、、、」と言うと、「勝手にだけど、くる実ちゃんが仲間のように感じたから。」と言った。

「仲間?」
「うん、何か、、、もうどうでもいい、そんな声が聞こえるような寂しい顔をしてたんだ。だから、つい声掛けちゃった。」
敬ちゃんは、そう言ったあと「逃げられちゃったけどね。」と言って笑った。

「だって、あのときは、、、!」
「わかってるよ。怖い目に遭ったあとだったんだもんね。でも、くる実ちゃんと仲良くなれて良かった。初めての友達。」

敬ちゃんは照れくさそうに笑うと、わたしに手を差し出し「これからも仲良くしてください。」と言った。

わたしはその手に応えるように握り締めると、「こちらこそ。」と微笑んだ。

敬ちゃんは、「ありがとう!」と言うと、急に胸のあたりに手を当て「何だろう、、、何か不思議な気持ち。初めての感覚。」と言った。

「え?大丈夫?」とわたしが心配すると、敬ちゃんは「これって、、、恋かも。」と言って難しい表情を浮かべたあと、すぐにふさげたように「なんつって!」と言って笑った。

冗談でも照れたわたしは、「もう〜」と言いながら、敬ちゃんにつられて一緒に笑い合った。
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