「生きること」

わたしは湖がある森の入口まで行くと、一度立ち止まり「クロキさんに会えますように。」と心の中で願った。

そして、森の中を進み、湖のところまで辿り着いた。
わたしは湖の手前でしゃがみ込むと、自分の掌を見つめた。

クロキさんから力を少し分けてもらったんだよね?

半信半疑に思いながら、わたしはクロキさんと繋いだ方の手を湖の水面にかざした。

すると、あのときと同じように湖が光り出し、一瞬にして場所を移動したのが分かった。

「え?」

目の前には、あのとき見た大きな満月、、、と、そこには満月を眺めるクロキさんの姿があったのだ。

クロキさんは、こっちを振り向くと「あ、くる実さん。会えて良かった。」と言い、微笑んで見せた。

「クロキさん、、、どうしてここに?」
わたしが驚きながらそう言うと、クロキさんはヘヘッと笑い、「恥ずかしい話なんですが、、、」と言ったあと、わたしの目の前までゆっくり歩み寄って来た。

そして、「僕が必要なときは、ここに来てください、なんて、、、くる実さんに格好いいこと言っておきながら、くる実さんを必要としていたのは僕でした。」と、自分格好悪いなぁ、とでも言いたそうに苦笑いを浮かべて言った。

「会いたかったです。」

そう言って、クロキさんは優しくわたしを引き寄せ、抱き締めた。
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