「生きること」
わたしは突然のことに驚き、この両手はどうしたらいいの?と両手の行き場に戸惑ったが、クロキさんの温もりに心が解れ、わたしもそっとクロキさんを抱き締め返した。
温かい、、、
人の温もり、温かさを感じるのが久しぶりでとても心地が良く、クロキさんの腕の中でわたしは目を閉じた。
「クロキさん、、、」
わたしはクロキさんの腕の中でクロキさんの名前を呼んだ。
耳元で「何ですか?」とクロキさんの優しい声が響いた。
「わたし、生きていて良いんですかね、、、。なんか、わたしがいると、みんなの迷惑になるのかなって、、、」
わたしがそう言うと、クロキさんはゆっくりとわたしを離し、「くる実さんは、居なくならないでください。」と言った。
そして「生きていてください。」と、わたしの目を真っ直ぐ見て言ったのだった。
わたしはクロキさんの言葉に涙が溢れ、「はい、、、」と返事をした。
クロキさんはわたしの涙を人差し指で拭うと、私に微笑み掛けてくれた。
そして、わたしもクロキさんに微笑み返したのだった。
「そういえば最近、忙しんですか?」
自分でも涙を拭ったあと、クロキさんにそう訊くと、クロキさんは苦笑いを浮かべ、「まあ、、、そうですね。ここの住人が突然増えてしまって。」と困った表情を浮かべながら言った。
「でも、何で突然、、、」
「現実世界で何か大きな問題が起きてるんでしょうね。それで、ここに来る人が急激に増えたんだと思うんですが、なかなか難しい問題があって、、、。」
「難しい問題?」
わたしはそう訊くと、クロキさんはいつもの優しい表情から険しい表情に変わり、それから「最近、舞さんに会いましたか?」と言った。
「さっき会いましたけど、、、アパートの前でわたしを待っていたみたいで、、、」
「もう分かっているかもしれませんが、舞さんには気を付けてください。接触を控えるように過ごしてくださいね。」
クロキさんはそう言うと、自分の左手首についている時計のようなものを外し、わたしの左手首に付けた。
わたしは驚き、「え!これクロキさんの大事なものじゃないですか!」と言った。
クロキさんは真剣な表情のまま「何かあったら、このボタンを押してください。」と言い、時計の中央にある丸いボタンを指差した。
「くる実さんに何かあったら困るので、これは預けておきますね。ピンチのときは必ずボタンを押してくださいよ?僕がくる実さんを守りますから。」
クロキさんは力強くそう言った。