「生きること」
ベンチに腰を掛けると、わたしは「あの、さっきから質問ばかりで申し訳ないんですけど、さっきのおじさんはどこにいったんですか?」とクロキさんに尋ねた。
クロキさんはわたしの隣に腰を掛けると、「あぁ、さっきの焦げ茶色のジャケットの男性ですね。現実世界に戻ってもらいましたよ。」と答えた。
「僕は、ここを居場所を無くした人たちにとって過ごしやすい場所にしたいんです。でも、残念なことにあの男性のように自分勝手な行動を取る方もいらっしゃいます。そのときは、僕の判断で現実世界に戻っていただいてるんです。」
クロキさんはそう言うと、自分の左手をわたしに見せるように出した。
「僕の左手を鳴らすと、現実世界に戻すことができるんです。」
わたしはあのときのことを思い出した。
確かにパチンッという音が鳴ったあとで、あの男性は居なくなっていた。
「そうゆうことだったんですね。でも、現実世界に戻すって、、、じゃあ、ここは?現実世界ではないってことですよね?」
わたしがそう訊くと、クロキさんは少し難しそうな表情を浮かべた。
「んー、何て言ったらいいのかなぁ。現世とあの世の間、、、みたいな感じですかね?」
「現世とあの世の間、、、」
「だから、この場所から現実世界に戻ることも出来れば、あの世に行くこともできるんですよ。」
「え、、、」
クロキさんは優しく説明してくれたが、「あの世」と聞いて少し怖くなる自分がいた。
「あ、でも誰彼構わずあの世に送ったりはしていないので、安心してくださいね」
わたしの反応を見て、クロキさんは慌てて説明を付け加えた。
そして、お互い様顔を見合わせて苦笑いを浮かべたのだった。