「生きること」

すると、どこからか女の人のイヤらしい声が聞こえてきた。
ふと喘ぎ声がする方に目をやると、公園の向こう側のベンチで如何わしい行為をしている男女が目に入った。
よく見ると、男性側はさっきわたしを見て「ちょっと違うな」と言った奴だった。
女性の大きな胸にしゃぶりつき、腰を動かしている。

男はみんな、大きな胸が好きなのね。
そうじゃない人もいるだろうが、自分の胸にコンプレックスがあるわたしはそう思わざるを得なかった。

「ちょっと場所を移しましょうか。」
クロキさんはそう言うと、ベンチから立ち上がった。

「あ、はい、、、」
「くる実さんも少し疲れたんじゃないですか?少し先にアパートがあるので、ご案内しますよ。」

わたしもベンチから立ち上がると、歩き出すクロキさんの後に続いた。
公園から再び暗い路地裏のような細い道を歩く。

アパートかぁ。
わたしはいつまでここに居れるんだろう。
ずっと居ていいのかなぁ、、、それか、もう生きるのをやめてもいいかなぁ。

スラッとしたクロキさんの後ろ姿を見ながらそんなこと考えて歩いていると、わたしの後ろから「クロキさーん!」という、ちょっとわたしが苦手なタイプのような女の子らしい女性の声が響いてきた。

足を止め振り返ってみると、そこにはやはりわたしの苦手そうな長い巻き髪の女性が腕を横に振りながらこちらに向かって走って来ていた。

その女性はわたしたちに追いつくと、わたしを警戒したような表情で睨み、それからクロキさんの腕に絡みついた。

「舞さん、何かありましたか?」
クロキさんは、優しくその女性のことを舞さんと呼んだ。

「クロキさんに会いたくて。」
甘えたような声でそう言うと、舞さんは先程とは違う低い声で「この人誰ですか?」とそう言い、わたしを睨んだ。
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