ワケありニートな年下ワンコを飼いました
 私の自宅は、最上階10階の角部屋。ガクくんは、ホテルのようなエントランスと廊下に面食らっている様子だった。

 かわいいな。やっぱり、耳としっぽが見えそう。ふわふわした頭を、思いきり撫でたい。

 そんな気持ちをグッと堪えていると、玄関前で、持っていてくれた私のバッグをガクくんが渡してくれた。

「それじゃあ、僕はこれで」
「ねぇ」

 咄嗟に、立ち去ろうとするその腕をとって、玄関に引き込んだ。そして、驚いた表情を見せるガクくんの肩にもたれかかる。

「もう少しだけ……付き合ってほしいんだけど」
「……彩女さん。意味、分かって言ってます?」

 ガクくんの声色が変わった。

 別に、人肌を求めていたわけではない。だけど、充実した気持ちが落ち着くにつれて顔を出してきた心細さが、私を突き動かしたのだと思う。

 少し体を離すと、ヒールを履いた私とほとんど変わらない高さにあるガクくんの顔が近づいてきた。
 他人の唇の感触。何年ぶりだろう。こんなに温かかったっけ。

 彼の首に両腕を回して後頭部に手を添えると、柔らかい髪が指に絡みつく。

「ふわふわの犬みたいで、かわいい」
「それじゃあ……」

 ガクくんが、自分の唇をペロリと舐める。

「彩女さん。僕を飼ってくれませんか?」

 ……飼う? 飼うって、どういうこと?
 なにかを言う前に、また唇を押しつけられた。

 キスはどんどん深くなる。まだ靴も脱いでいない。
 ふたり分のアルコールが混ざり合うみたいで、また頭がクラクラとしてきた。
< 15 / 35 >

この作品をシェア

pagetop