ワケありニートな年下ワンコを飼いました
「うん、美味しい!」
「本当に?」
「ちゃんと対価を払っているんだから、お世辞は言いません。ガクくんの味つけはとても優しいし、調味料に頼っていない感じが、すごく好きよ」

 すると、大きく見開かれたガクくんの瞳が、みるみる潤んでいく。

「わ、私、なんか変なことを言った?」
「あ、ごめんなさい。めちゃくちゃ感激して、つい」

 あ、よかった。嬉し泣きなのね。
 ガクくんは服の袖でゴシゴシと目元を拭いたあと、照れ笑いを浮かべた。

「自分の料理を美味しく食べてもらうのって、こんなに嬉しいんですね。ありがとうございます、彩女さん」

 とても真っすぐで、キラキラした笑顔。胸の奥が締めつけられて、思わず彼の頭を撫でそうになった。

「ガクくんの手料理は、心を込めて作ってくれたのが分かるのよ。料理下手な私に言われても、説得力がないかもしれないけど」
「そんなことないです。彩女さんは、不器用なだけでしょ。味覚はマトモというか、鋭いと思います」
「そ、そう?」
「僕は素材の味をできるだけ引き出したいので、化学調味料を最小限にしているんですよね。薄味にしているわけじゃないのにそれに気がつくんですから、結構鋭いですよ。さすがです」
 
 あら、なぜか逆に私が褒められてしまったわ。やっぱりガクくんって口が上手いというか、相手をいい気分にさせるのが得意なのかしら。
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