前世生贄王女だったのに、今世ではとびきりの溺愛が待っていました ~片翼って生贄の隠語でしたよね?~

 ***


「じゃあ、まずは君の住む場所だけれど……」

 早速来たわね。前世では嵌め殺しされた窓と大きめなベッド、椅子とテーブル。それだけの部屋だった。完全に軟禁状態で、窮屈で居心地も悪かった。
 今世でそんな部屋を案内されたら、真っ先に文句を言ってやる!
 そう息巻いたのだが──。
 案内された部屋は螺旋階段を上がった階で、一人部屋にしてはちょうどいい広さだ。淡い碧色のベッドに、勉強机、テーブルとソファ、本棚と一通りの調度品が揃っていた。どれも豪華というよりも愛らしい。

「どうかな?」
「か」
「?」
「かわいいです。すごく! レースのカーテンも蔓草のようにお洒落で、淡い色だけれど温かい感じが凄く好きです」
「よかった。欲しい物や必要な物もあるだろうから、数日後には買い出しに街に出てみようか」
「街!? 行きたいです!」

 思わずはしゃいでしまったのだが、ルティ様は目を細めて「うん」と笑みを返す。綺麗な顔立ちの人だったけれど、笑うともっと素敵だわ。

「とりあえず、シズク殿の服を用意した方がいいから、商人を呼んで取り寄せよう」
「商人を……呼ぶ?」
「うん。呼びベルという魔導具があってね。それがあると月の何回は商人を呼び出せるのさ」
「(私が生きていた時代にはなかった物だわ。魔導具の普及も十六年で大きく変わったのね。あれ、でもルティ様は三百うんぬんとか言っていたような?)……うーん」
「シズク殿?」
「あ、いえ……えっと魔導具とは?」
「ああ、君の世界では馴染みがないか。……魔法鉱石というものがあって、それがエネルギーとなってあらかじめ刻印された術式に沿った効果を発揮するんだ。さきほどのポットでお湯を沸かすのもそれかな」
「私の世界では電気が魔法の代わりだったようです。だから置き換えると、なんとなく分かった気がします」

 ルティ様との会話は嫌いじゃなかった。どんな質問にも馬鹿にしたり呆れたりせず、ちゃんと答えてくれる。やっぱりこの人は私の知っているヴィクトル様じゃないのだわ。
 まだ結論は出せないけれど、よく似た人なのかもしれない。
 そう私自身が思いたかっただけだった。でないと私の前世はなんだったのか、と黒い感情が噴き出しそうになる。
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