前世生贄王女だったのに、今世ではとびきりの溺愛が待っていました ~片翼って生贄の隠語でしたよね?~
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森での薬草採取は結構楽しい。薬草の見分け方もルティ様が丁寧に教えてくれるし、季節によって咲き誇る花を眺めて、散策もできて楽しい。
森には魔物や獣が出ることもあるけれど、しっかりと武器や待避用転移魔導具を常備していれば大丈夫というか、ルティ様は思いのほか過保護だった。
「ルティ様」
「なんだい?」
「危険があるかもしれないのは分かっているのですが、毎回手を繋ぐ必要あります?」
「私がシズク殿と手を繋いでいると、心から安心するから」
「……まさか自分の心の安定だったとは」
「だってちょっとでも目を離したら、いなくなってしまいそうだからね」
それは前世のこと?
それとも──?
「私、そんなに落ち着きがないですか?」
「落ち着きがないとかじゃなくて、好奇心が強くて目をキラキラさせて、突っ走ることあるでしょう?」
「う……」
「この間だってミヅハ通りにできたジェラート屋や、温泉地区の足湯に興味津々だったし」
「なぜそれを……」
「必死で見ないようにしていたから。今日の帰りにどっちも寄ってみようか?」
「え」
この世界で甘い物は高価だ。女子高生が気軽に買えるような値段ではない。だからルティ様の提案に目を輝かせたのだが、さらなる爆弾を投下した。
「可愛い。そんなに喜んでくれるのなら……家に帰る途中で、毎日甘い物を買ってあげようか」
「甘い物……毎日? 毎日!?」
「うん。その代わり、私と一緒が条件だよ。前にも言ったけれど、元の世界と違って女の子が一人で歩いていたら速攻で連れ去られるからね」
「(異世界の治安性……! 日本って本当に平和で素晴らしい国だったのね。衣食住の水準が高いし……一人歩きだって普通だもの)……もちろんです。お出かけの時はルティ様と一緒です」
「うん、私と一緒だよ」
ルティ様はとてもご機嫌で、ジェラート屋で好きな物を選ばせてくれた。やっぱり金額を見ると高い! 元の世界でアイスは高くても四百円ぐらいだけれど、この世界でアイスは超高級品で一週間分のパン代って、庶民にとったら高価だわ。
でもいつかクレープとか甘い物を食べたいって思っていたから、凄く嬉しい!
「私のもシズク殿が選んで、二人でわけっこしようか」
「え、いいの!?」
「ははっ──冗談、え」
「え」