前世生贄王女だったのに、今世ではとびきりの溺愛が待っていました ~片翼って生贄の隠語でしたよね?~
 クスクスと無邪気に笑う少年は、白銀の長い髪の聡明な姿をしている。私と違うとしたら頭に二本の角と狐耳があり、三つの尾があることだろう。その姿も神々しく芸術的な美しさだが、私に向ける視線は鋭い。気安い口調で話しつつも、手には私の腹部を貫いた剣を握っていた。

「お前は《比翼連理の片翼》などではなかった。《呪われた片翼》、お前が来てから兄様はどんどん可笑しくなっていった。政務でお忙しい兄様は僕との時間を大事にして下っていたのに、お前が来てからお前だけしか見なくなった」
「……それが私の……せいだと?」
「そうだ。僕らを捨てた神々の模倣品である人族は、魔力を持って生まれないから理解しない。そして我らにとって片翼である事がどれだけ重要か、お前は知らない。浅ましい人族。そこまでして我らの恩恵を望むのか。理を捻じ曲げて求愛紋を得たお前は《呪われた片翼》だ」
「《片翼》……」

 憤慨する義弟君に口元が歪んだ。
 ある日突然、あの方に見初められた。ただそれだけの理由でこの天狐王国に連れてこられて、求愛紋を押し付けられて、全てを奪われた。
 そうやって強引に結ばれたことを、この国の人たちは『素晴らしい』と『名誉なことだ』と言って押し付けた。一方的な、ううん、アレは愛なんかじゃなかった。体が生存本能として求めているだけで、心から幸せだと感じたことなんてない。

 毎夜毎夜、甘ったるいお香に包まれて、現実か夢か分からない時間を繰り返す。体だけを重ねるだけの体の関係のどこが、片翼の素晴らしさなのかしら。それはどれだけ美しい人でも、高位な人だったとしても、同じ。
 その人を思う心がなければ、ただの苦痛でしかないのに。それにあの方が愛しているのは、道具としての私の器だけ。

 暴走しそうな魔力を吐き出すための行為に、適合するのが片翼である器だけだから。
 膨大な魔力消費と、子を得るための道具であって、望んでいるのはブリジット(私自身)ではない。よくある政略結婚と変わらない、政治の道具(生贄)でしかない。
 そこに愛はない。それでも祖国が栄えるのなら──耐えられたのに。

「私が……望んで来たわけでも、願ったわけでもないわ。……貴方たちは口を開けば『片翼だから』と言う。《片翼》であれば何でも許されるこんな国なんて来たくなかった。私は祖国で、家族と私を心から思ってくれる人と一緒になりたかった……っ! 貴方たちが一方的に《片翼(生贄)》を望んだくせに!」
「は? お前が無理矢理、兄様の《片翼》だと喚いて、この国に押しかけたのだろう」

 どうしてそう解釈されるのかしら?
 意味が分からないわ。
< 7 / 14 >

この作品をシェア

pagetop