あなたの想いを知りたいから
第三話
●飛美奈の家。飛美奈。ソファに横たわり、携帯電話を見つめている。
●飛美奈の携帯電話に細間からのメッセージが次々と表情される。
細間【飛美奈、お話しよ!】【学校がないと飛美奈と会えないからさみしいな〜】【飛美奈って好きな食べ物あるの?俺の好きな食べ物は、ハンバーグにお寿司にラーメンに…】【飛美奈って休日は何しているの?俺はずっとゴロゴロしているけど…】
●飛美奈。苦笑いしながらメッセージを見る。
飛美奈(こんなにいろいろ聞かれたら、どれから答えればいいのかわかんないよ…。メッセージでの会話なら私でもできる気がしたけど、無理かもしれない…)
細間【もしかして俺がいっぱい聞いたから混乱してる?】【ごめんごめん!つい聞きたいことが溢れちゃた】
飛美奈(細間先輩、私の状況を瞬時に理解した!?…まるでエスパーだよ)
飛美奈【ごめんなさい、実はそうなんです】【なんでわかったんですか?】
細間【既読が即付くのに返事がないから】【もしかしたら…と思ってね】
飛美奈(そういえば、メッセージを確認したら相手がわかるんだった。忘れてた…)
細間【俺から話を振るのはあんまり良くないかもね】【飛美奈は何か聞きたいことある?】
飛美奈(細間先輩に、聞きたいことか…、そうだ)
飛美奈【あの、私と一緒にいて大変じゃないんですか?】
細間【どういうこと?】
飛美奈【だって、その…】
●飛美奈の回想。飛美奈。駅の階段を降りてくる。
●細間。飛美奈に気づき、右手を大きく振る。
細間「飛美奈!こっちこっち〜!」
●飛美奈。声のする方を見ると、細間と目が合う。
細間「ひぃいみぃいなぁあ!ここだよぉ〜!」
●飛美奈。顔を赤くして、細間のもとへ走る。
飛美奈「あっあの、あんまり大声で名前を呼ばないでください。その…恥ずかしいので」
細間「ごめんごめん!つい嬉しかったからさ」
●飛美奈。周りを見渡す。
●周りの人たちが飛美奈と細間を見ている。
飛美奈「大声出すから、色んな人に見られちゃってるじゃですか…」
細間「えっマジ!?早いとこバスに乗っちゃお」
●飛美奈と細間。一緒にバスに乗る。
●細間。バスの席に座る。
細間「隣、来ていいよ」
飛美奈「は、はい…」
●飛美奈。少しおどおどしながら細間の隣に座る。
●飛美奈と細間。バスを降り、並んで学校までの道を歩く。
●周りの生徒達が不思議そうに飛美奈と細間を見ている。
飛美奈(昨日は清々しい気分でここを走っていたんだけど…。細間先輩と一緒にいるとなんかいろいろ緊張しちゃうな…)
細間「飛美奈、大丈夫?」
飛美奈「あっ、いや、その…」
細間「安心して。何かあったら、俺が守ってあげるから」
飛美奈「はっ、はい…」
飛美奈(細間先輩。隣にいると、すごい安心感あるな。…私、この道はずっと1人で歩くんだと思っていたけど、誰かと一緒に歩くと、なんだか心が暖まるな…。それにしても…)
●飛美奈。周りを見渡す。
●周りの生徒達が睨むように飛美奈と細間を見ている。
飛美奈(やっぱり私、みんなに見られてるよ…)
飛美奈【私と一緒にいると、変な目で見られて大変じゃなかったですか?】
細間【そんなことはなかったよ。いろんな人に見られるのは昔からだったし】
飛美奈(細間先輩は学校一の人気男子だって沙良さんが言っていたけど、小さい頃からそうだったのかな?)
細間【飛美奈。もしかしてまた大変なことでもあった?】
飛美奈【特にはないですけど…】
飛美奈(大変なことか…)
飛美奈のモノローグ「確かに細間先輩と一緒にいると、いろんな人に見られる。きっとみんな『なんであんな子が一緒にいるんだろう?』って思っているはずだ。だけど嫌味を直接言われたり、嫌がらせのようなものを受けたりはしていない。細間先輩が言っていたように、『1年生の友達ができた』と周りの人たちが理解したからだろうか…?そういえばあの日以来、沙良さんたちも話しかけて来ない。私のことを気にかけて、話しかけないようにしているのかな…?」
飛美奈【学校の人たちが私のことをどう思っているのか気になります】【嫌なふうに思われていたらどうしようかと不安なんです】
細間【大丈夫だと思うよ】【俺も『いつも一緒に登下校しているあの子誰なの?』って何度か聞かれたけど『友達だよ』ってちゃんと言っておいたし】
飛美奈【そうでしたか、なるほど】
●飛美奈。安堵のため息をつく。
飛美奈(はぁ、よかった。とりあえず学校の人たちは私のことを不審には思っていない感じなんだね。でも今の返事の仕方だと、まだ不安に思っていように勘違いさせちゃったかな?でもここで何か返したら、不安なのを誤魔化しているように見えちゃうし…)
細間【飛美奈!】
飛美奈【はい、なんですか?】
細間【今日から連休なんだし、ゆっくり休みなよ】
飛美奈【はい、そうしようと思います】
●飛美奈。携帯電話を手前にあるテーブルに置き、ソファに横になる。
飛美奈(連休か…。今日を含めて5日間。課題とかも出てないわけだし、いつも通り家でダラダラしようっと)
●真夜中。飛美奈の家の前に帽子男とロボットが現れる。
ロボット「コノ時間帯ナラ、周リニ誰モイナイナ」
帽子男「まあ真夜中だしな」
ロボット「サッサト始メロ」
帽子「わかった。…ところで、なんでお前がついて来ているんだ?」
ロボット「万ガ一人ガ現レタ場合、相手ヲ気絶サセルタメダ」
帽子「お前、やり方がなんかスマートじゃないな。まあいいよ」
●帽子男の体が液体化していく。
●液体化した体が側溝に入り、排水管を逆流して飛美奈の家に入り込み、家の中で細かく散り散りになる。
●細かくなった体の一つから目玉が浮き上がる。
帽子男(しばらくは、ここで監視か…)
●飛美奈の家の飛美奈の部屋。飛美奈。ゲームのコントローラーを両手に持ち操作する。テレビに格闘ゲームの画面が映っている。
●飛美奈が操作するキャラが、派手な必殺技を放ち相手キャラを倒す。
●飛美奈。ドヤ顔でガッツポーズをとる。
飛美奈のモノローグ「正直、自分の人生で一番楽しい瞬間って、これだと思う」
飛美奈「よし!このまま、17連勝しちゃおう…」
飛美奈のモノローグ「とはいえ、自分ができるのはCPUとの対戦のみ。オンラインプレイは相手が人間って考えるとなんか怖くなっちゃうし、ストーリーモードもキャラと会話するシーンがあったりしてできない。架空のキャラ相手でも恐怖心が出るなんて、さすがに私もびっくりした」
飛美奈(そう考えると、細間先輩と会話できているのって本当に奇跡だよね。細間から出るオーラ…というか、空気感が私の恐怖心を抑えてくれているのかな…?)
●飛美奈。コントローラーを再び構える。
飛美奈(連休も明日で終わりだし、今日も遊びまくろう)
●飛美奈。コントローラーでキャラを操作し相手を攻撃していく。
飛美奈(結局いつもと同じような連休になっちゃったな。まあ1人で出かけようものなら、絶対耐えられずに倒れちゃうだろうけど…)
●飛美奈の携帯電話から着信音が鳴る。
飛美奈(誰?…って、私に電話してくるのって細間先輩しかいないか。いつもはメッセージなのに、電話なんて珍しいな…。そういえば、あの日を最後に連休中は特に連絡来なかったな。思い出してみれば、いつも細間先輩が何か話を振ってくれるけど、私から何が話をしようとしたことなかったな…。ときどき私から何かメッセージを送ったほうがいいのかな…?でも…、話の始め方ってどうすればいおかわかんないし…。って、電話に出なきゃ!あーでも今試合が劣勢で気を抜いたら負けそうだし…、でも電話はすぐ出たほうがいいと思うし…、わぁぁぁぁ…)
●飛美奈の操作していたキャラが相手の攻撃を受け敗北する。
飛美奈(そんなこと考えていたら、負けてた…。うぅ…私の17連勝がぁ…)
●飛美奈。電話に出る。
飛美奈「はい、もしもし…」
細間「飛美奈、今大丈夫?」
飛美奈「はい、大丈夫ですよ」
細間「飛美奈…、その…さ。明日、予定空いてる…?」
飛美奈「予定…?」
飛美奈(予定も何も、ずっとゲームする予定だったし…)
飛美奈「特には、無いですから、…あ、空いてますよ」
細間「よかった〜。実は、その…ね。その…」
飛美奈「な…なんですか?」
細間「……飛美奈!」
飛美奈「はい!」
飛美奈(びっくりしたぁ…)
細間「明日、2人で出かけない?」
飛美奈「……え?」
飛美奈(出かける…?明日、細間先輩と2人で…。え?………ゑ!?)
●飛美奈。少しの間硬直する。
飛美奈「わ、わ、わた、私と、ふ、2人で、ですか!?」
細間「飛美奈にはハードルが高いことだってわかってる。外は人多いもんね。でも俺がついているからさ、大船に乗った気で…」
飛美奈「いや、その…。そういう問題では…」
細間「もしかして…、無理、かな…?」
飛美奈「い、いえ、そういうわけでは…」
飛美奈(細間先輩と2人で…か。緊張するとか、そういうレベルじゃ済まなさそう…。でも、今まで他人の近くにいることすらできなかった私が、細間先輩となら大丈夫だったたんだ、できるはず。…それに、細間先輩と出会ったことで、孤独に生きるはずだった私の運命が、今変わりつつある。今の私は、前へ進まなきゃいけない気がする)
飛美奈「大丈夫ですよ、明日出かけられます!」
細間「よかった〜。いやぁ、飛美奈と一緒に遊べるなんて、楽しみだな〜」
飛美奈「ところで…、どこにいく予定なんですか?」
細間「ジュゴウンランド。ちょっと遠いところだけどね」
飛美奈(ジュゴウンランド…。数年前にできた人気スポットの遊園地…。確か上りの電車の一番端の駅の街にあるんだよね)
飛美奈「テレビとかでは見たことありますけど、私は実際に行ったことないです」
細間「実は俺もなんだよね。行き方わかる?」
飛美奈「はい、大丈夫です」
細間「じゃあ入り口の前に、午前10時くらいに集合ね」
飛美奈「10時ですね。わかりました」
細間「明日が楽しみだな〜。いっぱい遊ぶぞ〜!じゃあ飛美奈、また明日〜」
飛美奈「はい。じゃあ、明日…」
●通話が切れる。
●飛美奈。携帯電話をゆっくりと置き、魂が抜けたような顔をして固まる。
飛美奈(さらっといくって言っちゃったけど、いざ思うとなかなかにとんでもない約束をしてしまったのでは!?遊園地ってかなり人がいるよね…。細間先輩が一緒とはいえ、私の心臓持つかな!?細間先輩嬉しそうだったから、今更断れないし…。うぅぅ…)
●飛美奈。コントローラーを手に持つ。
飛美奈(とりあえず、あれを観て落ち着こう…)
●飛美奈。ゲーム画面の「隠しムービー」という項目を選択し、その中の1つのムービーを選択し再生する。
ゲームの音声「あらやることが科学で解決されるこの時代に、不可解な事件が巻き起こっていた。人々が慌てふためく中、どこからともなく現れた不思議な男が1人。その名はハコ之ハコ麻呂。人は彼を、魔術師と呼ぶ!」
●画面に映るキャラたちが踊りだす。
ゲームの音声「悪霊退散!悪霊退散!…」
飛美奈(助けて、ハコ麻呂…)
●翌日。飛美奈。家のドアを開け、駅に向かって歩く。
飛美奈(『明日、友達と出かけることになった』ってお母さんとお父さんに言ったらさすがにびっくりしていたけど、2人とも特に深掘りするようなことはせず、家を出る前も笑顔で送り出してくれた。もしかして2人とも、いつか私が人と関われるようになるはずだ…ってどこかで信じていたのかな?そうだったら嬉しいな。…本当に、自慢の両親だ)
●飛美奈。駅につき、改札を通り、電車に乗る。
飛美奈(学校と同じ方向のに行く電車とは言え、終点まで行くのは初めてだな…。そもそも登下校以外で電車に乗るの初めてだし…)
●飛美奈。電車内を見渡す。
飛美奈(祝日だから、9時過ぎでもやっぱり人多いな)
●飛美奈。顔が少し青ざめる。
飛美奈(人に囲まれるのは何とか耐えれたから電車通学は何とかなったけど、今は平日よりも人が多いかもしれない…。もしかしたら今日はここで倒れるかも…)
●電車が駅で停まる。
駅のアナウンス「終点、暑海。終点暑海です。忘れ物のないよう、ご注意ください」
●飛美奈。酔いかけながら電車を降りる。
飛美奈(何とか倒れることはなかったけど、休みの日の電車ってもう無理かも…。帰りどうしよう…)
●飛美奈。改札を通り、道を歩く。
飛美奈(たしか、駅から割とすぐのところだったよね)
●飛美奈。近くにあった時計を見る。
飛美奈(9時45分か…。ちょっと早くに着いちゃったな。とりあえず細間先輩が来るまでゆっくり…)
細間「飛美奈ぁ〜!」
●飛美奈。声が聞こえた方向を見ると、ジュゴウンランドのゲートの前で大きく右手を振る細間と目が合う。
細間「ここだよ〜!」
飛美奈(ほ、細間先輩!?こんなに早くに…)
●飛美奈。細間のもとへ歩いて向かう。
飛美奈「お早い、ですね…」
細間「なんか早く飛美奈と会いたくて、1時間くらい早くに着いちゃったんだよね〜」
飛美奈(い、1時間!?)
飛美奈「すごいですね…」
細間「そういう飛美奈も、15分も前に来ているし、偉いよ」
飛美奈「ありがとうございます…」
細間「…ん?」
●細間。飛美奈の顔をのぞき込む。
細間「飛美奈、もしかしてここに来るまでに何かあった…?」
飛美奈「えっ!?」
細間「いや、なんか様子がおかしい気がしたから…」
飛美奈「あ…。電車に人がたくさんいて、ちょっと大変だっただけですので…」
細間「えっ大丈夫!?ごめんね、無理させちゃって…」
飛美奈「い、いえ。自分の責任なので…」
細間「飛美奈が悪いわけじゃ…」
飛美奈「いえ、もう慣れましたので、大丈夫です!」
●飛美奈。胸の前で両拳を握る。
細間「そっか…。よし、じゃあ入ろう!」
飛美奈「はい」
●飛美奈と細間。入場ゲートに入っていく。
飛美奈(と…強がってしまったけども、帰りの電車は不安だな…)
●ゲート近くのビルの影から、フードの少女が顔を出す。
フードの少女「入っていったね…」
●ジュゴウンランド内。
●細間。目を輝かせながら早歩きで進む。
●飛美奈。少しビビりながらゆっくり進む。
細間「いや〜、すごいね。どこもかしこも賑やかだ」
飛美奈「本当にすごい、ですね…」
●細間。飛美奈の方に振り向く。
細間「もしかして。飛美奈って、こういうところに来るのは初めて?」
飛美奈「はい、初めてだと思います…」
飛美奈のモノローグ「私の性格もあり、長期休みでも家族でどこかに出かけるということは、ほとんどなかった。夏休みや冬休みに行くのは、祖父母の家くらい。遊園地やデパート、旅館やホテルに行ったことなんで今までない。楽しいところだってわかってはいるけれど、人がいると思うとどうしても足が竦んでしまう。正直こういう場所で恐怖心を感じずにやっていけるのかはわからないけど、細間先輩のためにも楽しまなくちゃ!」
●飛美奈。胸の前で右手を握りしめる。
細間「どれから乗ろうか…?こういう場所が初めての飛美奈でも安心して乗れるのは…、やっぱり定番のあれかな?」
●細間。コーヒーカップの乗り場を指さす。
飛美奈(あっあれは、ひたすらぐるぐる回転して楽しむという伝説の…)
細間「コーヒーカップだよ。一緒に乗ろ?」
飛美奈「はい!」
●飛美奈と細間。コーヒーカップの列に並ぶ。
●飛美奈と細間。順番が来て、コーヒーカップに座る。
アナウンス「皆さん、ジュゴウンランドのお茶会へようこそ!どうぞ、楽しんでくださいね!…ただし、この回転に耐えられればの話だがなぁ!」
飛美奈(なかなかクセの強いアナウンスだなぁ…)
●コーヒーカップが回りだす。
飛美奈「おぉ…。実際に乗ってみると、こんな感じなんですね…」
細間「でもね…、こういう事もできるんだな!」
●細間。カップの真ん中にあるハンドルを勢いよく回し、カップの回転速度を上げる。
飛美奈「ひぇ~!なんで急にぃ〜!」
細間「こうやって勢いよくわまるのが楽しいんだよ!」
●アトラクション終了後。飛美奈。目を回しながらコーヒーカップから出る。
アナウンス「お茶会を楽しんでくれたかな?また来てくれたっていいんだぜ?」
細間「飛美奈、大丈夫?」
飛美奈「は、はい…。少し休めば、何とか…」
●飛美奈。コーヒーカップの方を振り返る。
細間「…どうしたの?」
飛美奈「すごく、楽しかったです!」
細間「それはよかった。じゃあ次はあれ乗ろうよ?」
●細間。フリーフォールを指さす。
●飛美奈。悲鳴が鳴り響く中落下するフリーフォールを目にする。
飛美奈「コーヒーカップのあとに、あれはハードルが高いような…」
細間「えぇ〜…」
●細間。飛美奈の前で両手を合わせ、首を右に10度傾ける。
細間「だめ〜?乗ろうよ〜」
飛美奈(うわぁ〜出た。細間先輩お得意の、あざとくお願いするやつ…。これやられると、なんか断りづらくなるんだよね…)
●飛美奈。苦笑いする。
飛美奈「わかりました。一緒に乗ってあげます」
細間「やった〜。飛美奈、本当にありがとう」
●飛美奈と細間。フリーフォールに乗る。
アナウンス「これから皆さんには、今まで味わったことのない不思議な体験をしてもらいますよ。お前は今までに高所を上下した回数を覚えているかぁ!?」
飛美奈「なんか、すごく緊張していました」
●飛美奈。フリーフォールの安全バーを強く握りしめる。
●細間。安全バーを握る飛美奈の左手にやさしく触れる。
細間「大丈夫!俺が隣についているからね!」
●フリーフォールが上下し始める。
細間「うぉ〜!怖えぇ〜!」
●飛美奈。無言で恐怖をこらえる。
アナウンス「お疲れ様でした。忘れ物がないか確認して、ゆっくり降りてください」
飛美奈「かなり怖かったけど、楽しかった…」
細間「飛美奈、なんだかんだ絶叫系も楽しめているみたいだね」
飛美奈「意外とこういうアトラクションでも乗れなくはないみたいです、私」
細間「良し、じゃあどんどん行こう!」
飛美奈「はい、行きましょう」
●回転ブランコに乗る飛美奈と細間。
飛美奈(たっ、楽しい…)
●メリーゴーランドに乗る飛美奈と細間。
飛美奈(楽しい!)
●ジェットコースターにのる飛美奈と細間。
飛美奈(楽しぃい!)
●飛美奈と細間。綿あめを食べながら歩く。
飛美奈(遊園地って、こんなに楽しいところだったんだ…)
●細間。飛美奈の顔をのぞき込む。
飛美奈「なっ、なんてすか…?」
細間「いや〜、飛美奈がだいぶ笑顔になってきたなって思って」
飛美奈「えっ…?」
細間「さっきまでの緊張が嘘みたいに、アトラクションに乗っているときはずっと笑顔だったからさ」
飛美奈「そうだったんですか…!?」
細間「ふふっ…飛美奈の満面の笑みって初めて見たかも」
飛美奈「私、ここに来れてよかったです」
細間「そっか。連れて来てよかった…。よし、次は何に乗る?」
飛美奈「そうですね…。じゃあ…」
●フードの少女。ジュゴウンランド内にある屋台でホットドッグを買う。
●フードの少女。ホットドッグにかぶりつく。
フードの少女(うめぇ〜!マスタードが程よく効いていて最高だわこれ!)
●フードの少女。辺りを見回す。
フードの少女「…って、あの2人を見失っちゃったな。まあいいか。このあといつどこに現れるかは、だいたいわかるわけだし」
●飛美奈と細間。お土産屋に入る。
細間「せっかくだし、何か買っていこうよ」
飛美奈「……」
細間「飛美奈?」
飛美奈「はっ!はい!」
細間「どうかした?」
飛美奈「その…、あんまりお金持っていないので、あんまり買えないなぁ…と」
細間「それなら、飛美奈の分まで買ってあげるよ」
飛美奈「そんな、申し訳ないですよ…!」
細間「そこまで値段がしないものなら、2人分買えるって。例えば、ほら…」
●細間。大きなリボンが付いているカチューシャ型のかぶり物を手に取る。
細間「ここでしか手に入らない限定カチューシャとか…」
●細間。カチューシャを飛美奈にそっと付ける。そのカチューシャを付けた飛美奈を見て顔を赤くする細間。
飛美奈「細間先輩、どうしました…?」
細間「あっ、いや、その…。これは、やめておいたほうがいいかな…」
飛美奈「もしかして、あんまり似合っていませんでしたか…?」
細間「いや、すんごく似合っていたよ!似合っていたからこそ、オススメしないというか…」
飛美奈「それは、どういう…?」
細間「と、とにかく、ここは後で来よっか。他にも乗りたいものあるし…」
飛美奈「はぁ…、わかりました…」
飛美奈(細間先輩。どうしてそんなに慌てているんだろう…?)
●兎唯。ジュゴウンランド内を歩く飛美奈と細間を遠くから見つめる。
●沙良。兎唯を見つけ、走って来る。
兎唯「あっ、沙良ちゃん!こっちこっち!」
●沙良。兎唯のそばに行き、飛美奈と細間が歩いているのを目にする。
沙良「…本当に、一緒にいる」
兎唯「ね?僕の言ったとおりだったでしょ?」
沙良「一体どうして…?」
兎唯「2人に直接聞けたらいいんたまけどね…。僕が近づいたら、いろいろと大変なことになりそうだし…」
沙良「私も私で、会ったら気まずい感じになると思いますし…」
兎唯「2人とも動けないとなると、何とかしてあの2人の会話を盗み聞きするしかないね」
沙良「それもそれでどうかと思いますけど…」
●兎唯と沙良。一緒に歩きだす。
沙良「あの、木枯先輩…」
兎唯「兎唯でいいよ」
沙良「じゃあ兎唯先輩…」
兎唯「呼び捨てでよかったんだけど…」
沙良「…どうして私に協力を依頼したんですか?」
兎唯「う〜ん、なんとなくって感じ?お互いあの2人のことを知りたかったわけだし、利害の一致ってやつだよ」
沙良「だとしても、見ず知らずの相手と手を組もうなんて…」
兎唯「沙良ちゃんがなんから寂しそうにしていたからね」
沙良「あれは、その…。ちょっとトラブルがあっただけで…」
兎唯「もしかして、なにか訳あり?人生の先輩である俺に相談してみ?」
沙良「別にいいです!」
●列に並ぶある飛美奈と細間。
細間「飛美奈の小さい頃の話とか聞きたいな」
飛美奈「なんですか、急に…」
細間「なんかないの?」
飛美奈「あんまり、面白い話とかないですよ…」
細間「面白いやつじゃなくていいからさ!」
飛美奈「…幼稚園の時に、みんなでバスに乗って大きな自然公園に紅葉を見に行ったことがあったんです…」
細間「へぇ〜、楽しそうだね」
飛美奈「でも、私。その公園で迷子になっちゃって…」
細間「うわぁ、大変だね。どうなったの、その後?」
飛美奈「たまたまその公園にいた優しいおじいさんが、私を助けようと話しかけてきたんですが…、私は頭がパニックになって、その場で気絶してしまって…。起きたら目の前に先生たちがいて、心配そうに私を見ていて…。きっとあのおじいさんが、なんとかして私を先生たちの下へ運んだんだと思います」
細間「そんな事があったんだ…」
飛美奈「今でもあのおじいさんには、申し訳ないことをしてしまったと思っています…」
細間「今でもそう思っているなんて、飛美奈は本当に優しいね」
●同じ列の後ろにの方兎唯と沙良が並んでいる。
兎唯「話を聞いてても、2人のことを深掘りできそうな情報が出てこないなぁ…」
沙良「あの、兎唯先輩…?」
兎唯「何?」
●沙良。列の先のアトラクションを指さす。
沙良「もしかして私たち、このままこれに乗るんですか?」
兎唯「そうだよ。水が飛ぶスリル満載のコースター、アクアマウンテン!楽しそうじゃん」
沙良「いや、わざわざ乗る必要あります?このまま列を出るとか…」
兎唯「せっかくジュゴウンランドに来たんだし、なんか乗ってこうよ」
●兎唯。持っていた袋から、兎の耳が付いたカチューシャを取り出し、頭に付ける。
沙良「…なんですか、それ?」
兎唯「これ可愛くない?ここを押すとね、耳が動くんだよ」
●兎唯。カチューシャの端を押して、兎の耳を動かす。
アナウンス「凄まじいスピードで水の上を走るアクアマウンテン!さあ、お前が浴びた水しぶきの数を数えろ!」
兎唯「いや〜、楽しみだなぁ〜!」
沙良(この人、めっちゃ楽しむ気じゃん…)
●飛美奈と細間。アクアマウンテンから出てくる。
飛美奈「思ったよりすごい水しぶきでした…」
細間「いや〜、飛美奈と乗ると、楽しさが倍になっている気がするよ」
飛美奈「そんなことは、ないですよ…」
細間「いや、絶対そうだって!」
●細間。空を見上げる。
細間「そろそろ夕暮れか…。よし、最後にあれに乗ろうか!」
●細間。観覧車を指さす。
●観覧車の中。
アナウンス「ジュゴウンランドのランドマークともいえる、きらめく観覧車!大人しくゆっくり回って、無様に元の居場所へ戻ってきやがれ!」
飛美奈「アトラクションのアナウンス、どれもかんな感じなんですね…」
●飛美奈。苦笑いする。
細間「そこも含めて、記憶に深く残る場所だね」
●細間。外を眺める。
細間「飛美奈、今日は本当にありがとう。俺のお願い聞いてくれて…。無理させちゃったかな?」
飛美奈「いえ、そんなことはないですよ!私も、とても楽しかったです」
●細間。少し驚いた顔をする。
細間「そっか…。飛美奈、本当に楽しそうだったもんね」
●細間。飛美奈に向かって微笑む。
細間「学校じゃいつも、何かに怖がっているような顔だったからさ、本当に楽しんでいるんだなって…。そんな飛美奈を見ていると、こっちまで笑顔になってきちゃって…」
飛美奈「そんなにいつもと違ったんですか、今日の私?」
細間「うん。本当に…可愛かった…」
飛美奈「……え!?」
細間「あっ!いや…、今のは何でも…」
●兎唯と沙良。観覧車を眺める。
兎唯「あの2人、なんだか楽しそうだったね」
沙良「あの2人、あれからずっと2人で登下校していみたいだし、この1週間弱で、本当に何があったんだろう…?」
●兎唯。フードの少女を見かける。
兎唯「あっ、なんかめっちゃ可愛い子いる!」
沙良「え?」
兎唯「沙良ちゃんごめん!すぐ戻るから、ここで待ってて!」
沙良「ちょっと、兎唯先輩!?」
●兎唯。フードの少女に元に走って向かう。
兎唯「ねえねぇ君!」
フードの少女「…?」
兎唯「もしかして1人?」
フードの少女「はぁ…?あんた誰?」
兎唯「暇ならさ、このあと僕と遊ばない?いろいろと奢るよ?」
フードの少女「私、先に暇じゃないんで…」
●フードの少女。兎唯に背を向けて歩き出す。
兎唯「そんなこと言う子には、こうだ!」
●兎唯。後ろから思いっきりフードの少女のスカートをめくり上げる。
フードの少女「…んなっ!」
●フードの少女。スカートを押さえて振り返り、兎唯を睨みつける。
兎唯「あ〜いいね、その恥ずかしがりながら睨みつける感じ。君、やっぱりかわいい!」
●兎唯。突然その場で倒れる。
●フードの少女。驚いて兎唯の顔をのぞき込む。
フードの少女(これ、まさか…)
●フードの少女。耳につけている通信機のボタンを押す。
フードの少女「ディグルド。今のお前か?」
ロボット「アア、ココニイルゾ」
●ロボット(ディグルド)。ジュゴウンランドの隣にある高層ビルの屋上からフードの少女を見ている。
フードの少女「たしかに今、私ちょっとビンチだったけどさ、だからって麻酔銃を撃たなくてもいいんじゃない?」
ディグルド「仲間ヲ助ケルノハ、当然ノコトデアロウ?」
フードの少女「それは助かったけど…。まあ、仕方ないか。こういうロボットって、どいつもこいつも無慈悲な性格しているし」、
●飛美奈と細間。ジュゴウンランドのゲートをくぐり、駅に向かって歩き出す。
飛美奈「すみません、私の分のお土産まで買ってくれて」
細間「いいんだよ、ちょっとだったし。…ところで飛美奈」
飛美奈「なんですか…?」
細間「電車乗るの、やっぱり不安?」
飛美奈「……正直、不安です。朝ほど人はいないと思いますけど…」
細間「じゃあ、俺が飛美奈の降りる駅まで一緒に行ってあげるよ!」
飛美奈「いや、そんな…。それじゃあ、細間先輩が余計に電車に乗ることに…」
細間「俺の心配はしなくていいよ。俺も飛美奈が心配だし、家に着くのが30分くらい遅れるだけだから、大した事ないって!」
飛美奈「そうですか…。細間先輩、ありがとうございます」
飛美奈(帰りに1人でまた電車に乗るのは、なんか怖かったから、正直安心した…)
●飛美奈と細間。電車に乗る。
細間「なんか…」
飛美奈「はい…?」
細間「飛美奈といると…安心するな…」
飛美奈「私にそんな力は、ないと思いますけど…」
細間「いや、安心するよ…」
飛美奈(細間先輩、本当にいい人だな。こんな私を誘ってくれて、いろいろと私を助けてくれて…。学校一の人気者だっていうのも、納得できる)
飛美奈「一緒にいて安心するのは、細間先輩もですよ」
細間「そう…?……ありがとう」
●飛美奈と細間。駅から外へ出る。
飛美奈「すみません、こんなところまで見送ってくれて」
細間「いいよ、友達としては当然のことだし。もしよければ、家まで見送ろうか?」
飛美奈「いや、暗くなってきたとはいえ、知っている道なので大丈夫ですよ」
●細間。腕を後ろで組み、上半身を右へ45度傾ける。
細間「本当?誘拐とかされないよね?」
飛美奈「これでも高校生なので、万が一何があっても自分で何とかできますよ」
細間「そっか…。じゃあ…」
飛美奈「はい。じゃあ、また明日学校で…」
●細間。下を向いて両手を強く握りしめる。
細間「飛美奈ぁぁぁぁぁ!」
●飛美奈。慌てて細身の方へ振り返る。
飛美奈「なっ、なんですか…」
細間「俺!……飛美奈のことが、好きだ!」
●飛美奈。目を見開いて硬直する。
細間「その…恋愛的な意味で…、ラブの意味ほうで…」
飛美奈「えっ……」
細間「じゃあ、その、…また明日!」
●細間。飛美奈に向かって元気に片手を振り、駅に向かって走っていく。
飛美奈(…ちょっと待って。好き、細間先輩が私のことを、恋愛的な意味で…。……………ゑ!?)
●フードの少女。離れたところから飛美奈を眺める。そのまま飛美奈から遠ざかるように歩き出す。耳の通信機のボタンを押す。
フードの少女「ディグルド、シツチエリ、聞こえる?私、今、歴史的瞬間を見ちゃったかもしれない…」
シツチエリ(帽子男)「その感じだと、どうやら歴史通りにいったようだね」
ディグルド「行動ヲ開始スルゾ」
フードの少女「ついに時が動き出した。さあ、世界を救いに行くよ…」
●飛美奈の携帯電話に細間からのメッセージが次々と表情される。
細間【飛美奈、お話しよ!】【学校がないと飛美奈と会えないからさみしいな〜】【飛美奈って好きな食べ物あるの?俺の好きな食べ物は、ハンバーグにお寿司にラーメンに…】【飛美奈って休日は何しているの?俺はずっとゴロゴロしているけど…】
●飛美奈。苦笑いしながらメッセージを見る。
飛美奈(こんなにいろいろ聞かれたら、どれから答えればいいのかわかんないよ…。メッセージでの会話なら私でもできる気がしたけど、無理かもしれない…)
細間【もしかして俺がいっぱい聞いたから混乱してる?】【ごめんごめん!つい聞きたいことが溢れちゃた】
飛美奈(細間先輩、私の状況を瞬時に理解した!?…まるでエスパーだよ)
飛美奈【ごめんなさい、実はそうなんです】【なんでわかったんですか?】
細間【既読が即付くのに返事がないから】【もしかしたら…と思ってね】
飛美奈(そういえば、メッセージを確認したら相手がわかるんだった。忘れてた…)
細間【俺から話を振るのはあんまり良くないかもね】【飛美奈は何か聞きたいことある?】
飛美奈(細間先輩に、聞きたいことか…、そうだ)
飛美奈【あの、私と一緒にいて大変じゃないんですか?】
細間【どういうこと?】
飛美奈【だって、その…】
●飛美奈の回想。飛美奈。駅の階段を降りてくる。
●細間。飛美奈に気づき、右手を大きく振る。
細間「飛美奈!こっちこっち〜!」
●飛美奈。声のする方を見ると、細間と目が合う。
細間「ひぃいみぃいなぁあ!ここだよぉ〜!」
●飛美奈。顔を赤くして、細間のもとへ走る。
飛美奈「あっあの、あんまり大声で名前を呼ばないでください。その…恥ずかしいので」
細間「ごめんごめん!つい嬉しかったからさ」
●飛美奈。周りを見渡す。
●周りの人たちが飛美奈と細間を見ている。
飛美奈「大声出すから、色んな人に見られちゃってるじゃですか…」
細間「えっマジ!?早いとこバスに乗っちゃお」
●飛美奈と細間。一緒にバスに乗る。
●細間。バスの席に座る。
細間「隣、来ていいよ」
飛美奈「は、はい…」
●飛美奈。少しおどおどしながら細間の隣に座る。
●飛美奈と細間。バスを降り、並んで学校までの道を歩く。
●周りの生徒達が不思議そうに飛美奈と細間を見ている。
飛美奈(昨日は清々しい気分でここを走っていたんだけど…。細間先輩と一緒にいるとなんかいろいろ緊張しちゃうな…)
細間「飛美奈、大丈夫?」
飛美奈「あっ、いや、その…」
細間「安心して。何かあったら、俺が守ってあげるから」
飛美奈「はっ、はい…」
飛美奈(細間先輩。隣にいると、すごい安心感あるな。…私、この道はずっと1人で歩くんだと思っていたけど、誰かと一緒に歩くと、なんだか心が暖まるな…。それにしても…)
●飛美奈。周りを見渡す。
●周りの生徒達が睨むように飛美奈と細間を見ている。
飛美奈(やっぱり私、みんなに見られてるよ…)
飛美奈【私と一緒にいると、変な目で見られて大変じゃなかったですか?】
細間【そんなことはなかったよ。いろんな人に見られるのは昔からだったし】
飛美奈(細間先輩は学校一の人気男子だって沙良さんが言っていたけど、小さい頃からそうだったのかな?)
細間【飛美奈。もしかしてまた大変なことでもあった?】
飛美奈【特にはないですけど…】
飛美奈(大変なことか…)
飛美奈のモノローグ「確かに細間先輩と一緒にいると、いろんな人に見られる。きっとみんな『なんであんな子が一緒にいるんだろう?』って思っているはずだ。だけど嫌味を直接言われたり、嫌がらせのようなものを受けたりはしていない。細間先輩が言っていたように、『1年生の友達ができた』と周りの人たちが理解したからだろうか…?そういえばあの日以来、沙良さんたちも話しかけて来ない。私のことを気にかけて、話しかけないようにしているのかな…?」
飛美奈【学校の人たちが私のことをどう思っているのか気になります】【嫌なふうに思われていたらどうしようかと不安なんです】
細間【大丈夫だと思うよ】【俺も『いつも一緒に登下校しているあの子誰なの?』って何度か聞かれたけど『友達だよ』ってちゃんと言っておいたし】
飛美奈【そうでしたか、なるほど】
●飛美奈。安堵のため息をつく。
飛美奈(はぁ、よかった。とりあえず学校の人たちは私のことを不審には思っていない感じなんだね。でも今の返事の仕方だと、まだ不安に思っていように勘違いさせちゃったかな?でもここで何か返したら、不安なのを誤魔化しているように見えちゃうし…)
細間【飛美奈!】
飛美奈【はい、なんですか?】
細間【今日から連休なんだし、ゆっくり休みなよ】
飛美奈【はい、そうしようと思います】
●飛美奈。携帯電話を手前にあるテーブルに置き、ソファに横になる。
飛美奈(連休か…。今日を含めて5日間。課題とかも出てないわけだし、いつも通り家でダラダラしようっと)
●真夜中。飛美奈の家の前に帽子男とロボットが現れる。
ロボット「コノ時間帯ナラ、周リニ誰モイナイナ」
帽子男「まあ真夜中だしな」
ロボット「サッサト始メロ」
帽子「わかった。…ところで、なんでお前がついて来ているんだ?」
ロボット「万ガ一人ガ現レタ場合、相手ヲ気絶サセルタメダ」
帽子「お前、やり方がなんかスマートじゃないな。まあいいよ」
●帽子男の体が液体化していく。
●液体化した体が側溝に入り、排水管を逆流して飛美奈の家に入り込み、家の中で細かく散り散りになる。
●細かくなった体の一つから目玉が浮き上がる。
帽子男(しばらくは、ここで監視か…)
●飛美奈の家の飛美奈の部屋。飛美奈。ゲームのコントローラーを両手に持ち操作する。テレビに格闘ゲームの画面が映っている。
●飛美奈が操作するキャラが、派手な必殺技を放ち相手キャラを倒す。
●飛美奈。ドヤ顔でガッツポーズをとる。
飛美奈のモノローグ「正直、自分の人生で一番楽しい瞬間って、これだと思う」
飛美奈「よし!このまま、17連勝しちゃおう…」
飛美奈のモノローグ「とはいえ、自分ができるのはCPUとの対戦のみ。オンラインプレイは相手が人間って考えるとなんか怖くなっちゃうし、ストーリーモードもキャラと会話するシーンがあったりしてできない。架空のキャラ相手でも恐怖心が出るなんて、さすがに私もびっくりした」
飛美奈(そう考えると、細間先輩と会話できているのって本当に奇跡だよね。細間から出るオーラ…というか、空気感が私の恐怖心を抑えてくれているのかな…?)
●飛美奈。コントローラーを再び構える。
飛美奈(連休も明日で終わりだし、今日も遊びまくろう)
●飛美奈。コントローラーでキャラを操作し相手を攻撃していく。
飛美奈(結局いつもと同じような連休になっちゃったな。まあ1人で出かけようものなら、絶対耐えられずに倒れちゃうだろうけど…)
●飛美奈の携帯電話から着信音が鳴る。
飛美奈(誰?…って、私に電話してくるのって細間先輩しかいないか。いつもはメッセージなのに、電話なんて珍しいな…。そういえば、あの日を最後に連休中は特に連絡来なかったな。思い出してみれば、いつも細間先輩が何か話を振ってくれるけど、私から何が話をしようとしたことなかったな…。ときどき私から何かメッセージを送ったほうがいいのかな…?でも…、話の始め方ってどうすればいおかわかんないし…。って、電話に出なきゃ!あーでも今試合が劣勢で気を抜いたら負けそうだし…、でも電話はすぐ出たほうがいいと思うし…、わぁぁぁぁ…)
●飛美奈の操作していたキャラが相手の攻撃を受け敗北する。
飛美奈(そんなこと考えていたら、負けてた…。うぅ…私の17連勝がぁ…)
●飛美奈。電話に出る。
飛美奈「はい、もしもし…」
細間「飛美奈、今大丈夫?」
飛美奈「はい、大丈夫ですよ」
細間「飛美奈…、その…さ。明日、予定空いてる…?」
飛美奈「予定…?」
飛美奈(予定も何も、ずっとゲームする予定だったし…)
飛美奈「特には、無いですから、…あ、空いてますよ」
細間「よかった〜。実は、その…ね。その…」
飛美奈「な…なんですか?」
細間「……飛美奈!」
飛美奈「はい!」
飛美奈(びっくりしたぁ…)
細間「明日、2人で出かけない?」
飛美奈「……え?」
飛美奈(出かける…?明日、細間先輩と2人で…。え?………ゑ!?)
●飛美奈。少しの間硬直する。
飛美奈「わ、わ、わた、私と、ふ、2人で、ですか!?」
細間「飛美奈にはハードルが高いことだってわかってる。外は人多いもんね。でも俺がついているからさ、大船に乗った気で…」
飛美奈「いや、その…。そういう問題では…」
細間「もしかして…、無理、かな…?」
飛美奈「い、いえ、そういうわけでは…」
飛美奈(細間先輩と2人で…か。緊張するとか、そういうレベルじゃ済まなさそう…。でも、今まで他人の近くにいることすらできなかった私が、細間先輩となら大丈夫だったたんだ、できるはず。…それに、細間先輩と出会ったことで、孤独に生きるはずだった私の運命が、今変わりつつある。今の私は、前へ進まなきゃいけない気がする)
飛美奈「大丈夫ですよ、明日出かけられます!」
細間「よかった〜。いやぁ、飛美奈と一緒に遊べるなんて、楽しみだな〜」
飛美奈「ところで…、どこにいく予定なんですか?」
細間「ジュゴウンランド。ちょっと遠いところだけどね」
飛美奈(ジュゴウンランド…。数年前にできた人気スポットの遊園地…。確か上りの電車の一番端の駅の街にあるんだよね)
飛美奈「テレビとかでは見たことありますけど、私は実際に行ったことないです」
細間「実は俺もなんだよね。行き方わかる?」
飛美奈「はい、大丈夫です」
細間「じゃあ入り口の前に、午前10時くらいに集合ね」
飛美奈「10時ですね。わかりました」
細間「明日が楽しみだな〜。いっぱい遊ぶぞ〜!じゃあ飛美奈、また明日〜」
飛美奈「はい。じゃあ、明日…」
●通話が切れる。
●飛美奈。携帯電話をゆっくりと置き、魂が抜けたような顔をして固まる。
飛美奈(さらっといくって言っちゃったけど、いざ思うとなかなかにとんでもない約束をしてしまったのでは!?遊園地ってかなり人がいるよね…。細間先輩が一緒とはいえ、私の心臓持つかな!?細間先輩嬉しそうだったから、今更断れないし…。うぅぅ…)
●飛美奈。コントローラーを手に持つ。
飛美奈(とりあえず、あれを観て落ち着こう…)
●飛美奈。ゲーム画面の「隠しムービー」という項目を選択し、その中の1つのムービーを選択し再生する。
ゲームの音声「あらやることが科学で解決されるこの時代に、不可解な事件が巻き起こっていた。人々が慌てふためく中、どこからともなく現れた不思議な男が1人。その名はハコ之ハコ麻呂。人は彼を、魔術師と呼ぶ!」
●画面に映るキャラたちが踊りだす。
ゲームの音声「悪霊退散!悪霊退散!…」
飛美奈(助けて、ハコ麻呂…)
●翌日。飛美奈。家のドアを開け、駅に向かって歩く。
飛美奈(『明日、友達と出かけることになった』ってお母さんとお父さんに言ったらさすがにびっくりしていたけど、2人とも特に深掘りするようなことはせず、家を出る前も笑顔で送り出してくれた。もしかして2人とも、いつか私が人と関われるようになるはずだ…ってどこかで信じていたのかな?そうだったら嬉しいな。…本当に、自慢の両親だ)
●飛美奈。駅につき、改札を通り、電車に乗る。
飛美奈(学校と同じ方向のに行く電車とは言え、終点まで行くのは初めてだな…。そもそも登下校以外で電車に乗るの初めてだし…)
●飛美奈。電車内を見渡す。
飛美奈(祝日だから、9時過ぎでもやっぱり人多いな)
●飛美奈。顔が少し青ざめる。
飛美奈(人に囲まれるのは何とか耐えれたから電車通学は何とかなったけど、今は平日よりも人が多いかもしれない…。もしかしたら今日はここで倒れるかも…)
●電車が駅で停まる。
駅のアナウンス「終点、暑海。終点暑海です。忘れ物のないよう、ご注意ください」
●飛美奈。酔いかけながら電車を降りる。
飛美奈(何とか倒れることはなかったけど、休みの日の電車ってもう無理かも…。帰りどうしよう…)
●飛美奈。改札を通り、道を歩く。
飛美奈(たしか、駅から割とすぐのところだったよね)
●飛美奈。近くにあった時計を見る。
飛美奈(9時45分か…。ちょっと早くに着いちゃったな。とりあえず細間先輩が来るまでゆっくり…)
細間「飛美奈ぁ〜!」
●飛美奈。声が聞こえた方向を見ると、ジュゴウンランドのゲートの前で大きく右手を振る細間と目が合う。
細間「ここだよ〜!」
飛美奈(ほ、細間先輩!?こんなに早くに…)
●飛美奈。細間のもとへ歩いて向かう。
飛美奈「お早い、ですね…」
細間「なんか早く飛美奈と会いたくて、1時間くらい早くに着いちゃったんだよね〜」
飛美奈(い、1時間!?)
飛美奈「すごいですね…」
細間「そういう飛美奈も、15分も前に来ているし、偉いよ」
飛美奈「ありがとうございます…」
細間「…ん?」
●細間。飛美奈の顔をのぞき込む。
細間「飛美奈、もしかしてここに来るまでに何かあった…?」
飛美奈「えっ!?」
細間「いや、なんか様子がおかしい気がしたから…」
飛美奈「あ…。電車に人がたくさんいて、ちょっと大変だっただけですので…」
細間「えっ大丈夫!?ごめんね、無理させちゃって…」
飛美奈「い、いえ。自分の責任なので…」
細間「飛美奈が悪いわけじゃ…」
飛美奈「いえ、もう慣れましたので、大丈夫です!」
●飛美奈。胸の前で両拳を握る。
細間「そっか…。よし、じゃあ入ろう!」
飛美奈「はい」
●飛美奈と細間。入場ゲートに入っていく。
飛美奈(と…強がってしまったけども、帰りの電車は不安だな…)
●ゲート近くのビルの影から、フードの少女が顔を出す。
フードの少女「入っていったね…」
●ジュゴウンランド内。
●細間。目を輝かせながら早歩きで進む。
●飛美奈。少しビビりながらゆっくり進む。
細間「いや〜、すごいね。どこもかしこも賑やかだ」
飛美奈「本当にすごい、ですね…」
●細間。飛美奈の方に振り向く。
細間「もしかして。飛美奈って、こういうところに来るのは初めて?」
飛美奈「はい、初めてだと思います…」
飛美奈のモノローグ「私の性格もあり、長期休みでも家族でどこかに出かけるということは、ほとんどなかった。夏休みや冬休みに行くのは、祖父母の家くらい。遊園地やデパート、旅館やホテルに行ったことなんで今までない。楽しいところだってわかってはいるけれど、人がいると思うとどうしても足が竦んでしまう。正直こういう場所で恐怖心を感じずにやっていけるのかはわからないけど、細間先輩のためにも楽しまなくちゃ!」
●飛美奈。胸の前で右手を握りしめる。
細間「どれから乗ろうか…?こういう場所が初めての飛美奈でも安心して乗れるのは…、やっぱり定番のあれかな?」
●細間。コーヒーカップの乗り場を指さす。
飛美奈(あっあれは、ひたすらぐるぐる回転して楽しむという伝説の…)
細間「コーヒーカップだよ。一緒に乗ろ?」
飛美奈「はい!」
●飛美奈と細間。コーヒーカップの列に並ぶ。
●飛美奈と細間。順番が来て、コーヒーカップに座る。
アナウンス「皆さん、ジュゴウンランドのお茶会へようこそ!どうぞ、楽しんでくださいね!…ただし、この回転に耐えられればの話だがなぁ!」
飛美奈(なかなかクセの強いアナウンスだなぁ…)
●コーヒーカップが回りだす。
飛美奈「おぉ…。実際に乗ってみると、こんな感じなんですね…」
細間「でもね…、こういう事もできるんだな!」
●細間。カップの真ん中にあるハンドルを勢いよく回し、カップの回転速度を上げる。
飛美奈「ひぇ~!なんで急にぃ〜!」
細間「こうやって勢いよくわまるのが楽しいんだよ!」
●アトラクション終了後。飛美奈。目を回しながらコーヒーカップから出る。
アナウンス「お茶会を楽しんでくれたかな?また来てくれたっていいんだぜ?」
細間「飛美奈、大丈夫?」
飛美奈「は、はい…。少し休めば、何とか…」
●飛美奈。コーヒーカップの方を振り返る。
細間「…どうしたの?」
飛美奈「すごく、楽しかったです!」
細間「それはよかった。じゃあ次はあれ乗ろうよ?」
●細間。フリーフォールを指さす。
●飛美奈。悲鳴が鳴り響く中落下するフリーフォールを目にする。
飛美奈「コーヒーカップのあとに、あれはハードルが高いような…」
細間「えぇ〜…」
●細間。飛美奈の前で両手を合わせ、首を右に10度傾ける。
細間「だめ〜?乗ろうよ〜」
飛美奈(うわぁ〜出た。細間先輩お得意の、あざとくお願いするやつ…。これやられると、なんか断りづらくなるんだよね…)
●飛美奈。苦笑いする。
飛美奈「わかりました。一緒に乗ってあげます」
細間「やった〜。飛美奈、本当にありがとう」
●飛美奈と細間。フリーフォールに乗る。
アナウンス「これから皆さんには、今まで味わったことのない不思議な体験をしてもらいますよ。お前は今までに高所を上下した回数を覚えているかぁ!?」
飛美奈「なんか、すごく緊張していました」
●飛美奈。フリーフォールの安全バーを強く握りしめる。
●細間。安全バーを握る飛美奈の左手にやさしく触れる。
細間「大丈夫!俺が隣についているからね!」
●フリーフォールが上下し始める。
細間「うぉ〜!怖えぇ〜!」
●飛美奈。無言で恐怖をこらえる。
アナウンス「お疲れ様でした。忘れ物がないか確認して、ゆっくり降りてください」
飛美奈「かなり怖かったけど、楽しかった…」
細間「飛美奈、なんだかんだ絶叫系も楽しめているみたいだね」
飛美奈「意外とこういうアトラクションでも乗れなくはないみたいです、私」
細間「良し、じゃあどんどん行こう!」
飛美奈「はい、行きましょう」
●回転ブランコに乗る飛美奈と細間。
飛美奈(たっ、楽しい…)
●メリーゴーランドに乗る飛美奈と細間。
飛美奈(楽しい!)
●ジェットコースターにのる飛美奈と細間。
飛美奈(楽しぃい!)
●飛美奈と細間。綿あめを食べながら歩く。
飛美奈(遊園地って、こんなに楽しいところだったんだ…)
●細間。飛美奈の顔をのぞき込む。
飛美奈「なっ、なんてすか…?」
細間「いや〜、飛美奈がだいぶ笑顔になってきたなって思って」
飛美奈「えっ…?」
細間「さっきまでの緊張が嘘みたいに、アトラクションに乗っているときはずっと笑顔だったからさ」
飛美奈「そうだったんですか…!?」
細間「ふふっ…飛美奈の満面の笑みって初めて見たかも」
飛美奈「私、ここに来れてよかったです」
細間「そっか。連れて来てよかった…。よし、次は何に乗る?」
飛美奈「そうですね…。じゃあ…」
●フードの少女。ジュゴウンランド内にある屋台でホットドッグを買う。
●フードの少女。ホットドッグにかぶりつく。
フードの少女(うめぇ〜!マスタードが程よく効いていて最高だわこれ!)
●フードの少女。辺りを見回す。
フードの少女「…って、あの2人を見失っちゃったな。まあいいか。このあといつどこに現れるかは、だいたいわかるわけだし」
●飛美奈と細間。お土産屋に入る。
細間「せっかくだし、何か買っていこうよ」
飛美奈「……」
細間「飛美奈?」
飛美奈「はっ!はい!」
細間「どうかした?」
飛美奈「その…、あんまりお金持っていないので、あんまり買えないなぁ…と」
細間「それなら、飛美奈の分まで買ってあげるよ」
飛美奈「そんな、申し訳ないですよ…!」
細間「そこまで値段がしないものなら、2人分買えるって。例えば、ほら…」
●細間。大きなリボンが付いているカチューシャ型のかぶり物を手に取る。
細間「ここでしか手に入らない限定カチューシャとか…」
●細間。カチューシャを飛美奈にそっと付ける。そのカチューシャを付けた飛美奈を見て顔を赤くする細間。
飛美奈「細間先輩、どうしました…?」
細間「あっ、いや、その…。これは、やめておいたほうがいいかな…」
飛美奈「もしかして、あんまり似合っていませんでしたか…?」
細間「いや、すんごく似合っていたよ!似合っていたからこそ、オススメしないというか…」
飛美奈「それは、どういう…?」
細間「と、とにかく、ここは後で来よっか。他にも乗りたいものあるし…」
飛美奈「はぁ…、わかりました…」
飛美奈(細間先輩。どうしてそんなに慌てているんだろう…?)
●兎唯。ジュゴウンランド内を歩く飛美奈と細間を遠くから見つめる。
●沙良。兎唯を見つけ、走って来る。
兎唯「あっ、沙良ちゃん!こっちこっち!」
●沙良。兎唯のそばに行き、飛美奈と細間が歩いているのを目にする。
沙良「…本当に、一緒にいる」
兎唯「ね?僕の言ったとおりだったでしょ?」
沙良「一体どうして…?」
兎唯「2人に直接聞けたらいいんたまけどね…。僕が近づいたら、いろいろと大変なことになりそうだし…」
沙良「私も私で、会ったら気まずい感じになると思いますし…」
兎唯「2人とも動けないとなると、何とかしてあの2人の会話を盗み聞きするしかないね」
沙良「それもそれでどうかと思いますけど…」
●兎唯と沙良。一緒に歩きだす。
沙良「あの、木枯先輩…」
兎唯「兎唯でいいよ」
沙良「じゃあ兎唯先輩…」
兎唯「呼び捨てでよかったんだけど…」
沙良「…どうして私に協力を依頼したんですか?」
兎唯「う〜ん、なんとなくって感じ?お互いあの2人のことを知りたかったわけだし、利害の一致ってやつだよ」
沙良「だとしても、見ず知らずの相手と手を組もうなんて…」
兎唯「沙良ちゃんがなんから寂しそうにしていたからね」
沙良「あれは、その…。ちょっとトラブルがあっただけで…」
兎唯「もしかして、なにか訳あり?人生の先輩である俺に相談してみ?」
沙良「別にいいです!」
●列に並ぶある飛美奈と細間。
細間「飛美奈の小さい頃の話とか聞きたいな」
飛美奈「なんですか、急に…」
細間「なんかないの?」
飛美奈「あんまり、面白い話とかないですよ…」
細間「面白いやつじゃなくていいからさ!」
飛美奈「…幼稚園の時に、みんなでバスに乗って大きな自然公園に紅葉を見に行ったことがあったんです…」
細間「へぇ〜、楽しそうだね」
飛美奈「でも、私。その公園で迷子になっちゃって…」
細間「うわぁ、大変だね。どうなったの、その後?」
飛美奈「たまたまその公園にいた優しいおじいさんが、私を助けようと話しかけてきたんですが…、私は頭がパニックになって、その場で気絶してしまって…。起きたら目の前に先生たちがいて、心配そうに私を見ていて…。きっとあのおじいさんが、なんとかして私を先生たちの下へ運んだんだと思います」
細間「そんな事があったんだ…」
飛美奈「今でもあのおじいさんには、申し訳ないことをしてしまったと思っています…」
細間「今でもそう思っているなんて、飛美奈は本当に優しいね」
●同じ列の後ろにの方兎唯と沙良が並んでいる。
兎唯「話を聞いてても、2人のことを深掘りできそうな情報が出てこないなぁ…」
沙良「あの、兎唯先輩…?」
兎唯「何?」
●沙良。列の先のアトラクションを指さす。
沙良「もしかして私たち、このままこれに乗るんですか?」
兎唯「そうだよ。水が飛ぶスリル満載のコースター、アクアマウンテン!楽しそうじゃん」
沙良「いや、わざわざ乗る必要あります?このまま列を出るとか…」
兎唯「せっかくジュゴウンランドに来たんだし、なんか乗ってこうよ」
●兎唯。持っていた袋から、兎の耳が付いたカチューシャを取り出し、頭に付ける。
沙良「…なんですか、それ?」
兎唯「これ可愛くない?ここを押すとね、耳が動くんだよ」
●兎唯。カチューシャの端を押して、兎の耳を動かす。
アナウンス「凄まじいスピードで水の上を走るアクアマウンテン!さあ、お前が浴びた水しぶきの数を数えろ!」
兎唯「いや〜、楽しみだなぁ〜!」
沙良(この人、めっちゃ楽しむ気じゃん…)
●飛美奈と細間。アクアマウンテンから出てくる。
飛美奈「思ったよりすごい水しぶきでした…」
細間「いや〜、飛美奈と乗ると、楽しさが倍になっている気がするよ」
飛美奈「そんなことは、ないですよ…」
細間「いや、絶対そうだって!」
●細間。空を見上げる。
細間「そろそろ夕暮れか…。よし、最後にあれに乗ろうか!」
●細間。観覧車を指さす。
●観覧車の中。
アナウンス「ジュゴウンランドのランドマークともいえる、きらめく観覧車!大人しくゆっくり回って、無様に元の居場所へ戻ってきやがれ!」
飛美奈「アトラクションのアナウンス、どれもかんな感じなんですね…」
●飛美奈。苦笑いする。
細間「そこも含めて、記憶に深く残る場所だね」
●細間。外を眺める。
細間「飛美奈、今日は本当にありがとう。俺のお願い聞いてくれて…。無理させちゃったかな?」
飛美奈「いえ、そんなことはないですよ!私も、とても楽しかったです」
●細間。少し驚いた顔をする。
細間「そっか…。飛美奈、本当に楽しそうだったもんね」
●細間。飛美奈に向かって微笑む。
細間「学校じゃいつも、何かに怖がっているような顔だったからさ、本当に楽しんでいるんだなって…。そんな飛美奈を見ていると、こっちまで笑顔になってきちゃって…」
飛美奈「そんなにいつもと違ったんですか、今日の私?」
細間「うん。本当に…可愛かった…」
飛美奈「……え!?」
細間「あっ!いや…、今のは何でも…」
●兎唯と沙良。観覧車を眺める。
兎唯「あの2人、なんだか楽しそうだったね」
沙良「あの2人、あれからずっと2人で登下校していみたいだし、この1週間弱で、本当に何があったんだろう…?」
●兎唯。フードの少女を見かける。
兎唯「あっ、なんかめっちゃ可愛い子いる!」
沙良「え?」
兎唯「沙良ちゃんごめん!すぐ戻るから、ここで待ってて!」
沙良「ちょっと、兎唯先輩!?」
●兎唯。フードの少女に元に走って向かう。
兎唯「ねえねぇ君!」
フードの少女「…?」
兎唯「もしかして1人?」
フードの少女「はぁ…?あんた誰?」
兎唯「暇ならさ、このあと僕と遊ばない?いろいろと奢るよ?」
フードの少女「私、先に暇じゃないんで…」
●フードの少女。兎唯に背を向けて歩き出す。
兎唯「そんなこと言う子には、こうだ!」
●兎唯。後ろから思いっきりフードの少女のスカートをめくり上げる。
フードの少女「…んなっ!」
●フードの少女。スカートを押さえて振り返り、兎唯を睨みつける。
兎唯「あ〜いいね、その恥ずかしがりながら睨みつける感じ。君、やっぱりかわいい!」
●兎唯。突然その場で倒れる。
●フードの少女。驚いて兎唯の顔をのぞき込む。
フードの少女(これ、まさか…)
●フードの少女。耳につけている通信機のボタンを押す。
フードの少女「ディグルド。今のお前か?」
ロボット「アア、ココニイルゾ」
●ロボット(ディグルド)。ジュゴウンランドの隣にある高層ビルの屋上からフードの少女を見ている。
フードの少女「たしかに今、私ちょっとビンチだったけどさ、だからって麻酔銃を撃たなくてもいいんじゃない?」
ディグルド「仲間ヲ助ケルノハ、当然ノコトデアロウ?」
フードの少女「それは助かったけど…。まあ、仕方ないか。こういうロボットって、どいつもこいつも無慈悲な性格しているし」、
●飛美奈と細間。ジュゴウンランドのゲートをくぐり、駅に向かって歩き出す。
飛美奈「すみません、私の分のお土産まで買ってくれて」
細間「いいんだよ、ちょっとだったし。…ところで飛美奈」
飛美奈「なんですか…?」
細間「電車乗るの、やっぱり不安?」
飛美奈「……正直、不安です。朝ほど人はいないと思いますけど…」
細間「じゃあ、俺が飛美奈の降りる駅まで一緒に行ってあげるよ!」
飛美奈「いや、そんな…。それじゃあ、細間先輩が余計に電車に乗ることに…」
細間「俺の心配はしなくていいよ。俺も飛美奈が心配だし、家に着くのが30分くらい遅れるだけだから、大した事ないって!」
飛美奈「そうですか…。細間先輩、ありがとうございます」
飛美奈(帰りに1人でまた電車に乗るのは、なんか怖かったから、正直安心した…)
●飛美奈と細間。電車に乗る。
細間「なんか…」
飛美奈「はい…?」
細間「飛美奈といると…安心するな…」
飛美奈「私にそんな力は、ないと思いますけど…」
細間「いや、安心するよ…」
飛美奈(細間先輩、本当にいい人だな。こんな私を誘ってくれて、いろいろと私を助けてくれて…。学校一の人気者だっていうのも、納得できる)
飛美奈「一緒にいて安心するのは、細間先輩もですよ」
細間「そう…?……ありがとう」
●飛美奈と細間。駅から外へ出る。
飛美奈「すみません、こんなところまで見送ってくれて」
細間「いいよ、友達としては当然のことだし。もしよければ、家まで見送ろうか?」
飛美奈「いや、暗くなってきたとはいえ、知っている道なので大丈夫ですよ」
●細間。腕を後ろで組み、上半身を右へ45度傾ける。
細間「本当?誘拐とかされないよね?」
飛美奈「これでも高校生なので、万が一何があっても自分で何とかできますよ」
細間「そっか…。じゃあ…」
飛美奈「はい。じゃあ、また明日学校で…」
●細間。下を向いて両手を強く握りしめる。
細間「飛美奈ぁぁぁぁぁ!」
●飛美奈。慌てて細身の方へ振り返る。
飛美奈「なっ、なんですか…」
細間「俺!……飛美奈のことが、好きだ!」
●飛美奈。目を見開いて硬直する。
細間「その…恋愛的な意味で…、ラブの意味ほうで…」
飛美奈「えっ……」
細間「じゃあ、その、…また明日!」
●細間。飛美奈に向かって元気に片手を振り、駅に向かって走っていく。
飛美奈(…ちょっと待って。好き、細間先輩が私のことを、恋愛的な意味で…。……………ゑ!?)
●フードの少女。離れたところから飛美奈を眺める。そのまま飛美奈から遠ざかるように歩き出す。耳の通信機のボタンを押す。
フードの少女「ディグルド、シツチエリ、聞こえる?私、今、歴史的瞬間を見ちゃったかもしれない…」
シツチエリ(帽子男)「その感じだと、どうやら歴史通りにいったようだね」
ディグルド「行動ヲ開始スルゾ」
フードの少女「ついに時が動き出した。さあ、世界を救いに行くよ…」