あなたの想いを知りたいから
第四話
●飛美奈。自分の部屋で魂が抜けたような顔をして正座する。
飛美奈のモノローグ「頭がポカンとしていた…。細間先輩にジュゴウンランドに一緒に行こうと誘われたと思ったら、駅まで送ってもらったあと、告白された。当然、告白されたのなんて、初めてだ。驚きと、ドキドキと、困惑…。心のなかで、複数の感情が入り乱れていた。どうすればいいかわからなかった私は…」
●飛美奈。ゲーム機の電源を入れる。
飛美奈のモノローグ「とりあえず、テレビゲームを起動した」
●飛美奈。ゲームのコントローラーを両手で構える。飛美奈。細間に告白されたときの光景を思い出す。
飛美奈(細間先輩は、私のことが好きだった…。だから、私が断るかもしれなかったのに、今日、一緒に出かけたかった…。…まさか、お昼を同じ部屋で食べたり、2人で登下校しようと提案したり、連絡先交換したのも…)
ゲームの音声「バトル!レディーゴー!」
飛美奈(うわぁぁぁぁ!)
●飛美奈。赤面しながらコントローラーを操作する。
ゲームの音声「真空波動砲!」
飛美奈のモノローグ「その日、私は初めて、日付が変わる寸前までゲームをやり続けた」
●翌日。飛美奈。駅の階段を降りる。
飛美奈(落ち着け私。なるべくいつも通りに。動揺しないで、先週までのように細間先輩と接すればいいんだ…)
●細間。飛美奈を見つけて手を振る。
細間「飛美奈!ここだよ!」
●飛美奈。細間の声のしたほうを見る。
飛美奈(細間先輩!?…割といつも通りだな)
細間「飛美奈、おはよう…」
●細間。飛美奈の顔をのぞき込む。
細間「飛美奈、なんか顔が眠そうだけど大丈夫?」
飛美奈「…えっ?」
細間「もしかして、昨日よく眠れなかった?遅くとも11時前くらいには寝ないとだめだよ?」
飛美奈「は、はい…そうですね…」
●飛美奈と細間。バスに乗り込み、席に座る。
細間「飛美奈、…昨日のことなんだけどさ」
飛美奈(…!?)
飛美奈「き、昨日、ですか…」
細間「急にあんなこと言われて、びっくりしたよね…。もしかして、眠れなかったのもそのせい?」
飛美奈「いや、これは、その…、私が動揺しただけなので…」
細間「動揺させたのは俺だよ…、ごめん」
飛美奈「いえ、謝る必要は…」
細間「でも、昨日の言葉は…俺の本心だから…」
●飛美奈。顔を赤くする。
飛美奈(細間先輩。いつも通りに見えたけど、私の同じように、きっと平常心を保てていないんだ…。ていうか、細間先輩、私が遅くまで起きていたことを見抜いたけど、布団に入っても全然眠れなかった…って光景を多分想像していると思う。実際はやけになってゲームをずっとやっていたって言ったら、ズッコケそう…)
●飛美奈と細間。バスから降りて、道を歩きだす。
飛美奈(……細間先輩、一切喋らない!いつもだったら、元気に話しかけてくるのに。やっぱり動揺しているみたいだ…)
●沙良。飛美奈と細間を後ろから眺める。
沙良(宮々さんはまだしも、細間先輩まであんな感じじゃ、やっぱり昨日のあれが…。そりゃそうだよね…)
●沙良の回想。教室で友達5人と話している。
沙良「だから!やっぱり私はなんか気になるわけ!」
女子生徒1「沙良、落ち着こう?」
女子生徒3「そうそう。騒いだってなんにも…」
沙良「むしろみんなはなんで落ち着けるわけ!?あの細間先輩の様子がおかしいんだよ!?いつも通りじゃないなんて、何かあったからじゃん!私はそれを…」
女子生徒4「そもそもさ、私たちがそんなにギャーギャー騒ぐことなの?そんなに大きな問題ではないと思うんだけど」
女子生徒2「よく考えたら、気にしないほうがいいような気もするね」
沙良「ちょっと待ってよ。私は…」
女子生徒5「沙良っていつもそうだよね。気になったことは自分が満足するまで追いかけて、周りを勝手に巻き込んでいく。本当に自分勝手すぎるよ…」
沙良「違う。私は、ただ…」
女子生徒4「そんなに気になるなら、一人で勝手に聞いてくれば。私たちは知らない」
女子生徒3「私たちも最初は気になったけどさ、もういいかなって思って」
女子生徒2「正直さ、沙良の行動に飽きてきてるんだよね〜」
沙良「そんな、みんな…」
女子生徒1「あの…みんな、1回落ち着いて話し合お…」
沙良「もういい!」
●沙良。目の前の机を勢いよく両手で叩く。
沙良「わかったよ!私1人でやればいいんでしよ!」
●沙良。教室を飛び出して走り出す。
女子生徒1「ちょっと沙良!」
●沙良。廊下をひたすら走る。
沙良(なんなのよ、みんな…。どんなときも助け合うのが友達だと思っていたのに、あんな言い方するなんて…。もうあんな奴ら、友達じゃない!)
●沙良。階段でしゃがみ込み、静かに泣く。
沙良(もう嫌だ…、何もかも…。誰か、助けて…)
兎唯「おや、どうしたの君?」
●兎唯。上の階段から沙良をのぞき込む。
●沙良。顔を上げ、兎唯と目が合う。
兎唯「もしかして…、なにかお困り中?」
沙良「…誰ですか、あなたは?」
兎唯「3年1組、木枯兎唯。君は…?」
沙良「……沙良、です」
兎唯「んで、何があったの…」
沙良「それが…」
沙良のモノローグ「深い悲しみの中にいた私は、その感情をどうにか外に出したくて、兎唯先輩にすべてを話した。細間先輩のこと、その細間先輩が数日前に様子がおかしくなったこと、それに宮々さんが関わっているかもしれないこと、細間先輩が宮々さんの手をつかみ突然目の前から走り去っていったこと、宮々にまた話を聞こうとしたら知らない子に思いつまきり殴られたこと。そしてついさっき、友達と意見が衝突し、泣きながら教室を飛び出したこと。…15分くらいかけて、隅々まで詳しく説明した。話しているうちに、不安定だった私の感情も、何とか落ち着きを取り戻した」
兎唯「えぇっと…。つまり沙良ちゃんは、湯睦真の事が好きってこと?」
沙良「好きっていうより、憧れていると言うか…」
兎唯「でもまあ、確かに色々と気になるよね。湯睦真がそんな行動とるなんて見たことないし、その宮々って子も気になるし…。多分、あの子だと思うけど…」
沙良「木枯先輩は、細間先輩のことはどれくらいご存知なんですか?」
兎唯「一応湯睦真とは、小学校から一緒なんだけど、アイツのこといろいろ知っているわけじゃないし…」
沙良「そうですか…」
兎唯「でも、沙良ちゃんには協力するよ」
沙良「えっ!?」
兎唯「湯睦真と、あの宮々って子のことが、なんか気になるんでしょ?僕も同じだから。利害の一致ってやつだよ。一緒に、あの2人の真相を解き明かそう!」
沙良「急に協力って言われても…」
兎唯「僕こう見えて、人の後をつけていったりするの、得意なんだよね〜」
沙良「…しれっとやばいこと言ってません?」
兎唯「とりあえず、連絡先交換しよ?」
沙良のモノローグ「友を捨て、藁にも縋る気持ちだった私は、兎唯先輩から怪しさを感じながらも連絡先を交換し、ときどき他愛もない会話をしていた。…そして連休最終日だった昨日、突然電話がかかってきた」
兎唯『沙良ちゃん!今すぐジュゴウンランドに来れる!?』
沙良「ジュゴウンランドですか?電車をつかって、1時間ぐらいで行けると思いますけど…。なんで急に?」
兎唯『湯睦真と宮々飛美奈ちゃんがジュゴウンランドで遊んでいるんだよ!』
沙良「んなっ!?」
沙良のモノローグ「私は急いで支度をして、駅に向かって走った」
●沙良。電話を耳に当てながら、道を走る。
沙良「ていうか、なんでそんなこと知っているんですか?」
兎唯『宮々飛美奈ちゃんって子を、下校時にこっそり後をつけたら、家がわかったの』
沙良「うえぇ!?」
沙良(後をつけるのが得意とは言っていたけど、まさか冗談ではなく本当だったとは…)
兎唯『近所ってほどではないけど、僕と降りる駅が同じだったから、頑張れば僕の家から行ける距離だったわけ。それで今日、たまたまその子の家の付近にいたら、飛美奈ちゃんが明らかに出かける格好して出てきたからついて行ってみて、そしたら湯睦真と一緒にジュゴウンランドに入って行って、慌てて今追いかけているわけ』
沙良「なるほど、そうですか…。今そちらに行きますので」
沙良のモノローグ「急いで電車に乗り、ジュゴウンランドに着いた。兎唯先輩と合流し、細間先輩と宮々さんが一緒にいるのを確認した。…私を呼んでおいたくせに、兎唯先輩はなんか1人楽しんでいたけど…」
兎唯「沙良ちゃんごめん!すぐ戻るから、ここで待ってて!」
沙良「ちょっと、兎唯先輩!?」
沙良のモノローグ「突然その場を去って行って、いつまで経っても兎唯先輩は戻って来なかった。そうこうしているうちに、細間先輩と宮々が観覧車から降りてきてしまった。慌てて私は身を隠し、さっき兎唯先輩が入った方向へ走ると、兎唯先輩はなぜかその場で倒れて寝ていた」
●沙良。兎唯の体を揺らす。
沙良「兎唯先輩!起きてください!細間先輩と宮々さんが帰っちゃいそうです!」
兎唯「ウェ…マジ…?」
●兎唯。体を起こす。
沙良「なんでこんなところで寝ているんですか!?」
兎唯「さっきここに、すごい美少女がいて…そしたら急にさ…」
沙良「いいから、早く追いますよ!」
沙良のモノローグ「何とか2人を追いかけて、同じ電車に乗り込んだ。兎唯先輩に降りる駅を教えてもらい、2人に見つからないように私達は電車を降りた。駅の前で2人が立ち止まったので、私達は物陰からその様子を見張った。2人の会話を聞くに、どうやら細間先輩がわざわざ宮々の降りる駅までついてきてくれたらしい。本当に、すごく優しい人だ」
兎唯「なんだよ、湯睦真のやつ。カッコつけちゃつてさ」
沙良「何知ってしてるんですか…」
兎唯「なんか気に食わないから、俺も沙良ちゃんのこと見送ろっと」
沙良「意地を張るほどのことじゃないですよ」
沙良のモノローグ「なんてやり取りを、兎唯先輩としていたそのとき…」
細間「俺!……飛美奈のことが、好きだ!」
沙良のモノローグ「細間先輩の声が、あの場に鳴り響いた。そうか、やっぱりそうだったんだ…。2人でバスに乗っていたり、2人で歩いていたり、2人でお昼を食べていたり、2人で…休みの日に出かけていたり…。細間先輩は宮々のことが好きだったんだ。心の何処かで、その可能性を感じていた。もしそうなら、いろんな辻褄が合う。…だけど認めたくなかったのか、私の心はその可能性を否定していた。だけど、今日はっきりした。私は、細間先輩の本心を知ってしまった…」
沙良(宮々さんも、驚いた顔をしている。完全に想定外の出来事だったんだろうな…)
兎唯「沙良ちゃん、どうしたの?涙が出ているけど」
沙良「え…?」
●沙良。目の下を優しく撫でる。
沙良「本当だ、なんで…」
沙良のモノローグ「細間先輩は走り去り、宮々さんはその場に固まったように立ち尽くしていた。宮々さんが長いことそこにいたので、私と兎唯先輩は動くことが出来ず、その場でじっとしていた…」
●沙良。教室に入る。友達だった子たちが仲良く話している姿を、横目に見る。
沙良のモノローグ「あの日以来、あの子たちとは一切口を利いていない。5人とも、いろんな子にべらべらと喋るような子たちではないし、私があの子たちと喧嘩したとこは、クラスの誰も知らないと思うけど、私は完全に孤立してしまった。機能のこともあるし、気持ちが暗い。誰かに相談したいけど、相談する相手なんていない。まったく、全部私の自業自得だ」
●お昼。飛美奈。お弁当を持って廊下を歩き、物置部屋を開けると、すでに部屋には細間がいる。
飛美奈「あっ、どうも…」
細間「あっ、うん…」
●細間。下を向いて、顔を赤くする。
飛美奈(細間先輩も、緊張しているみたい…。そりゃ告白なんて勇気のいることだし、その翌日に相手に会うなんて、いつも通りにいられるわけないよね…。よし、こうなったら、一か八か私から…)
飛美奈「あの、私のどういうところが好きなんですか…?」
細間「……!?」
飛美奈(…いや、飛んでとないこと聞いちゃったよ私!?こんな質問されたら、余計気まずくなっちゃうよ!あ〜、めちゃくちゃ恥ずかしい…。そもそも私って、人にしっかり話しかけたこと全然なかったし、こんな状況でどうすればいいかなんて知らないし、むしろ何も言わないほうが良かったかも…)
細間「全部…だよ」
飛美奈「…えっ?」
細間「優しいところとか、仕草とか、笑うと…かわいいところとか…。とにかく全部」
飛美奈「あっ…あ…」
飛美奈(ウェエエエエエエエエエ!?)
飛美奈「あっ、ありがとう、ごさいます…」
●飛美奈。赤面しながら、弁当箱を机に置き、椅子に座る。
細間「感づいているとは思うけど、初めてあったあの日に、俺は飛美奈に一目惚れしちゃったんだ…」
飛美奈(ひ、一目惚れ…。漫画とかドラマじゃ見たことあるけど、本当にそういうことってあるんだ…)
細間「こんなに…かわいい子がいるのかってびっくりして、1日中動揺していたんだ。俺の様子がおかしって噂になっていたみたいたみたいだけど、そういうこと」
飛美奈(沙良さんが言っていた通り、私が原因だったのか…)
細間「飛美奈ともう一度会いたくて、いろいろと聞き回ったら、『人のことが怖いせいで、物置でお昼を食べている子がいる』って何人かから聞いてさ…」
飛美奈(私もある意味、有名人になっているみたいだ…)
細間「そういう性格の子じゃ、距離近くするなんて無理かなって思ったんだよ。それ以前に、俺に恋愛経験なんてないし。そんなふうに考えていたら、あの日勘違いをして、手を繋いで走ってしまった。誤解だったとはいえ、2人きりになれたことに嬉しかった。だから、駅までずっと走っちゃったのかもね」
飛美奈「あの日は、いろいろとびっくりしました…」
細間「ごめんねほんと…」
●飛美奈。細間を見つめる。
細間「ん?どうかした?」
飛美奈「なんか、いつもの誤り方じゃないな…と思って」
細間「あぁ!」
●細間。両手合わせて、首を40度ほど傾ける。
細間「こういう感じ?」
飛美奈「そう、それです」
細間「そうだね。やっぱ俺は、こういう感じじゃないと。いっただっきま〜す!」
飛美奈「いただきます…」
●少し時が経ち、弁当を食べ終わる飛美奈と細間。
細間「飛美奈。折り行ってお願いがあるんだけど…」
飛美奈「なんでしょうか…?」
細間「俺と、デートしてくれない?」
飛美奈「え…?」
細間「この前のジュゴウンランドは、あくまで"友達"としてのお出かけだったけど、その…俺がしっかり飛美奈に好意があるということを知った前提で、出かけたいんだ」
飛美奈「な…なるほど…」
飛美奈(デ、デェェェェェェェェトォォォォォォォォ!?無理無理無理!最大レベルのCPUにノーダメで勝つのと同じくらい無理!ジュゴウンランドは、ほぼ奇跡的に何事もなかったけど、デートだとかなりいろいろ変わってくるし…。何より、細間先輩といるところを、今度こそ誰かに見られそう!)
細間「飛美奈ぁ?」
●細間。両手を合わせ、首を50度右に傾ける。
細間「俺は本気で行きたいんだ。お願い!俺とデートして!」
飛美奈(本当に本気なのが伝わってくる…。もうこれ、断れない雰囲気だよ…。でもよく考えて…。細間先輩といるときは、特に恐怖心を感じないし、むしろ楽しかった。万が一恐怖心が出てきて、倒れたり逃げ出したりしても、細間先輩なら私を見捨てることなく、助けてくれるはず…。これはもう、自分に賭けてみるしかない!)
飛美奈「わかりました。行きます、デート」
細間「やったぁ〜!楽しみだなぁ〜」
飛美奈「で、どこに行くんです?」
細間「あそこの駅近くの、ショッピングモール。最近新しい店とか増えたらしくて、どこがどう変わったのか見てみたいんだよね。日曜日に、どうかな?」
飛美奈(そういえば、駅の近くにあったな、ショッピングモール。クラスの子たちが、『放課後によって行こう』みたいな話をよくしてたっけ)
飛美奈「ショッピングモールに行くなんて、私初めてなので、少し不安です。なので、もし何か私にトラブルが起きたら、助けてください、細間先輩」
細間「任せて!好きな子を守るのは当然のことだもん!」
飛美奈「はっ、はぁ…」
●飛美奈。顔を赤くする。
●細間。手で顔を横にハートを作る。
細間「この細間湯睦真が、君のトキメキを取り戻す!」
●路地の隠し部屋。フードの少女とディグルドが、オセロをしている。
フードの少女「くそぉー!全然勝てないよぉ〜」
ディグルド「人間ガ人工多能ニ、勝テルワケガナイデアロウ」
フードの少女「隅一つ取れないなんて…」
ディグルド「ヤハリ勝利トハ、気持チイイモノダナ」
●フードの少女。ため息をつき、椅子から立ち上がる。
フードの少女「ていうかさ!昨日お前、くぉうどぉうをくぁいしするぞぉとか言ってたくせにさ…」
ディグルド「ソンナ言イ方デハナカッタゾ」
フードの少女「私たち、なんにも大きな動きしてないじゃん!」
ディグルド「ココカラ主ニ動クノハ、私トシツチエリダカラナ。オ前ノ出番ハ、少ナイゾ」
フードの少女「そうかよ…」
●フードの少女。ドアノブに手をかける。
ディグルド「ドコへ行クンダ?」
フードの少女「やることないなら、せっかくだし、観光させてもらうよ」
●フードの少女。ドアを開け、外に出る。
●放課後。沙良。教室で帰り支度をしている。携帯電話から、通知音が鳴る。携帯電話を操作すると、兎唯からのメッセージが表示される。
兎唯【沙良ちゃん聞いて!】
沙良【何かあったんですか?】
兎唯【例の物置から耳を澄ませて聞いたんだけどさ。湯睦真のやつ、日曜日に飛美奈ちゃんと駅近くのショッピングモールに行くって】
沙良【先輩。相変わらず犯罪者みたいなことしますね】
沙良【で?私にどうしろと?】
兎唯【昨日みたいにこっそり後をついていこうよ。こういうのってやっぱり楽しいし】
沙良(兎唯先輩。やっぱりやっていることがストーカーだよ。なんか、怖くなってきたな…)
沙良【私、遠慮します】
沙良【細間先輩の本心がしれたのでもういいです】
沙良【行くなら1人でどうぞ】
兎唯【えー】
兎唯【沙良ちゃんが来ないなら僕も行かない】
●沙良。携帯電話をポケットにしまう。
沙良(とりあえず、よかった…)
●沙良。教室のドアを開け廊下に出ると、ツインテールの少女を見かける。
沙良(あの子は、この前の…)
●沙良。以前ツインテールの少女に殴られたことを思い出す。沙良。ツインテールの少女に駆け寄る
沙良「あの!待って!」
●ツインテールの少女。振り返り、沙良を見る。
ツインテール「あんたは、この前の…」
沙良「どうしても教えてほしいの。あなたが、どうしてあんなに怒っていたのか」
ツインテールの少女「………」
沙良「宮々のこと、詳しいの?」
ツインテールの少女「…あの子とは、幼稚園から一緒だから」
沙良「そうなの…?」
ツインテールの少女「私の名前は、桜文乃。あなたには、話しておいたほうがよさそうね…」
●文乃の回想。幼稚園児の文乃が飛美奈を見かける。
文乃の声「いつも1人で、じっとしている子がいて、私は興味本位で話しかけてみた。でも…、あの子はいつも、私を見るなり瞳に涙を浮かべて、まるで何かに襲われたときのように逃げ出した」
●いろんな場所で何度も飛美奈に話しかける幼稚園児の文乃。
文乃の声「私は納得ができず、何度も話しかけた。でも、何度近づいても、結果は同じだった。その時やっと理解した。『あの子は、人と話すのを怖がっているんだ』って。飛美奈にとって、誰かが近くにいることは、本当に怖いことだったはず。自分がどれだけ飛美奈を苦しめたのか、私はやっと理解した。…だから、飛美奈を絶対に守ると決めた。小学校に入ったとき、飛美奈に嫌がらせをしようとしたやつや、飛美奈の陰口を言っていたやつを、片っ端から殴り倒した。たいていは男子だったけど、飛美奈は昔からかわいくて、何気に一定数の人気があったから、飛美奈の事を気に食わない女子もいた」
●いろんな生徒を殴る小学生のときの文乃。
文乃の声「だから、そいつらが飛美奈に何かする前に、ひたすら殴った。飛美奈自身は、自分のことを目立たなし相手にもされていない存在だと思っているだろうけど、実際は飛美奈のことを好きって男子は多くいたし、言いつけられないだろうからっていじめようとする男子や女子が多くいた。そんな奴らを、私は飛美奈に気づかれないように殴っていった。自分で言うのもなんだけど、あの子が今も平穏に生きているのは、私のおかげなの」
文乃「あなたは、飛美奈のことをどう思っているわけ?」
沙良「どうって…。少なくとも、嫌ってはいないです…」
文乃「そう…。それと、あなたも知っているでしょうけど、あの細間って人…」
沙良「あっ…。細間先輩、宮々さんのことが好きらしいです」
文乃「やっぱり…。噂を聞くに、悪い人ではないらしいけど…、どうも気になるわね。果たして本当に、飛美奈に対して恐怖を与えずに接しているのか…」
沙良「日曜日に、細間先輩と宮々さん、駅前のショッピングモールに行くって」
文乃「…え?」
沙良「知人が、偶然聞いたらしいんですど。気になるなら、直接確認してみたらどうですか…?」
文乃「なるほど…。ありがとう」
●文乃。沙良に背を向けて歩き出す。
沙良(つい言っちゃったけど、万が一、細間先輩が殴られちゃったらどうしよう…)
●飛美奈の部屋。飛美奈が入ってくる。飛美奈。カバンを下ろし、カバンの中身を机の上に出す。
●シツチエリの一部が、天井から飛美奈を見ている。
シツチエリ(僅か、本当に僅かだが、宮々飛美奈の様子が歴史と変化している。歴史が変化しているのか?それとも…)
飛美奈のモノローグ「頭がポカンとしていた…。細間先輩にジュゴウンランドに一緒に行こうと誘われたと思ったら、駅まで送ってもらったあと、告白された。当然、告白されたのなんて、初めてだ。驚きと、ドキドキと、困惑…。心のなかで、複数の感情が入り乱れていた。どうすればいいかわからなかった私は…」
●飛美奈。ゲーム機の電源を入れる。
飛美奈のモノローグ「とりあえず、テレビゲームを起動した」
●飛美奈。ゲームのコントローラーを両手で構える。飛美奈。細間に告白されたときの光景を思い出す。
飛美奈(細間先輩は、私のことが好きだった…。だから、私が断るかもしれなかったのに、今日、一緒に出かけたかった…。…まさか、お昼を同じ部屋で食べたり、2人で登下校しようと提案したり、連絡先交換したのも…)
ゲームの音声「バトル!レディーゴー!」
飛美奈(うわぁぁぁぁ!)
●飛美奈。赤面しながらコントローラーを操作する。
ゲームの音声「真空波動砲!」
飛美奈のモノローグ「その日、私は初めて、日付が変わる寸前までゲームをやり続けた」
●翌日。飛美奈。駅の階段を降りる。
飛美奈(落ち着け私。なるべくいつも通りに。動揺しないで、先週までのように細間先輩と接すればいいんだ…)
●細間。飛美奈を見つけて手を振る。
細間「飛美奈!ここだよ!」
●飛美奈。細間の声のしたほうを見る。
飛美奈(細間先輩!?…割といつも通りだな)
細間「飛美奈、おはよう…」
●細間。飛美奈の顔をのぞき込む。
細間「飛美奈、なんか顔が眠そうだけど大丈夫?」
飛美奈「…えっ?」
細間「もしかして、昨日よく眠れなかった?遅くとも11時前くらいには寝ないとだめだよ?」
飛美奈「は、はい…そうですね…」
●飛美奈と細間。バスに乗り込み、席に座る。
細間「飛美奈、…昨日のことなんだけどさ」
飛美奈(…!?)
飛美奈「き、昨日、ですか…」
細間「急にあんなこと言われて、びっくりしたよね…。もしかして、眠れなかったのもそのせい?」
飛美奈「いや、これは、その…、私が動揺しただけなので…」
細間「動揺させたのは俺だよ…、ごめん」
飛美奈「いえ、謝る必要は…」
細間「でも、昨日の言葉は…俺の本心だから…」
●飛美奈。顔を赤くする。
飛美奈(細間先輩。いつも通りに見えたけど、私の同じように、きっと平常心を保てていないんだ…。ていうか、細間先輩、私が遅くまで起きていたことを見抜いたけど、布団に入っても全然眠れなかった…って光景を多分想像していると思う。実際はやけになってゲームをずっとやっていたって言ったら、ズッコケそう…)
●飛美奈と細間。バスから降りて、道を歩きだす。
飛美奈(……細間先輩、一切喋らない!いつもだったら、元気に話しかけてくるのに。やっぱり動揺しているみたいだ…)
●沙良。飛美奈と細間を後ろから眺める。
沙良(宮々さんはまだしも、細間先輩まであんな感じじゃ、やっぱり昨日のあれが…。そりゃそうだよね…)
●沙良の回想。教室で友達5人と話している。
沙良「だから!やっぱり私はなんか気になるわけ!」
女子生徒1「沙良、落ち着こう?」
女子生徒3「そうそう。騒いだってなんにも…」
沙良「むしろみんなはなんで落ち着けるわけ!?あの細間先輩の様子がおかしいんだよ!?いつも通りじゃないなんて、何かあったからじゃん!私はそれを…」
女子生徒4「そもそもさ、私たちがそんなにギャーギャー騒ぐことなの?そんなに大きな問題ではないと思うんだけど」
女子生徒2「よく考えたら、気にしないほうがいいような気もするね」
沙良「ちょっと待ってよ。私は…」
女子生徒5「沙良っていつもそうだよね。気になったことは自分が満足するまで追いかけて、周りを勝手に巻き込んでいく。本当に自分勝手すぎるよ…」
沙良「違う。私は、ただ…」
女子生徒4「そんなに気になるなら、一人で勝手に聞いてくれば。私たちは知らない」
女子生徒3「私たちも最初は気になったけどさ、もういいかなって思って」
女子生徒2「正直さ、沙良の行動に飽きてきてるんだよね〜」
沙良「そんな、みんな…」
女子生徒1「あの…みんな、1回落ち着いて話し合お…」
沙良「もういい!」
●沙良。目の前の机を勢いよく両手で叩く。
沙良「わかったよ!私1人でやればいいんでしよ!」
●沙良。教室を飛び出して走り出す。
女子生徒1「ちょっと沙良!」
●沙良。廊下をひたすら走る。
沙良(なんなのよ、みんな…。どんなときも助け合うのが友達だと思っていたのに、あんな言い方するなんて…。もうあんな奴ら、友達じゃない!)
●沙良。階段でしゃがみ込み、静かに泣く。
沙良(もう嫌だ…、何もかも…。誰か、助けて…)
兎唯「おや、どうしたの君?」
●兎唯。上の階段から沙良をのぞき込む。
●沙良。顔を上げ、兎唯と目が合う。
兎唯「もしかして…、なにかお困り中?」
沙良「…誰ですか、あなたは?」
兎唯「3年1組、木枯兎唯。君は…?」
沙良「……沙良、です」
兎唯「んで、何があったの…」
沙良「それが…」
沙良のモノローグ「深い悲しみの中にいた私は、その感情をどうにか外に出したくて、兎唯先輩にすべてを話した。細間先輩のこと、その細間先輩が数日前に様子がおかしくなったこと、それに宮々さんが関わっているかもしれないこと、細間先輩が宮々さんの手をつかみ突然目の前から走り去っていったこと、宮々にまた話を聞こうとしたら知らない子に思いつまきり殴られたこと。そしてついさっき、友達と意見が衝突し、泣きながら教室を飛び出したこと。…15分くらいかけて、隅々まで詳しく説明した。話しているうちに、不安定だった私の感情も、何とか落ち着きを取り戻した」
兎唯「えぇっと…。つまり沙良ちゃんは、湯睦真の事が好きってこと?」
沙良「好きっていうより、憧れていると言うか…」
兎唯「でもまあ、確かに色々と気になるよね。湯睦真がそんな行動とるなんて見たことないし、その宮々って子も気になるし…。多分、あの子だと思うけど…」
沙良「木枯先輩は、細間先輩のことはどれくらいご存知なんですか?」
兎唯「一応湯睦真とは、小学校から一緒なんだけど、アイツのこといろいろ知っているわけじゃないし…」
沙良「そうですか…」
兎唯「でも、沙良ちゃんには協力するよ」
沙良「えっ!?」
兎唯「湯睦真と、あの宮々って子のことが、なんか気になるんでしょ?僕も同じだから。利害の一致ってやつだよ。一緒に、あの2人の真相を解き明かそう!」
沙良「急に協力って言われても…」
兎唯「僕こう見えて、人の後をつけていったりするの、得意なんだよね〜」
沙良「…しれっとやばいこと言ってません?」
兎唯「とりあえず、連絡先交換しよ?」
沙良のモノローグ「友を捨て、藁にも縋る気持ちだった私は、兎唯先輩から怪しさを感じながらも連絡先を交換し、ときどき他愛もない会話をしていた。…そして連休最終日だった昨日、突然電話がかかってきた」
兎唯『沙良ちゃん!今すぐジュゴウンランドに来れる!?』
沙良「ジュゴウンランドですか?電車をつかって、1時間ぐらいで行けると思いますけど…。なんで急に?」
兎唯『湯睦真と宮々飛美奈ちゃんがジュゴウンランドで遊んでいるんだよ!』
沙良「んなっ!?」
沙良のモノローグ「私は急いで支度をして、駅に向かって走った」
●沙良。電話を耳に当てながら、道を走る。
沙良「ていうか、なんでそんなこと知っているんですか?」
兎唯『宮々飛美奈ちゃんって子を、下校時にこっそり後をつけたら、家がわかったの』
沙良「うえぇ!?」
沙良(後をつけるのが得意とは言っていたけど、まさか冗談ではなく本当だったとは…)
兎唯『近所ってほどではないけど、僕と降りる駅が同じだったから、頑張れば僕の家から行ける距離だったわけ。それで今日、たまたまその子の家の付近にいたら、飛美奈ちゃんが明らかに出かける格好して出てきたからついて行ってみて、そしたら湯睦真と一緒にジュゴウンランドに入って行って、慌てて今追いかけているわけ』
沙良「なるほど、そうですか…。今そちらに行きますので」
沙良のモノローグ「急いで電車に乗り、ジュゴウンランドに着いた。兎唯先輩と合流し、細間先輩と宮々さんが一緒にいるのを確認した。…私を呼んでおいたくせに、兎唯先輩はなんか1人楽しんでいたけど…」
兎唯「沙良ちゃんごめん!すぐ戻るから、ここで待ってて!」
沙良「ちょっと、兎唯先輩!?」
沙良のモノローグ「突然その場を去って行って、いつまで経っても兎唯先輩は戻って来なかった。そうこうしているうちに、細間先輩と宮々が観覧車から降りてきてしまった。慌てて私は身を隠し、さっき兎唯先輩が入った方向へ走ると、兎唯先輩はなぜかその場で倒れて寝ていた」
●沙良。兎唯の体を揺らす。
沙良「兎唯先輩!起きてください!細間先輩と宮々さんが帰っちゃいそうです!」
兎唯「ウェ…マジ…?」
●兎唯。体を起こす。
沙良「なんでこんなところで寝ているんですか!?」
兎唯「さっきここに、すごい美少女がいて…そしたら急にさ…」
沙良「いいから、早く追いますよ!」
沙良のモノローグ「何とか2人を追いかけて、同じ電車に乗り込んだ。兎唯先輩に降りる駅を教えてもらい、2人に見つからないように私達は電車を降りた。駅の前で2人が立ち止まったので、私達は物陰からその様子を見張った。2人の会話を聞くに、どうやら細間先輩がわざわざ宮々の降りる駅までついてきてくれたらしい。本当に、すごく優しい人だ」
兎唯「なんだよ、湯睦真のやつ。カッコつけちゃつてさ」
沙良「何知ってしてるんですか…」
兎唯「なんか気に食わないから、俺も沙良ちゃんのこと見送ろっと」
沙良「意地を張るほどのことじゃないですよ」
沙良のモノローグ「なんてやり取りを、兎唯先輩としていたそのとき…」
細間「俺!……飛美奈のことが、好きだ!」
沙良のモノローグ「細間先輩の声が、あの場に鳴り響いた。そうか、やっぱりそうだったんだ…。2人でバスに乗っていたり、2人で歩いていたり、2人でお昼を食べていたり、2人で…休みの日に出かけていたり…。細間先輩は宮々のことが好きだったんだ。心の何処かで、その可能性を感じていた。もしそうなら、いろんな辻褄が合う。…だけど認めたくなかったのか、私の心はその可能性を否定していた。だけど、今日はっきりした。私は、細間先輩の本心を知ってしまった…」
沙良(宮々さんも、驚いた顔をしている。完全に想定外の出来事だったんだろうな…)
兎唯「沙良ちゃん、どうしたの?涙が出ているけど」
沙良「え…?」
●沙良。目の下を優しく撫でる。
沙良「本当だ、なんで…」
沙良のモノローグ「細間先輩は走り去り、宮々さんはその場に固まったように立ち尽くしていた。宮々さんが長いことそこにいたので、私と兎唯先輩は動くことが出来ず、その場でじっとしていた…」
●沙良。教室に入る。友達だった子たちが仲良く話している姿を、横目に見る。
沙良のモノローグ「あの日以来、あの子たちとは一切口を利いていない。5人とも、いろんな子にべらべらと喋るような子たちではないし、私があの子たちと喧嘩したとこは、クラスの誰も知らないと思うけど、私は完全に孤立してしまった。機能のこともあるし、気持ちが暗い。誰かに相談したいけど、相談する相手なんていない。まったく、全部私の自業自得だ」
●お昼。飛美奈。お弁当を持って廊下を歩き、物置部屋を開けると、すでに部屋には細間がいる。
飛美奈「あっ、どうも…」
細間「あっ、うん…」
●細間。下を向いて、顔を赤くする。
飛美奈(細間先輩も、緊張しているみたい…。そりゃ告白なんて勇気のいることだし、その翌日に相手に会うなんて、いつも通りにいられるわけないよね…。よし、こうなったら、一か八か私から…)
飛美奈「あの、私のどういうところが好きなんですか…?」
細間「……!?」
飛美奈(…いや、飛んでとないこと聞いちゃったよ私!?こんな質問されたら、余計気まずくなっちゃうよ!あ〜、めちゃくちゃ恥ずかしい…。そもそも私って、人にしっかり話しかけたこと全然なかったし、こんな状況でどうすればいいかなんて知らないし、むしろ何も言わないほうが良かったかも…)
細間「全部…だよ」
飛美奈「…えっ?」
細間「優しいところとか、仕草とか、笑うと…かわいいところとか…。とにかく全部」
飛美奈「あっ…あ…」
飛美奈(ウェエエエエエエエエエ!?)
飛美奈「あっ、ありがとう、ごさいます…」
●飛美奈。赤面しながら、弁当箱を机に置き、椅子に座る。
細間「感づいているとは思うけど、初めてあったあの日に、俺は飛美奈に一目惚れしちゃったんだ…」
飛美奈(ひ、一目惚れ…。漫画とかドラマじゃ見たことあるけど、本当にそういうことってあるんだ…)
細間「こんなに…かわいい子がいるのかってびっくりして、1日中動揺していたんだ。俺の様子がおかしって噂になっていたみたいたみたいだけど、そういうこと」
飛美奈(沙良さんが言っていた通り、私が原因だったのか…)
細間「飛美奈ともう一度会いたくて、いろいろと聞き回ったら、『人のことが怖いせいで、物置でお昼を食べている子がいる』って何人かから聞いてさ…」
飛美奈(私もある意味、有名人になっているみたいだ…)
細間「そういう性格の子じゃ、距離近くするなんて無理かなって思ったんだよ。それ以前に、俺に恋愛経験なんてないし。そんなふうに考えていたら、あの日勘違いをして、手を繋いで走ってしまった。誤解だったとはいえ、2人きりになれたことに嬉しかった。だから、駅までずっと走っちゃったのかもね」
飛美奈「あの日は、いろいろとびっくりしました…」
細間「ごめんねほんと…」
●飛美奈。細間を見つめる。
細間「ん?どうかした?」
飛美奈「なんか、いつもの誤り方じゃないな…と思って」
細間「あぁ!」
●細間。両手合わせて、首を40度ほど傾ける。
細間「こういう感じ?」
飛美奈「そう、それです」
細間「そうだね。やっぱ俺は、こういう感じじゃないと。いっただっきま〜す!」
飛美奈「いただきます…」
●少し時が経ち、弁当を食べ終わる飛美奈と細間。
細間「飛美奈。折り行ってお願いがあるんだけど…」
飛美奈「なんでしょうか…?」
細間「俺と、デートしてくれない?」
飛美奈「え…?」
細間「この前のジュゴウンランドは、あくまで"友達"としてのお出かけだったけど、その…俺がしっかり飛美奈に好意があるということを知った前提で、出かけたいんだ」
飛美奈「な…なるほど…」
飛美奈(デ、デェェェェェェェェトォォォォォォォォ!?無理無理無理!最大レベルのCPUにノーダメで勝つのと同じくらい無理!ジュゴウンランドは、ほぼ奇跡的に何事もなかったけど、デートだとかなりいろいろ変わってくるし…。何より、細間先輩といるところを、今度こそ誰かに見られそう!)
細間「飛美奈ぁ?」
●細間。両手を合わせ、首を50度右に傾ける。
細間「俺は本気で行きたいんだ。お願い!俺とデートして!」
飛美奈(本当に本気なのが伝わってくる…。もうこれ、断れない雰囲気だよ…。でもよく考えて…。細間先輩といるときは、特に恐怖心を感じないし、むしろ楽しかった。万が一恐怖心が出てきて、倒れたり逃げ出したりしても、細間先輩なら私を見捨てることなく、助けてくれるはず…。これはもう、自分に賭けてみるしかない!)
飛美奈「わかりました。行きます、デート」
細間「やったぁ〜!楽しみだなぁ〜」
飛美奈「で、どこに行くんです?」
細間「あそこの駅近くの、ショッピングモール。最近新しい店とか増えたらしくて、どこがどう変わったのか見てみたいんだよね。日曜日に、どうかな?」
飛美奈(そういえば、駅の近くにあったな、ショッピングモール。クラスの子たちが、『放課後によって行こう』みたいな話をよくしてたっけ)
飛美奈「ショッピングモールに行くなんて、私初めてなので、少し不安です。なので、もし何か私にトラブルが起きたら、助けてください、細間先輩」
細間「任せて!好きな子を守るのは当然のことだもん!」
飛美奈「はっ、はぁ…」
●飛美奈。顔を赤くする。
●細間。手で顔を横にハートを作る。
細間「この細間湯睦真が、君のトキメキを取り戻す!」
●路地の隠し部屋。フードの少女とディグルドが、オセロをしている。
フードの少女「くそぉー!全然勝てないよぉ〜」
ディグルド「人間ガ人工多能ニ、勝テルワケガナイデアロウ」
フードの少女「隅一つ取れないなんて…」
ディグルド「ヤハリ勝利トハ、気持チイイモノダナ」
●フードの少女。ため息をつき、椅子から立ち上がる。
フードの少女「ていうかさ!昨日お前、くぉうどぉうをくぁいしするぞぉとか言ってたくせにさ…」
ディグルド「ソンナ言イ方デハナカッタゾ」
フードの少女「私たち、なんにも大きな動きしてないじゃん!」
ディグルド「ココカラ主ニ動クノハ、私トシツチエリダカラナ。オ前ノ出番ハ、少ナイゾ」
フードの少女「そうかよ…」
●フードの少女。ドアノブに手をかける。
ディグルド「ドコへ行クンダ?」
フードの少女「やることないなら、せっかくだし、観光させてもらうよ」
●フードの少女。ドアを開け、外に出る。
●放課後。沙良。教室で帰り支度をしている。携帯電話から、通知音が鳴る。携帯電話を操作すると、兎唯からのメッセージが表示される。
兎唯【沙良ちゃん聞いて!】
沙良【何かあったんですか?】
兎唯【例の物置から耳を澄ませて聞いたんだけどさ。湯睦真のやつ、日曜日に飛美奈ちゃんと駅近くのショッピングモールに行くって】
沙良【先輩。相変わらず犯罪者みたいなことしますね】
沙良【で?私にどうしろと?】
兎唯【昨日みたいにこっそり後をついていこうよ。こういうのってやっぱり楽しいし】
沙良(兎唯先輩。やっぱりやっていることがストーカーだよ。なんか、怖くなってきたな…)
沙良【私、遠慮します】
沙良【細間先輩の本心がしれたのでもういいです】
沙良【行くなら1人でどうぞ】
兎唯【えー】
兎唯【沙良ちゃんが来ないなら僕も行かない】
●沙良。携帯電話をポケットにしまう。
沙良(とりあえず、よかった…)
●沙良。教室のドアを開け廊下に出ると、ツインテールの少女を見かける。
沙良(あの子は、この前の…)
●沙良。以前ツインテールの少女に殴られたことを思い出す。沙良。ツインテールの少女に駆け寄る
沙良「あの!待って!」
●ツインテールの少女。振り返り、沙良を見る。
ツインテール「あんたは、この前の…」
沙良「どうしても教えてほしいの。あなたが、どうしてあんなに怒っていたのか」
ツインテールの少女「………」
沙良「宮々のこと、詳しいの?」
ツインテールの少女「…あの子とは、幼稚園から一緒だから」
沙良「そうなの…?」
ツインテールの少女「私の名前は、桜文乃。あなたには、話しておいたほうがよさそうね…」
●文乃の回想。幼稚園児の文乃が飛美奈を見かける。
文乃の声「いつも1人で、じっとしている子がいて、私は興味本位で話しかけてみた。でも…、あの子はいつも、私を見るなり瞳に涙を浮かべて、まるで何かに襲われたときのように逃げ出した」
●いろんな場所で何度も飛美奈に話しかける幼稚園児の文乃。
文乃の声「私は納得ができず、何度も話しかけた。でも、何度近づいても、結果は同じだった。その時やっと理解した。『あの子は、人と話すのを怖がっているんだ』って。飛美奈にとって、誰かが近くにいることは、本当に怖いことだったはず。自分がどれだけ飛美奈を苦しめたのか、私はやっと理解した。…だから、飛美奈を絶対に守ると決めた。小学校に入ったとき、飛美奈に嫌がらせをしようとしたやつや、飛美奈の陰口を言っていたやつを、片っ端から殴り倒した。たいていは男子だったけど、飛美奈は昔からかわいくて、何気に一定数の人気があったから、飛美奈の事を気に食わない女子もいた」
●いろんな生徒を殴る小学生のときの文乃。
文乃の声「だから、そいつらが飛美奈に何かする前に、ひたすら殴った。飛美奈自身は、自分のことを目立たなし相手にもされていない存在だと思っているだろうけど、実際は飛美奈のことを好きって男子は多くいたし、言いつけられないだろうからっていじめようとする男子や女子が多くいた。そんな奴らを、私は飛美奈に気づかれないように殴っていった。自分で言うのもなんだけど、あの子が今も平穏に生きているのは、私のおかげなの」
文乃「あなたは、飛美奈のことをどう思っているわけ?」
沙良「どうって…。少なくとも、嫌ってはいないです…」
文乃「そう…。それと、あなたも知っているでしょうけど、あの細間って人…」
沙良「あっ…。細間先輩、宮々さんのことが好きらしいです」
文乃「やっぱり…。噂を聞くに、悪い人ではないらしいけど…、どうも気になるわね。果たして本当に、飛美奈に対して恐怖を与えずに接しているのか…」
沙良「日曜日に、細間先輩と宮々さん、駅前のショッピングモールに行くって」
文乃「…え?」
沙良「知人が、偶然聞いたらしいんですど。気になるなら、直接確認してみたらどうですか…?」
文乃「なるほど…。ありがとう」
●文乃。沙良に背を向けて歩き出す。
沙良(つい言っちゃったけど、万が一、細間先輩が殴られちゃったらどうしよう…)
●飛美奈の部屋。飛美奈が入ってくる。飛美奈。カバンを下ろし、カバンの中身を机の上に出す。
●シツチエリの一部が、天井から飛美奈を見ている。
シツチエリ(僅か、本当に僅かだが、宮々飛美奈の様子が歴史と変化している。歴史が変化しているのか?それとも…)