Too late
「シエンオッパ(お兄さん)〜! お久しぶりです!」

 年末の音楽番組でチラッと会った以来のシエン先輩はスパボ(Superboys)と同世代のソロ歌手。
 実力もビジュアルもトップクラスで女性ファンからはアジアの初恋とも呼ばれる存在だ。  
 YUエンターテイメントのソロ歌手で活動しているのは彼と私だけなので、私がデビューした際も親身になって話を聞いてくれた。
 年は9個上で本当に頼れるお兄ちゃん。マネージャーもシエン先輩と私が親しくすることには口出ししない。
 彼の真面目で努力家なところを会社のみんなもよく分かっているから、彼に限って何か私との問題が起こるはずがないと思っているのだ。

「そういえば高校卒業したんだよね? おめでとう
いつか一緒にお酒呑みに行こうよ」

 こうやって誘ってくれるのもすごく嬉しい。
 私は本格的にカムバックの準備をするまでは時間にも余裕があるため、「いつでも空いてます」と言ったらフッ軽なシエン先輩は「じゃあ今日行こう」と即答した。
 私は重いインドア派なため何日も先の約束をしているとその日が近づくにつれて“本当に行きたいっけ?“と自分の本心を疑い始めるプロなのでこういう突然舞い込む楽しい予定は大歓迎。
 この数年で3、4回ほどこうやって先輩のほうから直接お誘いいただけることがあってその度にすごく嬉しかったし関わりやすい先輩だなと思っていた。
 後輩の私から誘うなんてことはできないしましてや学生だったから自分からはなかなかいけない。
 事務所で自分から声をかけれる相手といえば1年近くデビュー予定組で一緒だった、先輩ガールズグループのお姉さんたちだけ。それを除くと一緒に食事をする仲の人なんてシエンオッパとその他若干名。
 事務所に居場所がないわけではないが、ソロ歌手だしグループとは違う。成績もあまり良くはないから私はみんなに引け目を感じているのかも。シエン先輩だけは私のそんなネガティブな部分を見守ってくれている気がする。

 事務所にレコーディングをしに来ていた先輩を待ちつつ練習をして、ようやく退勤時間。
 シエン先輩が「ごめん、お待たせ」と姿を現したその背後から見知った先輩がひょこっと顔を出した。
 スパボのハル先輩。特別仲が良いわけでも、かといって苦手なわけでもなく、特にこれといった印象のない先輩。
 唯一のイメージがシエン先輩と仲が良いこと。
 2人は違うグループだけど同い年だし練習生時代から仲良かったそう。
 お兄ちゃん気質のシエン先輩と弟気質のハル先輩。相性が合うのがよくわかる。

「こいつも一緒でいい?」
「えっ? あぁ、はい。ぜひぜひ!」

 これが、ハル先輩と少人数でプライベートで時間を共にするのは初めてだった。
 私は元々相当心を開いた相手じゃないと一緒に食事をするのが苦手なのだが、シエン先輩が一緒だから思いの外緊張せず案外素の私でいられた。
 3人で話が意外と盛り上がって先輩ってこんな人だったんだっていうのが今更ながらやんわり分かった。
 プライベートの関わりがない場合は完全にただの職場だけで会う人だから、シエン先輩と今日会ってなかったらハル先輩とはずっと親しくないままだっただろう。
 ハル先輩はスパボでは静かなほうだし少女漫画風美男子なせいか絡み方がよくわからなかった人だ。
 それにあっちも私のことこわいと思ってたみたい。
 9歳下の女の子に怖気付いている先輩がなんだかおかしくなっちゃった。
 最後のほうではシエン先輩にイジられて嬉しそうにしている先輩がなんだか年上とは思えなくて、私まで軽いイジリを仕掛けれるほど親しくなった。

 帰り際、

「俺ってまだオッパじゃなくて先輩なの?」

 ハル先輩が子犬のようなキュルキュルの目で少し悲しそうにしている。
 かわいいと思いつつも「あとちょっとですかね〜」と流すとシエン先輩に「扱いがうまい」と褒められた。
 内心、私と仲良くしてくれてすごく嬉しかった。
 おもしろいからあと少しの間は転がしておこう。

 帰宅後にそれぞれにお礼のカトク(カカオトーク)を送った。
 ハル先輩から《オッパがまた美味しいものご馳走するからね》と返事が来た。
 オッパの押し売り。かわいい先輩だ。
 ハル先輩を知ってもう何年も経つのに、今こうやって新しくキム・ハルという人と出逢ったような気分。
< 11 / 97 >

この作品をシェア

pagetop