Too late
 日付が変わった瞬間に再度デヒョンからの着信。

「今ユリの家ついた」

「はっ⁉︎」

「今からピンポン押しまーす。ピンポーン」

 彼の自声効果音とともに家のインターホンが鳴る。
 嘘でしょ、とインターホン画面を見ると紛れもなくデヒョン。

 解錠して、彼が私の部屋に来るまでの短時間でリップだけ塗り身だしなみを最低限整えて扉を開けた。

「来ちゃった」

 ひまわりの花束を私に差し出して照れくさそうに微笑む彼。
 電話ではついさっきまで事務所に居たと聞いた。
 彼の崩れたヘアスタイルや服装から、練習終わりに事務所からは近くない私の家までただ単純に“おめでとう”を言うためだけに急いで来てくれたのがわかる。

 予想外な彼のサプライズに驚きと感動で胸を打たれた。
 こういう事をされた経験は無くて、初めてデヒョンに対してドキッとした。
 テンションがあがって花束を受け取る前に彼に飛びつく。

「うおっ! 危ないって〜」

 彼を力いっぱい抱きしめると彼もそれに応えるように私を優しく抱きしめ返す。

「ありがとう……うれしい」

「誕生日おめでとう。じゃあまた夜に来るから」

 花束を私の手に持たせてあっさりと体をドアの方へ向けた彼の手を握って引き止めた。

「もう行っちゃうの?」

「帰りたくなくなっちゃうから……今のうちに帰る」

「なんで〜? 私いっつも夜寂しいんだ」

 彼をじっと見つめて両手を握る。

 彼がほんの一瞬だけ、今まで見てきたピュアな彼とは違う、男の顔をした瞬間を私は見逃せなかった。

「じゃあ……今日の夜、いい?」

「へ?」

 動揺して変な声が出て、握っていた手をサッと引っ込める。

「あ、いや、変な意味じゃないよ! 何もしないから!」

 彼はそう言いながらも少し切ない顔を浮かべた。
 もう拒むつもりはなかったのに、悲しませてしまった。
 彼に“嫌じゃないよ“って想いを伝えたくて、小さな背伸びをしそっと口づける。

「じゃあ楽しみに待ってるね」

 彼は耳を真っ赤にして恥ずかしそうに「ありがとう」と言い残し、嬉しげな足取りで帰っていった。
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