Too late
 彼を部屋にあげた。どこか落ち着かない様子だ。
 座って、と言ったら誰もいないソファーの隅っこにちょこんと座る。
 私はピンクが好きだから部屋もピンク基調にしている。
 彼はまるで異空間に落とされたかのようにきょろきょろしていて、居心地が悪そうにも見える。

 私はキッチンからその情景を盗み見て笑いを押し殺した。

「何飲む? あ、デヒョンが好きなコーラあるよ」

 普段、水しか飲まない私の冷蔵庫に、彼のためのコーラが用意されている。
 
「あ……はい」

 彼にペットボトルを手渡して私も彼の隣に座る。
 いつもソファーの上で体操座りしてるからソファーに腰を下ろした瞬間、彼氏が隣にいることも忘れて脚を抱き込んだ。
 癖って恐ろしい。咄嗟に女の子座りに変えたが彼は真正面しか見ていなくて一連の流れに全く気づいてない。よかった……危ない。

「まさか黒髪になるなんてびっくり」

「ああ、そう……だよね」

「みんなから似合うって褒められたでしょ」

「まぁ……はい」

「かっこいい! ずーっと黒髪がいい!」

「ああ……」

 昨日の甘々な雰囲気から一転、急に突き放された。
 造られたみたいに顔のきれいな彼が真顔でいるとすごく冷たくみえて、緊張しているのか本気でちょっと嫌がってるのか、よくわからない。
 こっちの息まで詰まりそうだ。

「ねぇねぇ、なんで敬語なの?」

 体を彼のほうに向けて顔を覗き込んだら、彼がチラッと私を見てまたすぐ真正面に向き直す。
 彼にグッと近づいて、両手で彼の頬を掴み無理矢理私の方を向かせると彼が大きな目を丸くさせている。

「かわいい」

 思ったことがそのまま口に出ていた。
 何も言わず数秒視線を交わらせると彼の顔が綻んで、彼のほうへ力強く抱き寄せられた。
 彼の男っぽいところを目の当たりにしてキュンときた私は彼の首元へ頭を預ける。
 
「ずっと、こうやってくっつきたかったの」

「意外と甘えん坊だよね」

「甘えるのも甘えられるのも好き」

「……俺にしか甘えん坊な所は見せないでね」

 彼のしっとりとした声が耳元で聞こえて、私の脳内に響く。
 彼の体に腕を回してぎゅっと密着した。
 白くて細いきれいな首筋にキスを落とす。

「ユリの誕生日なのに、俺が誕生日の人みたいに幸せだよ」

「まだ何もしてないのに?」
 
「今こうしてるのも夢みたいなんだ」

「もっと幸せなことしよ?」

 顔は見えていないけど、頭を彼の胸元へ寄せると鼓動が速くて、彼も私と同じ気持ちだと察知する。
 
「いいの?」

「誕生日だから欲しい。ぜんぶ……」

 ゆっくりと顔をあげると彼が深い眼差しで私を見ていて、

「俺にも全部ちょうだい」

 彼に頭を引き寄せられて、唇が重なった。
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