Too late
 散歩から帰ってきたらもうあと数分で私の誕生日が終わろうとしていた。
 私の唯一の誕生日にしたいこと、それはお気に入りの映画を彼氏と見ることだ。
 本当は彼が来てすぐに観るつもりでいたんだけど想定した順番と逆になりこの時間から観る羽目に……
 見ている途中で眠りそうだ。
 大好きな恋愛ものの洋画で何度観ても面白いと思える作品。
 いつか好きな人が出来たら一緒に見たいという長年の夢が叶うはずだった。
 開始早々、あくびの移し合いが始まって、お互いの体に寄りかかり存分にリラックスしていると次第に穏やかな劇中BGMや英語話者特有の囁くような語りが、学生時代の午後の国語の授業と似たようなな強烈な眠気を誘った。

「デヒョン……寝そう」

 彼の返事を待たずして、眠りに落ちた。



 目を覚ました時にはすでに辺りは明るかった。
 カーテン越しに差し込む光から、外がお天気で陽が燦々と照っている景色が目に浮かぶ。
 その眩しさにすぐには目を開けず、うっすらと隣を見ると私の顔をまじまじと眺めている彼と目が合った。

「んー……おはよ」

 彼は幸せそうに目尻をさげて、まるで子犬にそうするみたいに私の頭を撫でている。

「寝起きだから見ないでよ~」

「ずっと好きだった子の寝起きの顔を1番近くで見れるってすごく幸せなことなんだよ。今感動してる」
 
 なんともピュアな男だ。

「天使みたいだね」

「こっちのセリフね」

「今日ジウォンちゃん達は何時に来るの?」

「えーっとね......」

 枕元にあるはずの携帯を手探りで探すが、手に何も引っ掛からない。

「あれ?」

 寝転んだまま身の回りを見てもそこにはなかった。

「あっちじゃない? ここに運んできたときはもうぐっすり寝てたから」

 そうだ。私たちソファーにいたのにベッドに移動している。
 彼が運んでくれたんだ。

「ここまで連れてきてくれたの? ありがとう」

「うーん、なんか......お姫様だっこってしてみたかったから」

「重かったでしょ」

「全然。俺の筋力舐めるな」

 確かに、細いと思っていた体は意外にも逞しくて、少年のような彼も他の男の人と何ら変わらず1人のオトコだった。
 昨晩のことを思い出して急に恥ずかしくなり、顔を見られないようにと彼を1人ベッドに残してリビングに移動した。
 テーブルにはコンビニで買ったスナック菓子が開けっぱなしのまま、ペットボトルも放置されていた。
 その残骸の中にひっそりと置かれた携帯を手に取り、ジウォンとの連絡を見返す。
 スタイリストになるため美容専門学校に通っている彼女。2年コースと3年コースがあるそうだが学費のことを考え2年の方を選んでいた。2年間ですべての技術を修得する必要があるため授業が朝から晩まで、そのうえ自主練習の時間も確保している。
 高校卒業したら毎週泊まりに来ると言ってくれていたのに彼女が専門学校に入学して以降うちに泊まったのはたったの1度だ。
 カカオトークでチャットやテレビ電話を頻繁にしているから長く会ってない感じはしていなかった。しかし実際には今日会えると思うとすごく楽しみでワクワクしていて、その感覚も久しぶりすぎて私たちがしばらく会えなかったことを実感する。
 ジウォンは今日だけは学校が終わったら直帰してうちに来てくれるそう。

 寝室から彼が私を呼んでいる。
 それには何の反応もせずにその場で立ち尽くしたままジウォンに返信を打っていたら、彼が背後から忍び寄り私を抱きしめて顔をうずめた。
 拗ねたみたいに私の名を呼びながら彼の腕に収まる私の体をゆらゆらと揺らす。

「んー? ちょっと待って」

「何時までいていいの?」

「4時とか? ジウォンが学校出たら連絡くれるからそれまでかな」

「足りない」

 私が返信を終えたら私の手から携帯を奪い取ってソファーにポンとほうった。

「あっ......まって......」

 彼は軽々と私を抱きかかえる。連れていかれた先はベッド。
 私をゆっくりと横たえ、覆い被さった彼はすでにモードに入った顔をしていた。

 昨日と違って表情も体もすべてがはっきりと見える。
 彼は私以上に恥ずかしそうにしつつも欲に抗えず、理性を崩壊させている。
 彼から貰ったペアのネックレスが、互いの体を密着させる度にぶつかり合い絡み合った。
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