Too late

最悪で最高な日

8月ももう折り返し。事務所のライブが開催され、昨日がリハーサルで今日、明日と公演が続く。10組以上のアーティストが出るため公演時間は4時間越え。会場規模も韓国のなかでは大きいスタジアムだ。この真夏に野外で長時間。それでもチケットは争奪戦だと聞く。
 私は今回の公演が不安で仕方なかった。
 なぜなら男性アイドルグループとのコラボステージがあるから。私が四苦八苦しながら録音したあの甘々ラブソング、相手グループのカムバックで音源が公開されてからアルバムタイトル曲ではないのに世間から注目されて評判が良い。
 想像していなかったヒットにより、本来ならステージ披露しないはずの曲でコラボステージをすることに。
 嫌な言葉を見聞きしないためにもネットで自分の名を検索する習慣はない。
 昨晩はなかなか寝付けずに暗闇で携帯を触っている最中につい掲示板サイトを覗いてしまった。
 ファンよりも圧倒的にアンチが多い。
 考え事が朝にするといいだとか、夜はネガティブになるだとかいう通説を自分で体感した。
 当たり前に何ひとつ良いことはなかった。
 「事務所の失敗作」と揶揄される私。同じ会社のアイドルは皆音楽番組で何週も連続1位をとったりアジア圏以外のヨーロッパや欧米でも単独公演を開催するほどの人気の持ち主ばかり。
 デビュー当初から事務所からの期待はなかった。事務所は私をデビューさせたいというよりもリク先生に経験を積ませたかった。私の歌唱力やダンスは中の上。顔はまあそれなりに良い。加えて、高身長で引きで見たときのスタイルはいいからどうにか舞台上での画は持つだろうとの判断で私が選ばれた。
 それに事務所としては練習生の中で最上位にいる子は次期ガールズグループの主戦力にしたい。会社はグループのデビューには巨額を投資するが私のことは低予算で世に送り出した。ほぼ捨て駒だ。
 会社の読み通りアーティストとしては半端な成績でくすぶっていた。デビューから2年たった頃にお隣の国日本デビューをきっかけに日本では韓国国内よりも人気と知名度を獲得した。
 もちろん嬉しかったけど何より驚いたのはお仕事の単価が高い。しばらくして随分と羽振りはよくなったが、会社の人からは韓国で1位とらないと、とバカにされるし大人たちにはいまだ認められてない。
 自国の大衆も、認めてくれない。そんな中で国内で1番人気の男性アイドルとのコラボ曲が跳ねた。こういうときは輪をかけてアンチが増える。
 そうわかりきっていたのに......
 書いてあった言葉が脳裏に焼き付いて離れないほどに掲示板は悲惨だった。
 「うちのオッパ(お兄さん)をたぶらかすな」「色目使うな」「顔しか良くないくせに歌うな」、ここまでは予想の範疇。でもそんなの序の口で、私の命を脅かす程の誹謗中傷がつらつらとかかれていた。
 結局一睡もできないまま、朝を迎えて仕事へ向かった。
 昨日のリハーサルは時間調整されていてコラボ相手としか会わずに済んだ。
 2日前までは今回のライブに際して別の心配があった。まずデヒョンと職場で居合わせること。そして数ヵ月前にいろいろあったハル先輩もいる。
 どんな顔をしていればいいのだろう。
 
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