Too late
 うちの事務所は大所帯のグループばかりで既にデビュー済みのアーティストだけでも50人近い。今年は練習生もいるため本当に人が多い。
 全員が会場に到着したら召集の声がかかる。
 ケータリングと、たくさんの椅子やテーブル並んでスタッフやアーティストが食事したり待機したりに使う広い控え室へ。

 事務所の会長がやってきて、各グループと挨拶を交わしている。
 私は端っこの方でひっそりと佇む。
 会長は私の少し前の世代までプロデューサーとしても活躍していたけれど今では経営の実権を握るだけの存在。正直な話、私には心底興味がなさそう。
 私のデビュー当時も声はかけてくれるもののじっくり話をすることなんて一切なく、私よりもリク先生のことを気に入っていた。
 会長の担当したスーパーボーイズやシエン先輩、同時期のガールズグループの先輩たちとは和気あいあいと話している。担当アーティストに愛着があるのは当たり前だ。しかし私の後にデビューした男性グループも見るからに気に入られている。結局は稼ぎ頭が好かれるんだ。

 自分の番が回ってきて当たり障りない話を二言三言交わす。
 私も媚びるのが上手いタイプではないしそんなに愛想よくするのも苦手。そもそも会長のことが得意ではない。
 
 自分の待機室まで戻ろうとするとデヒョンの姿が目にとまった。練習生の子たちが集まって会長の話を聞いている。会長の少し後ろにはリク先生。
 デヒョンを含め、皆がすごく真剣な顔で緊張感がこちらにも伝わる。
 この1週間、デヒョンはプレッシャーでよく寝れていないらしい。昨晩も電話中、不安げな彼を勇気づけたくて「デヒョンは充分上手くやってるよ」と言ったら大きなため息をつき黙り込んでしまった。
 少し間が空いて、声を震わせながら言った。事務所の人に「このチームはデヒョンにかかってるから。お前が失敗すると全部ダメになる」とプレッシャーをかけられた、と。
 酷い話だが芸能事務所の大人たちはもれなくこんな人ばかりだ。全ての責任をこちらに押し付けてくる。
 自身が練習生だった頃の記憶が蘇る。
 会社の人から、毎日一緒に練習をして過ごしていたオンニ(お姉さん)たちと6人組グループでのデビューが決まったと聞かされて泣いて喜んだのは中2の春。
 デビュー曲も一緒に練習して録音まで済ませた。
 デビューまで半年が迫った頃に、大人たちの話し合いにより私はチームから外された。
 あの時はまだ幼くて、1度決まったデビューが白紙になったことを幼馴染みに告げるのが恥ずかしくて、会わないように避ける程だった。自分が負け犬に思えて落ち込んだけど、あのままグループの一員だったら実力は足りないしメンバーの足は引っ張るしで別の苦労があっただろう。
 ひとつのグループとして鎖に繋がれている彼らを遠巻きに見ながらぼんやりとそんなことを考える。
 初心を忘れずにここまでやってきたつもりだった。
 恐れにも近い不安と緊迫感を漂わせ、大きなものを背負っている練習生たちを見て考えさせられる。
 今の私は炎上したくないだとか、気まずい相手とどう接しようとかそんなことを気にして……練習生の頃はどんな幸不幸よりも“ステージに立つこと“しか頭になかった。
 
 今さらながら気づいてしまった。私、デヒョンの邪魔をしちゃってる……。
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