Too late
コンコン

 すっかりシウとのカトクに入り浸っていた私はノックの音で現実に戻る。
 基本的に私担当のスタッフはノックせずには出入りする。
 突っ伏していた上体を起こしてドアの方へ顔を向けた。
 
 返事をすると仲の良いお姉さんグループが「何してんの~」と訪れた。1人で待機室に籠っている私を放っておけない優しいお姉さんたちだ。
 デビュー準備を半年間共にした仲間。私は1番年下だったから可愛がってもらっていた。そのうちの1人、私のひとつ年上のスジョンオンニ(お姉さん)とは特に親しくてタメ口で話すし、プライベートでも会う。オンニは少し前に彼氏ができて忙しそうだから自分からは声を掛けれず、久しく会っていなかった。
 いつもならケータリングを食べるときに一緒にいたりするけど、今日はトイレ以外では出歩いてない。私が姿を見せなかったため様子が気になったそうだ。
 私を見るなり「なにその衣装!かわいい~!」と絶賛される。自分のステージでは奇抜な格好が多い。しかしコラボステージではラブソングを歌うため白いレースのミニ丈ドレスだ。珍しくピンヒールを履いてヘアスタイルもドレスに合わせてハーフアップに花冠の飾り。私服はかわいい系でもこんなぶりぶりの衣装で人前に出ることははじめてで普通に恥ずかしい。しかも相手の女性ファンからの反感を余計に買いそう。

 オンニたちは私をぐるりと囲んで座り、話し始める。事務所の公演の際は廊下やステージ手前のケータリング所で遭遇してその場で話すのが普通で、わざわざ待機室内で座って話し込むことはない。
 不思議に思いつつ最近の話を少ししたあとにスジョンオンニが「あのさ......」と切り出して、それまでわちゃわちゃ騒いでいた他の4人も黙った。
 オンニは待機室を見渡し、同じ場にいるスタッフが全然こっちに関心がなさそうなのを確認した。
 テーブルに身をのりだしてその鋭く大きな瞳で私を見つめ、何かを思いきって言い出そうとしている。表情からして悪い話ではなさそう。

「まだ彼氏いないよね?」

 その類いの予感がしていた。なぜならみんなしてニッコニコだから。

「うん、できてない」

「ソンジェの友だちがユリと会ってみたいって言ってて、どう?」

 ソンジェとは同じ事務所のアイドル。私がコラボしたグループの一員だ。
 そしてスジョンオンニの彼氏。練習生期間が被っていたもののあまり関わったことはない。
 2人はずっと友達だったが最近になって関係が発展した。
 練習生の頃からソンジェオッパがスジョンオンニのことを好きだったのは私でも知っている。2人の空気感をみて、付き合っていると思っていた人も多いだろう。しかし当時はソンジェオッパの片想いだった。
 いつかは付き合うことになると思っていた。
 スジョンオンニは頑なに「そういうんじゃないよ」と言っていたけど、ソンジェオッパのグループがデビューして今年で3年目を迎えて付き合い始めたところをみるとスジョンオンニは彼を待ってあげていたんじゃないかと思う。

「私もその友だちに会ったことはないんだけど、写真見たら結構かっこよかったよ」

「あー......」

「今度私と一緒に4人で会ってみない?」

「私まだ恋愛禁止されてて......」

 オンニたちの衝撃を受けた反応に私がびっくりするほど、絶句された。

「はっ!? まだ!?」
「ユリ、あなたもう4年目だよね!?」
「高校卒業したのにまだダメなんだ......すごいわ」

「やっぱりみんな恋愛してるんですね」

「いや、別に私も今は彼氏いないけど3年目ぐらいから恋愛するなとは言われなくなったから」
「もういいでしょ、さすがに」

 チーム内で1番年上のオンニが呆れたように吐き捨てる。

「案外バレないよ。相手が芸能人じゃなければね」

「スジョンは友達以上恋人未満の期間が長すぎて、実際に付き合いはじめても全然変わんないからこの先もバレなさそうだよね」

 たしかに、今までもすでに付き合って5年目のような安定感を醸し出していたから誰も疑わなそう。
 そういえばカップルになってからのスジョンオンニたちを見るのは今日がはじめてだ。なんかちょっと楽しみ。
 オンニたちは会ってみる流れで勝手に話を進めていたが、その場では「ちょっと考えてまたスジョンオンニに連絡します」と言って場をやり過ごした。
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