Too late
 オンニたちがもうすぐステージだからとこの場をあとにした。
 伏せていた携帯を表に返す。シウとのトーク画面が開きっぱなしだ。
 数十分の間、返事をしないままでいたからか新たに私が送ったメッセージにはさっきまですぐについていた既読マークがつかない。

 カトクを閉じて暇になった私はジウォンの好きなお笑い芸人のコントをYouTubeで見る。かわいい顔して芸人マニアなところが実にチョルスの彼女っぽい。
 チョルスも世間的にいうとイケメンだけど言動は飾ってなくて3枚目で見た目に反して親しみやすさがある。
 マイリストに追加していたコント動画の中でもジウォン最推しの一本をタップした。 
 誕生日会のときにジウォンとチョルスにたくさんおすすめされた。2人はよくテレビ通話しながら一緒にコントを見るそう。もうそれ半分家デートじゃん、と突っ込んだら一気に部屋がシーンとしたのを思い出してクスッと笑った。
 ジウォンたちの恋話をシウに昨晩洗いざらし話した。8時間も電話するほど盛り上がった原因はそこにある。シウはチョルスからジウォンの話を聞いていた。男女で話す内容が違うからか私の初耳な話を何個も教えて電話のはじめはどん底だったけど次第に気が紛れて心の痛みが緩和された。ジウォンとチョルスに感謝、というよりシウに感謝すべきか。
 
 見ていた動画内の芸人さんの声が途中でピタッと止まる。画面が切り替わり大きな着信音が響いた。
 “着信 リク先生”
 この電話があの人からなことも、そして同じ会場にいるにもかかわらずわざわざ電話を掛けてくることも、何もかもが不穏。いやな胸のざわめきが着信音とともに一歩ずつ忍び寄る。
 逃げようがない。軽く深呼吸して電話に出た。

「はい」
「話がある。今どこだ?」

 一呼吸も待たずにそう言った。このトーンはおそらく今から怒られる。

「待機室です」
「会場入って1番手前の部屋に来てくれ」

 ペットボトルの水を一気に飲み、覚悟を決めて先生のもとへ向かった。

「失礼します」

 ノックしておそるおそるドアを開ける。
 部屋には先生の姿だけ。テーブルに浅く腰かける先生が私の方を見るなり冷たい表情をした。
 私は彼の鋭い目に耐えられずに肩を窄めて俯く。
 扉が私のうしろでゆっくりと閉まり、進まない足を動かして彼に近寄る。

「思い当たる節は?」

 もしかして、デヒョンのこと......なわけないよね
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