Too late
「リク!お前もいたのかよ、こっちこいよ」
ヒチョル先輩が大声で彼の名を発した。
えっ、やだ、今ちょうど考えてたのにご本人様登場しちゃうの!?
冷静に冷静に。
本当は口角があがってしまいそうなところ、真顔を貼り付けて振り返ったら片想いの相手がこっちに歩いてきた。
しかもスーツ……!
もはや相手の顔なんてほぼみずに「こんにちは」と挨拶をする。
私の目の前にやってきた彼は今日も変わらず不健康な青白い顔で目の下にはくまを作っている。
先生は私の元プロデューサーだ。
私の担当を1月末までで終えて、今は新しいグループのデビューに向けての準備を一緒にしている。
毎日会っていた好きな人に理由をつけないと会えなくなる辛さを乗り越えようと気を引き締めていたのに拍子抜け。
「なんだ、居たんだ。」
「ヒチョルオッパに呼ばれたのできました。
先生こそどうしたんですか?」
「俺も結婚式に招待されてるから。」
先生はこの事務所にきて7、8年経つし事務所の人との関わりが多い。特に先輩たちの曲はこれまでたくさん提供してきたから招待されて当たり前。
それでスーツなのか。いつもと違う姿を見て照れちゃう。
「あと、おめでとう。これ卒業祝い。」
彼が突き出した紙袋にはイヴ・サンローランのロゴが。反射的に受け取ったが嘘みたいな状況に「へ?」と腑抜けた声しか出なかった。
リクPDが私に卒業祝いのプレゼントを、、、?
「わ、私にですか⁉︎」
戸惑う私と「おう」と呟く先生を交互に見てヒチョル先輩は先生の肩を叩いてこう言った。
「なんだよ、お前。自分から“ユリをここに呼び出せ。“って頼んできたくせにそういうことだったのかよ〜照れ屋だな〜」
先輩の暴露にも先生は動じずに
「ユリは俺から呼び出されたら怒られるって勘違いするからヒチョルヒョンに頼んだんだよ」と。
好きな人からのイヴ・サンローランに私は嬉しさを堪えられるわけもなく、満面の笑みでお礼を伝えるも先生の反応はまるで何事もなかったかのように普段通りだ。
もしかしてこのプレゼント、紙袋と中身全然違うものじゃないよね?
私からすると私のことを一応女の子と認識してくれている気がして舞い上がってたけど私の好きな袋麺詰め合わせセットなんかじゃないよね?
もしそうでも先生が私のためにくれた物ってだけで嬉しいけど欲を言えば女の子扱いされたい。
「リクヒョン相変わらずクールだね〜」
「もう仲直りしたのか?」
悪戯っ子みたいな顔をして笑ってる先輩たち。
彼らが言っているのは数ヶ月前の話だ。