Too late
 和気あいあいとした雰囲気で舞台に上がり、無事に初のコラボステージを成功させた。イヤモニをしていても耳に届く、女性ファンの絶叫にも近い黄色い声。
 人気絶頂期の男性アイドルが浴びる黄色い声を直に体感して、たまにいる自分が何してもいいと思ってそうな男性アイドルの気持ちが理解できた。
 ステージではダンスは無かったから途中で互いに向かったり、歌い終わりに寄り添って頭だけちょこんとくっ付けるシーンがあった。
 そういう場面で歓声が上がるのは予想済みだったけど、オッパの場合は何気ない一挙一動に歓声が上がっていた。ファンはくしゃみしても喜びそう。これは調子乗っちゃうわ......
 
 舞台から降りてマイクをスタッフに渡し、「よかった~!」と2人でハイタッチ。
「明日はもっと上手く歌えそうです」
「期待しとくね! ってかそんな堅くならなくていいのに、俺後輩だし」
「あまり接点がなかったから......」
「だよねー、でももう今は接点あるじゃん?」
「じゃあ気楽に接しますね」
「うん、俺も~。なんか勝手に男性が苦手なんだと思ってたから。コラボできて良かった」
 練習生時代の関係もなくてデビューしてから知り合った私に、接しづらかっただろう。彼は正直な人だ。思っていたことを包み隠さず打ち明けてくれたのが、もう彼が私には気を遣っていないのがわかって嬉しかった。
 彼が人気なのが頷ける。気取っていなくて親しみやすい。
 コラボに際して後ろ向きな気持ちで、知らされたときも悪い意味での「えぇ......」が出たほどだったけど、逃げなくて良かった。
 
「ジョンヒョン~、こっち来いよ~」
 ケータリング所を通りかかって、オッパのことを待っていたメンバーから声がかかった。
「じゃあ、おつかれ」
 爽やかに手を軽く振ったオッパは仲間の群れに加わった。
 オッパが加わるなり一気に皆がふざけはじめる。
 メンバーからも愛されているようだ。
 なんだか微笑ましいな......とメンバーのいない私は羨望の思いで彼の後ろ姿を見届けた。
 待機室に戻ろうと視線を正面に戻す。その途中で別のテーブルにお兄さんたちが固まっているのを一瞬で認識した。
 同年代の親しい人たちが集まっていてよく見ずとも誰がいるのか想像できる。
 嫌な予感。その中にはおそらくシエン先輩がいて、仲のいいハル先輩をはじめとしたスパボのメンバーがいるはず。
 0,01秒の間にも私のレーダーは正確にリク先生の気配をしっかりと感じ取った。
 まずい。
 存在に気づいていないことにしよう。
 足を一歩、大きく踏み出したところで背後から声をかけられた。
「ユリ! 久しぶり」
 シエン先輩。なんだあの中にいなかったんだ。
「オッパ、お久しぶりです」
「コラボ曲めちゃくちゃ良かったよ」
「本当ですか! オッパに言われるとうれしいです......ありがとうございます。」
 ハル先輩との一件から距離ができた。私が距離を作ってしまっている。
 今回のラブソングのデュエットの話が舞い込んできたとき、本当はシエン先輩に相談をしかった。
 今までも新しい仕事に心配や不安を感じるときは先輩に背中を押してもらっていたから。
 ハル先輩の告白を断ったあと、シエン先輩は「ハルとのことは気にしないで。俺とユリの関係はそれとまた別だから。これからも仲良くしようよ」と言ってくれたけど、以前のように私から連絡するのは憚られた。
 だからこそこのコラボをうまく乗り越えれた自分のことは心から褒め称えたいし、シエン先輩からの言葉がいつになく身に染みて心が軽くなりじんわりと暖まる。
「本当よくやったよ」
「実はオッパに話したかったんです......コラボ決まってから不安で不安で」
「まあ。そうだよね。ジョンヒョンのファンの勢いもすごくて色々考えちゃうよね。それにいつもと違う歌い方だったし、難しかったでしょ~」
 悩んでいたことを物の見事に当てた。自分の苦労の分かり手がいるというだけで心救われる。
 先輩の偉大さに感激した私は「オッパ~」と泣きべそをかき、先輩はしょうがないなあといった風に笑って私の肩をポンポンと軽く叩いた。
 不安だったけど挑戦して良かったです、そんな台詞がスッと口からで出た。
 私は初めて自分の弱さも受け入れて認めることができた気がして、自信の成長を感じる。
 待機室に戻るところだったシエン先輩と歩きながら久しぶりに話す。
 仕事のこともだけど、先輩は「遠慮しないでって言ったのに全然連絡くれないじゃん」と嘆いていてそっちのほうが気になっていたようだった。
 先輩は決して冷たい人ではないけどちゃんと自分だけの目で人や物事を見て判断する人だ。周りの印象に左右されずブレない。その部分も尊敬している。
 自分の親友を振ったからと私への対応を変える人じゃないのはわかっていたのに、私は先輩から話しかけられるのを待っていたみたい。
「またご飯いきましょう。私から必ず誘いますから」
「おう。絶対にな」
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