Too late
「ちょっとちょっと、今教えてもらったんだけどね」
他のテーブルから小走りで駆け寄ってきた先輩が、円卓の空いていた席に座った。
皆が一斉に彼女のほうへ身を乗り出す。
「あの人、AJの御曹司なんだって」
情報が早い。
お姉さん一同、ひそひそと驚きの声を隣同士で共有しあっている。
「え~やばーい、一目惚れしたかも~」
嘘でしょ、大変だ。
言ったのは、私の中で交遊関係が派手で根っからの芸能人な印象の先輩。
半年前に男性アイドルとの熱愛も報じられてファン公認のカップルだったはずだけど、どうやら終わっていたらしい。
セクシーでゴージャスな雰囲気、スタイルの良さで知られている。
彼女とは関わりがないけれど見た目と同じで性格も豪快なイメージがある。
「あんたはすぐに惚れちゃうタイプだからね」
「え~これは遊びじゃなくて本気のほうだよ!」
逆に遊びであって欲しかった。
こうなるとシウとの関わりは絶対に知られないほうがいい。
すっかり乙女の顔になってメンバーと話している先輩の姿は見てはいけない気がした。
スジョンオンニに「ちょっと疲れちゃったから帰る。またうちに遊びにでも来て」と耳打ちして先輩たちには感じ良く挨拶をする。
マネージャーに帰る旨を伝えようと、探す。
同年代の社員が固まっている円卓にその姿を見つけた。
同席する人の話に手を叩いて大笑いしていて楽しそう。
声をかけるのに躊躇するけど一刻も早くこの場を立ち去る必要がある。
歓談中の集団のわいわいムードを壊さないよう、そばにこっそりと近づき話しかけた。
「ミレオンニ、私帰りますね」
帰ると言った私に心配そうに顔を近づけた。
「体調でも悪い? 大丈夫?」
「あっ、いや、ちょっと緊張で疲れただけで......」
「なら良いけど、じゃあおつかれさま」
飲み会って不思議だなぁ。
こういう空気が全然好きじゃない私は帰るのが決まった瞬間、解放された気分になって楽になるのに、お酒好きな大人たちは”途中で帰るなんてよっぽど具合が悪いのかも”という思考に至っているから。
宴会なんて年1でいい。
事務所のハロウィンパーティーは合間にゲームもあって、結構好きなんだけどただの飲み会は間が持たない。
マネージャーと同席の人たちにお疲れさまですとお辞儀して、ホールの出口に向かう。急激に体も心も軽くなった。
まるで、体調不良で学校を休むことになりお母さんが学校に連絡を入れてくれた瞬間、余裕で学校に行けそうなくらい調子が良くなるアレみたい。
帰りつく頃には何時になるだろう、携帯をみながら歩いていると後ろから呼び止められる。
「これこれ! 今日も渡し忘れるところだった」
慌てたミレオンニが私に充電器を渡す。
いつも鞄にプラグ付き充電器とモバイルバッテリーを持ち歩く彼女が昨日は珍しくどちらも忘れていて貸したままだった。
昨日、家に帰ってから気づいた。
家にあるモバイルバッテリーでどうにか事なきを得たが、明日は午後からのスケジュールまで会わないから危ないところだった。
「完全に忘れてた、ありがとうございます。じゃ、お疲れさまです」
「うん、お疲れ~」
背を向けようと振り返ったその瞬間、
「あっ、あぶなっ......」
斜め後ろで聞こえたオンニの声。
振り返る先に人影を感じて、ぶつかるのがわかったが近距離のあまり避けようがない。
思いっきり体当たりしてしまった。
衝撃で目を閉じた。
そっと瞼の力を弛ませて開く。私の視界は黒い壁に埋め尽くされている。
忘れていた一呼吸を思い出して、大きく吸った。
漂うこの匂い、知っている。
他のテーブルから小走りで駆け寄ってきた先輩が、円卓の空いていた席に座った。
皆が一斉に彼女のほうへ身を乗り出す。
「あの人、AJの御曹司なんだって」
情報が早い。
お姉さん一同、ひそひそと驚きの声を隣同士で共有しあっている。
「え~やばーい、一目惚れしたかも~」
嘘でしょ、大変だ。
言ったのは、私の中で交遊関係が派手で根っからの芸能人な印象の先輩。
半年前に男性アイドルとの熱愛も報じられてファン公認のカップルだったはずだけど、どうやら終わっていたらしい。
セクシーでゴージャスな雰囲気、スタイルの良さで知られている。
彼女とは関わりがないけれど見た目と同じで性格も豪快なイメージがある。
「あんたはすぐに惚れちゃうタイプだからね」
「え~これは遊びじゃなくて本気のほうだよ!」
逆に遊びであって欲しかった。
こうなるとシウとの関わりは絶対に知られないほうがいい。
すっかり乙女の顔になってメンバーと話している先輩の姿は見てはいけない気がした。
スジョンオンニに「ちょっと疲れちゃったから帰る。またうちに遊びにでも来て」と耳打ちして先輩たちには感じ良く挨拶をする。
マネージャーに帰る旨を伝えようと、探す。
同年代の社員が固まっている円卓にその姿を見つけた。
同席する人の話に手を叩いて大笑いしていて楽しそう。
声をかけるのに躊躇するけど一刻も早くこの場を立ち去る必要がある。
歓談中の集団のわいわいムードを壊さないよう、そばにこっそりと近づき話しかけた。
「ミレオンニ、私帰りますね」
帰ると言った私に心配そうに顔を近づけた。
「体調でも悪い? 大丈夫?」
「あっ、いや、ちょっと緊張で疲れただけで......」
「なら良いけど、じゃあおつかれさま」
飲み会って不思議だなぁ。
こういう空気が全然好きじゃない私は帰るのが決まった瞬間、解放された気分になって楽になるのに、お酒好きな大人たちは”途中で帰るなんてよっぽど具合が悪いのかも”という思考に至っているから。
宴会なんて年1でいい。
事務所のハロウィンパーティーは合間にゲームもあって、結構好きなんだけどただの飲み会は間が持たない。
マネージャーと同席の人たちにお疲れさまですとお辞儀して、ホールの出口に向かう。急激に体も心も軽くなった。
まるで、体調不良で学校を休むことになりお母さんが学校に連絡を入れてくれた瞬間、余裕で学校に行けそうなくらい調子が良くなるアレみたい。
帰りつく頃には何時になるだろう、携帯をみながら歩いていると後ろから呼び止められる。
「これこれ! 今日も渡し忘れるところだった」
慌てたミレオンニが私に充電器を渡す。
いつも鞄にプラグ付き充電器とモバイルバッテリーを持ち歩く彼女が昨日は珍しくどちらも忘れていて貸したままだった。
昨日、家に帰ってから気づいた。
家にあるモバイルバッテリーでどうにか事なきを得たが、明日は午後からのスケジュールまで会わないから危ないところだった。
「完全に忘れてた、ありがとうございます。じゃ、お疲れさまです」
「うん、お疲れ~」
背を向けようと振り返ったその瞬間、
「あっ、あぶなっ......」
斜め後ろで聞こえたオンニの声。
振り返る先に人影を感じて、ぶつかるのがわかったが近距離のあまり避けようがない。
思いっきり体当たりしてしまった。
衝撃で目を閉じた。
そっと瞼の力を弛ませて開く。私の視界は黒い壁に埋め尽くされている。
忘れていた一呼吸を思い出して、大きく吸った。
漂うこの匂い、知っている。