Too late
オンニを囲む社員は私に気づくなり顔を歪める。
大失敗をやらかした奴認定されてるんだろうなぁ......
「オンニ、私が弁償はするんで大丈夫です。本当にごめんなさい」
「よりにもよってAJの御曹司って」
「他の人ならまだしもねえ......」
私はミレオンニに謝っているのに、それに答えるのは腕を組み横柄な態度の社員。
こんなときばかり口出しするんだ。
私たちの前に立ちはだかり、蔑みの視線をぶつけるのは私が属している制作チーム陣。
事務所内のアーティストをいくつかのチームに振り分けている、それが制作チームだ。
アーティストの育成、楽曲、活動戦略をおこなう。
昔はアーティスト数も少なく、事務所創設者兼プロデューサーの会長が全グループの面倒を見ていたが、私がデビューした頃には分業制になっていた。
私と同じチームにいるのはスーパーボーイズとシエン先輩。
アーティスト育成の力の入れ具合も制作センターの最終決定権をもつセンター長にかかっている。
うちのチーム長はシエン先輩がお気に入りで、私はそうアテにされていない。
これでさらに見限られそう......来年の活動も期待できない。
ミレオンニは「私が変なところで止めちゃったからいけなかった」とすっかり狼狽えている。
もとはといえば歩きながら携帯ばっか見てたシウも悪いはずなのに、この言われようは私が100悪いことになっている。
大人の世界ってこわい。
私とオンニに苦い顔を向けていた制作センター陣が、私の頭上に目をやるとコロリと表情を変えて会釈する。
何かと思えばシウだった。
スッと隣に現れた彼が俺に任せろ、という風に目線を送る。
「大丈夫ですから、もう気にしないでください」
にこっと爽やかな笑顔、上向きの声でそう言ったシウ。
嘘みたいに感じが良い。
周囲は事の行く末を気にしているが、私はシウがちゃんと社会人していることしか気にならない。
がっちがちの作り笑顔でもなく自然な笑みでオンニに対応している。
「明日会社名義でこちらから送金させていただきますので、これ私の社用の連絡先です。お渡ししておきます。本当に申し訳ございませんでした」
ミレオンニが名刺を差し出し、頭をさげる。
「オンニ、私が弁償——」
「本当に大丈夫ですから」
「いえ、お詫びをさせていただかないと......」
「お気遣いありがとうございます。でも、本当に何も......」
一瞬黙った彼が眉をピクリと動かして私をまじまじと見た。
「え、なに」
「じゃあ......彼女のことを大事にしてください」
目を丸くする大人たち。
何を言うかと思えば、そんなこと。
ミレオンニは私と彼を交互に見る。
黒眼が左右を行ったり来たり、繰り返していておもちゃのようだ。
「はい......?」
理解できないといった反応だろうか。
訳がわからなくて当然だ。
はじめて宴の場に登場したAJの御曹司が、事務所の中堅アイドルとぶつかって携帯破損。
激怒するかと思いきや弁償も受け入れず、先程ぶつかって出会ったばかりのアイドルを大事にするよう乞う。
実におかしな話だ。
ある社員は聞き間違いかと頭をに手を当て、またある社員は首をかしげる。
「どういうことでしょうか......」
「彼女のマネージャーさんなんですよね?」
「へっ? あっ......はい」
「僕、実は彼女のファンなんですよ。本当は親しくなりたいくらい——」
「すみません私恋愛禁止なんで」
再度、爆弾発言を投下した彼にすかさず突っ込みを入れた。
「恋愛したいなんて言ってないけど」
「......!」
オンニ、いつもの調子で言い返して!
目に力を込めて表情で訴える。
数秒間私をじーっと見て何かを考えている顔。
大きく息を吸うと、勢いよく言った。
「お友達が多くはない子なので、是非仲良くしてあげてください!」
「ええ!?」
常備している対”ユリに言い寄る男”専用バリアはどこへ消えたのか。
何時も問答無用で男を跳ね返すミレオンニまでをもこう変えてしまった。
オンニはまるで砂糖でもかけれらたかのようなマイルドな顔つきと声色。
うっとりしているようにも見える。
「うちのユリを気に入っていただけるとは、なんとも誇らしいです」
さっきまであんなに冷たい目で私を見下していた人たちは、好き勝手言いはじめた。自分達が育てたかのような口ぶり。
チームのお荷物だと噂されているのは知っている。反吐が出る。
怖いぐらいの満面の笑みでシウの機嫌をとる彼らに心底嫌気がさす。
「......帰ります」
大失敗をやらかした奴認定されてるんだろうなぁ......
「オンニ、私が弁償はするんで大丈夫です。本当にごめんなさい」
「よりにもよってAJの御曹司って」
「他の人ならまだしもねえ......」
私はミレオンニに謝っているのに、それに答えるのは腕を組み横柄な態度の社員。
こんなときばかり口出しするんだ。
私たちの前に立ちはだかり、蔑みの視線をぶつけるのは私が属している制作チーム陣。
事務所内のアーティストをいくつかのチームに振り分けている、それが制作チームだ。
アーティストの育成、楽曲、活動戦略をおこなう。
昔はアーティスト数も少なく、事務所創設者兼プロデューサーの会長が全グループの面倒を見ていたが、私がデビューした頃には分業制になっていた。
私と同じチームにいるのはスーパーボーイズとシエン先輩。
アーティスト育成の力の入れ具合も制作センターの最終決定権をもつセンター長にかかっている。
うちのチーム長はシエン先輩がお気に入りで、私はそうアテにされていない。
これでさらに見限られそう......来年の活動も期待できない。
ミレオンニは「私が変なところで止めちゃったからいけなかった」とすっかり狼狽えている。
もとはといえば歩きながら携帯ばっか見てたシウも悪いはずなのに、この言われようは私が100悪いことになっている。
大人の世界ってこわい。
私とオンニに苦い顔を向けていた制作センター陣が、私の頭上に目をやるとコロリと表情を変えて会釈する。
何かと思えばシウだった。
スッと隣に現れた彼が俺に任せろ、という風に目線を送る。
「大丈夫ですから、もう気にしないでください」
にこっと爽やかな笑顔、上向きの声でそう言ったシウ。
嘘みたいに感じが良い。
周囲は事の行く末を気にしているが、私はシウがちゃんと社会人していることしか気にならない。
がっちがちの作り笑顔でもなく自然な笑みでオンニに対応している。
「明日会社名義でこちらから送金させていただきますので、これ私の社用の連絡先です。お渡ししておきます。本当に申し訳ございませんでした」
ミレオンニが名刺を差し出し、頭をさげる。
「オンニ、私が弁償——」
「本当に大丈夫ですから」
「いえ、お詫びをさせていただかないと......」
「お気遣いありがとうございます。でも、本当に何も......」
一瞬黙った彼が眉をピクリと動かして私をまじまじと見た。
「え、なに」
「じゃあ......彼女のことを大事にしてください」
目を丸くする大人たち。
何を言うかと思えば、そんなこと。
ミレオンニは私と彼を交互に見る。
黒眼が左右を行ったり来たり、繰り返していておもちゃのようだ。
「はい......?」
理解できないといった反応だろうか。
訳がわからなくて当然だ。
はじめて宴の場に登場したAJの御曹司が、事務所の中堅アイドルとぶつかって携帯破損。
激怒するかと思いきや弁償も受け入れず、先程ぶつかって出会ったばかりのアイドルを大事にするよう乞う。
実におかしな話だ。
ある社員は聞き間違いかと頭をに手を当て、またある社員は首をかしげる。
「どういうことでしょうか......」
「彼女のマネージャーさんなんですよね?」
「へっ? あっ......はい」
「僕、実は彼女のファンなんですよ。本当は親しくなりたいくらい——」
「すみません私恋愛禁止なんで」
再度、爆弾発言を投下した彼にすかさず突っ込みを入れた。
「恋愛したいなんて言ってないけど」
「......!」
オンニ、いつもの調子で言い返して!
目に力を込めて表情で訴える。
数秒間私をじーっと見て何かを考えている顔。
大きく息を吸うと、勢いよく言った。
「お友達が多くはない子なので、是非仲良くしてあげてください!」
「ええ!?」
常備している対”ユリに言い寄る男”専用バリアはどこへ消えたのか。
何時も問答無用で男を跳ね返すミレオンニまでをもこう変えてしまった。
オンニはまるで砂糖でもかけれらたかのようなマイルドな顔つきと声色。
うっとりしているようにも見える。
「うちのユリを気に入っていただけるとは、なんとも誇らしいです」
さっきまであんなに冷たい目で私を見下していた人たちは、好き勝手言いはじめた。自分達が育てたかのような口ぶり。
チームのお荷物だと噂されているのは知っている。反吐が出る。
怖いぐらいの満面の笑みでシウの機嫌をとる彼らに心底嫌気がさす。
「......帰ります」