Too late
その日の夜、トレーナーのキム先生にリクPDのレッスン動画を送った。
今後は、今日のPDのレッスンを基に練習を進める。
動画は長尺のためしばらく返事が来ない。
携帯を置いて、ジウォンが好きな俳優の出ているドラマをなんとなく選んで流す。
大学生の恋愛を描いた物語。
暇なときにタイミングよく放送してたら見るくらいで内容すべてを追えていない。
今夜は、ちょうど2人が結ばれる回だとジウォンから聞いている。
電話すると決まってそのドラマの話だ。
毎週は見ていない私に登場人物の名前を暗記させちゃうほどの熱弁ぶり。
チョルスも英才教育を受けた末にハマったらしく、この前は私を差し置いてドラマの話ばかりしていた。
先週の予告で、世間の盛り上がりは凄かったそうだ。
数日前の通話で「今週は絶対に見て」と言われた。
夕方にもジウォンから【ドラマ始まる前にトイレ済ませておいた方がいい】とカトクがきた。
ヒロインは恋愛未経験のうぶで冴えない女の子という設定。
しかしその役を演じる人はもちろん綺麗で、少々設定に無理がある。
すっぴんで髪も洗いざらしにしているがそれでも美人。
ジウォンの推し俳優が相手役で、今流行りのツンデレなキャラクターだ。
ジウォンは、この2人が撮影風景動画でやけにボディタッチが多いから絶対にデキてるとしきりに言う。
美男美女でお似合いだからよりそう見えるのかもしれないけど、たしかに2人のお互いを見る目つきは甘い。
内容よりも2人の仲を証拠付けるヒントを探すほうに集中してしまう。
私はこの先も演技は絶対にしないけど、自分だったらすぐに熱愛バレしそう。
いくら仕事であっても私は顔に出る。
俳優さんたちって凄いな......
テレビを注視していた私をカトクの通知音が呼ぶ。
おそらくジウォンだ。
ラブシーンの終わりかけに携帯は鳴った。
【今のヤバイ!】って実況をしていそう。
画面をタップして通知欄を確認する。
リクPD【今後は俺が歌をみることになったから】
「えっ!?」
キム先生が担当を降りた。
私が何か失礼なことでもしてしまったのだろうか。
いつも優しくあたたかい目で見守ってくれる先生のことだから、何も言わずに変わった可能性もある。
焦りを抱きながら、変更の経緯を彼に尋ねた。
【俺からの申し出で先生も承諾してくれて、今決まったばっかりだよ】
【なんでですか?】
【俺が面倒見たいと思って】
もちろん作曲者本人がコーチングするのが良いし、PDにはその力もあるから変更になるのはそう不自然なことじゃない。
だけどPDから直々の申し出......
今日あれほど誉めてくれながらも実は私の歌唱にショックを受けていたなんてこと、有り得そう。
困惑し、トーク画面を開いたままで放置する。
手元で鳴り響いたのは相手からの着信。
「もしもし?」
「あ、俺だけど、勝手に決めたらダメだった?」
「......いや、でも先生お忙しいじゃないですか?」
「んー、毎日だと無理だけど週に3、4回だから空けれる」
「私、まだ全然歌えてなかったですか?」
「えっ? ああ、いや、勘違いするな。そういうことで変わったわけじゃない」
知らせが届いた瞬間からピンと伸ばしていた背筋、PDの言葉を聞いたら力が抜けてソファーの背もたれに腰を預ける。
「今日、あの時間がすごい息抜きになった。もちろんテキトーじゃなくて真剣に教えてるよ。だけど、ユリはためらわずにその場で意見を言って気になることは尋ねて、こっちの言葉も素直に受け取ってくれるからやりやすいんだ」
ひょっとすると、先生は私に安心感を感じているのだろうか。
「雑に扱ってくださいって言ってくれたし、まあ雑になんて扱わないけどね」
そう言って、ふふんと笑った。
「じゃあ......是非私のレッスンの時間を休憩に使ってください。私もあまり先生に神経使わせないようにがんばるので」
「おう、よろしくな」
次回の日程を取り付けて、電話が切れたら力の入っていた頬を膨らましふぅーっと大きく息を吐く。
“ミヨン!危ない!”
テレビからの叫び声、つけていたドラマの存在を思い出す。
画面では、青信号を渡るヒロインが車に衝突されかけて彼氏がその名を叫ぶというありがちな展開が繰り広げられていた。
流れ出したエンドロール。
PDと話している間に終わった。
普通に考えて、ヒロインはこの事故で死なない。
もう先が読めるから見ない。
“次回 最終章突入”
こちらの注意をひきつける効果音とともにでかでかと表示された字幕、予告の映像が流れ出した。
無感情でテレビをぶちっと消して、床につく準備に取り掛かった。
今後は、今日のPDのレッスンを基に練習を進める。
動画は長尺のためしばらく返事が来ない。
携帯を置いて、ジウォンが好きな俳優の出ているドラマをなんとなく選んで流す。
大学生の恋愛を描いた物語。
暇なときにタイミングよく放送してたら見るくらいで内容すべてを追えていない。
今夜は、ちょうど2人が結ばれる回だとジウォンから聞いている。
電話すると決まってそのドラマの話だ。
毎週は見ていない私に登場人物の名前を暗記させちゃうほどの熱弁ぶり。
チョルスも英才教育を受けた末にハマったらしく、この前は私を差し置いてドラマの話ばかりしていた。
先週の予告で、世間の盛り上がりは凄かったそうだ。
数日前の通話で「今週は絶対に見て」と言われた。
夕方にもジウォンから【ドラマ始まる前にトイレ済ませておいた方がいい】とカトクがきた。
ヒロインは恋愛未経験のうぶで冴えない女の子という設定。
しかしその役を演じる人はもちろん綺麗で、少々設定に無理がある。
すっぴんで髪も洗いざらしにしているがそれでも美人。
ジウォンの推し俳優が相手役で、今流行りのツンデレなキャラクターだ。
ジウォンは、この2人が撮影風景動画でやけにボディタッチが多いから絶対にデキてるとしきりに言う。
美男美女でお似合いだからよりそう見えるのかもしれないけど、たしかに2人のお互いを見る目つきは甘い。
内容よりも2人の仲を証拠付けるヒントを探すほうに集中してしまう。
私はこの先も演技は絶対にしないけど、自分だったらすぐに熱愛バレしそう。
いくら仕事であっても私は顔に出る。
俳優さんたちって凄いな......
テレビを注視していた私をカトクの通知音が呼ぶ。
おそらくジウォンだ。
ラブシーンの終わりかけに携帯は鳴った。
【今のヤバイ!】って実況をしていそう。
画面をタップして通知欄を確認する。
リクPD【今後は俺が歌をみることになったから】
「えっ!?」
キム先生が担当を降りた。
私が何か失礼なことでもしてしまったのだろうか。
いつも優しくあたたかい目で見守ってくれる先生のことだから、何も言わずに変わった可能性もある。
焦りを抱きながら、変更の経緯を彼に尋ねた。
【俺からの申し出で先生も承諾してくれて、今決まったばっかりだよ】
【なんでですか?】
【俺が面倒見たいと思って】
もちろん作曲者本人がコーチングするのが良いし、PDにはその力もあるから変更になるのはそう不自然なことじゃない。
だけどPDから直々の申し出......
今日あれほど誉めてくれながらも実は私の歌唱にショックを受けていたなんてこと、有り得そう。
困惑し、トーク画面を開いたままで放置する。
手元で鳴り響いたのは相手からの着信。
「もしもし?」
「あ、俺だけど、勝手に決めたらダメだった?」
「......いや、でも先生お忙しいじゃないですか?」
「んー、毎日だと無理だけど週に3、4回だから空けれる」
「私、まだ全然歌えてなかったですか?」
「えっ? ああ、いや、勘違いするな。そういうことで変わったわけじゃない」
知らせが届いた瞬間からピンと伸ばしていた背筋、PDの言葉を聞いたら力が抜けてソファーの背もたれに腰を預ける。
「今日、あの時間がすごい息抜きになった。もちろんテキトーじゃなくて真剣に教えてるよ。だけど、ユリはためらわずにその場で意見を言って気になることは尋ねて、こっちの言葉も素直に受け取ってくれるからやりやすいんだ」
ひょっとすると、先生は私に安心感を感じているのだろうか。
「雑に扱ってくださいって言ってくれたし、まあ雑になんて扱わないけどね」
そう言って、ふふんと笑った。
「じゃあ......是非私のレッスンの時間を休憩に使ってください。私もあまり先生に神経使わせないようにがんばるので」
「おう、よろしくな」
次回の日程を取り付けて、電話が切れたら力の入っていた頬を膨らましふぅーっと大きく息を吐く。
“ミヨン!危ない!”
テレビからの叫び声、つけていたドラマの存在を思い出す。
画面では、青信号を渡るヒロインが車に衝突されかけて彼氏がその名を叫ぶというありがちな展開が繰り広げられていた。
流れ出したエンドロール。
PDと話している間に終わった。
普通に考えて、ヒロインはこの事故で死なない。
もう先が読めるから見ない。
“次回 最終章突入”
こちらの注意をひきつける効果音とともにでかでかと表示された字幕、予告の映像が流れ出した。
無感情でテレビをぶちっと消して、床につく準備に取り掛かった。