Too late
幼馴染
「おじゃましまーす!」
卒業式の翌日、仲良し3人組での卒業祝いは私のひとり暮らしの家で開く。
13時って決めていたのに2人揃って仲良く遅刻してうちにやってきたジウォンとチョルス。
「うわー部屋めっちゃ綺麗〜! 広くなったね!」
新居に一番最初に招いたお客さんたちは興味津々で部屋を見て回っている。
高校進学とともに私はひとり暮らしを開始した。実家だと早朝に出て行ったり真夜中に帰ったりと両親の生活リズムが乱れかねないと思って家を出た。
それと同時期にデビューしたとはいえ、韓国アイドルの宿命である精算システムのため数年間無給だった。
精算とはデビューするまでの練習生期間にかかった費用をデビュー後の稼いだお金で決済して、それが全て完了したらようやく初めてのお給料を貰えるシステム。
うちの事務所は先輩たちが輝かしい成績をおさめてくれているお陰でその事務所からデビューした私のことも見てくれる人はそれなりにいた。だから精算も思っていたほど長くは待たず、昨年夏ごろに無事に受け取った。
家賃は高校3年間は両親に出してもらっていたがもう社会人だしこれからは自分で払うことになって新しい家に引っ越した。それなりの給料を貰ってるから割と良い家だ。
オートロックでセキュリティーもしっかりしてるし、なんなら誰かと同居できそうな広さ。
慣れ親しんだ家ともお別れして既に寂しさを感じていたところ、この2人が来てくれて良かった。
年末から今に至るまで、音楽祭や授賞式で忙しかったし2人も卒業後の進路の準備で忙しくしていた。
家でこうやってチキンやジャジャン麺を囲みながらわいわいするのはいつぶりだろうか。
そして今日、3人で人生初のお酒を呑む。きっと同級生たちも今頃呑んでいる。
韓国は19歳を迎える年の1月1日には飲酒解禁だけど高校生の間は原則呑まない。チョルスは酒豪家系だそうでお酒を呑める日を今か今かと待ち望んでいた。
今年の年明けにジウォンとチョルスと3人で「卒業したら絶対一緒にお酒呑もうね!」と誓いも立てた。
2人が買ってきてくれた数種類のビールとマッコリ。
チョルスがテーブルの上の缶ビールを手にとって、タブに指をかけた。
「待って!」
「何!」
ジウォンは妙に緊張した面持ちで携帯を彼のほうに向けた。
記念すべき初のお酒、動画を撮るようだ。
レンズを向けられたチョルスは私を見て、次にジウォンを見て、頷いた。
「……開けます」
なんだろう、この緊迫感のせいで合法なのに少し悪いことをしているみたいだ。
大きく息を吸ったチョルスはじんわりと指の腹でタブを上げる。
食い入るようにタブが上がっていくのを見つめて、缶がプシュッと音を立てた瞬間に3人でお互いに拍手を送った。
チョルスが「いや〜おめでとうございます〜」とヘコヘコしながらジウォンのグラスにビールを注いだ。
「君たちも呑みたまえ」
今度はジウォンが彼と私のグラスに注ぐ。
まるで接待中の上司と部下だ。
2人ともまだシラフなのにテンションのバロメータが限界値に達している。
「私たちピュアすぎるでしょ」
口ではそう言いながら私も普段より調子づいている。
幸せだなぁ……
小さなことを大きな幸せに変えてくれるジウォンとチョルスは凄い。
乾杯をして初めて口に含んだお酒は苦味だけしか感じなくて、私の舌にはまだ早すぎたみたい。
目の前のチョルスとジウォンも味を表現する言葉が見つからず2人して首を傾げ、斜め上を見る。
「案外美味しくないね」
ジウォンはちょっぴりがっかりしている。
それでも私はこの一瞬一瞬が幸せで……
このお酒の不味さも一生忘れたくないと思った。
卒業式の翌日、仲良し3人組での卒業祝いは私のひとり暮らしの家で開く。
13時って決めていたのに2人揃って仲良く遅刻してうちにやってきたジウォンとチョルス。
「うわー部屋めっちゃ綺麗〜! 広くなったね!」
新居に一番最初に招いたお客さんたちは興味津々で部屋を見て回っている。
高校進学とともに私はひとり暮らしを開始した。実家だと早朝に出て行ったり真夜中に帰ったりと両親の生活リズムが乱れかねないと思って家を出た。
それと同時期にデビューしたとはいえ、韓国アイドルの宿命である精算システムのため数年間無給だった。
精算とはデビューするまでの練習生期間にかかった費用をデビュー後の稼いだお金で決済して、それが全て完了したらようやく初めてのお給料を貰えるシステム。
うちの事務所は先輩たちが輝かしい成績をおさめてくれているお陰でその事務所からデビューした私のことも見てくれる人はそれなりにいた。だから精算も思っていたほど長くは待たず、昨年夏ごろに無事に受け取った。
家賃は高校3年間は両親に出してもらっていたがもう社会人だしこれからは自分で払うことになって新しい家に引っ越した。それなりの給料を貰ってるから割と良い家だ。
オートロックでセキュリティーもしっかりしてるし、なんなら誰かと同居できそうな広さ。
慣れ親しんだ家ともお別れして既に寂しさを感じていたところ、この2人が来てくれて良かった。
年末から今に至るまで、音楽祭や授賞式で忙しかったし2人も卒業後の進路の準備で忙しくしていた。
家でこうやってチキンやジャジャン麺を囲みながらわいわいするのはいつぶりだろうか。
そして今日、3人で人生初のお酒を呑む。きっと同級生たちも今頃呑んでいる。
韓国は19歳を迎える年の1月1日には飲酒解禁だけど高校生の間は原則呑まない。チョルスは酒豪家系だそうでお酒を呑める日を今か今かと待ち望んでいた。
今年の年明けにジウォンとチョルスと3人で「卒業したら絶対一緒にお酒呑もうね!」と誓いも立てた。
2人が買ってきてくれた数種類のビールとマッコリ。
チョルスがテーブルの上の缶ビールを手にとって、タブに指をかけた。
「待って!」
「何!」
ジウォンは妙に緊張した面持ちで携帯を彼のほうに向けた。
記念すべき初のお酒、動画を撮るようだ。
レンズを向けられたチョルスは私を見て、次にジウォンを見て、頷いた。
「……開けます」
なんだろう、この緊迫感のせいで合法なのに少し悪いことをしているみたいだ。
大きく息を吸ったチョルスはじんわりと指の腹でタブを上げる。
食い入るようにタブが上がっていくのを見つめて、缶がプシュッと音を立てた瞬間に3人でお互いに拍手を送った。
チョルスが「いや〜おめでとうございます〜」とヘコヘコしながらジウォンのグラスにビールを注いだ。
「君たちも呑みたまえ」
今度はジウォンが彼と私のグラスに注ぐ。
まるで接待中の上司と部下だ。
2人ともまだシラフなのにテンションのバロメータが限界値に達している。
「私たちピュアすぎるでしょ」
口ではそう言いながら私も普段より調子づいている。
幸せだなぁ……
小さなことを大きな幸せに変えてくれるジウォンとチョルスは凄い。
乾杯をして初めて口に含んだお酒は苦味だけしか感じなくて、私の舌にはまだ早すぎたみたい。
目の前のチョルスとジウォンも味を表現する言葉が見つからず2人して首を傾げ、斜め上を見る。
「案外美味しくないね」
ジウォンはちょっぴりがっかりしている。
それでも私はこの一瞬一瞬が幸せで……
このお酒の不味さも一生忘れたくないと思った。