Too late
彼の部屋は2階に上がって一番奥。
部屋ひとつが広いためか、隣の部屋のドアとも間隔がある。
隣は奥さんの連れ子、中学生の男の子の部屋だそうだ。
思春期でシウとは目も合わせないらしい。
シウが年下の男の子に手を焼いてるのを想像して、少し笑える。
彼の部屋は私の独り暮らししている部屋の何倍もあった。
この前、何時間もあの狭い空間に居たときはさぞ窮屈だったろう。
広い部屋は、天井まで塞がない間仕切り壁で分割してある。
ここから見えるのはテーブルや書斎、テレビなど。
あるはずのベッドやクローゼットは見当たらない。
壁の後ろに隠されているようだ。
ここで2人暮らしくらいならできそう。
部屋に入ってドアが閉まった途端、階段を登りながらも微かに聞こえていた1階からの生活音が消えた。
隣の部屋までも距離があり、私たちの声は他の部屋に届かない。
ようやく作られた4人だけの空間。
「すっげぇ~!」
チョルスの声量が普段に戻った。
ジウォンと感嘆の声をあげなあがら部屋のあちこちを見始める。
私も彼らにつられて部屋をうろちょろし始めた。
左奥に書斎があり、その背後に備え付けらしきシェルフ。
本だけでなく、彼の思い出の品も飾られている。
ふと目に入った写真たてには風景だけの一枚。
写っているのは高層ビルばかり、曇り空なのもあり無機質で物悲しい。
売ってある写真立てに元々入っている風景写真みたい。
もしかしてそのままにしているだけとか、シウってこだわりがないから。
「でっけ~! うちの事務所のモニターぐらいでっけえわ」
「さすがにそこまでないだろ」
聞こえてきた声のほうを見る。
彼らはテレビのそばに居た。
ちょっと離れてみないと首を痛めそうなサイズのテレビから少し距離をとってに4、5人掛けのソファー。前にはローテーブルがある。
そことは別に食卓になるようなテーブルと4脚の椅子もあるというのに、座る場所の多い部屋だ。
ジウォンはソファーのど真ん中に深く座り、腕を組んだ。
「オッパ、ここでこうしてんでしょ、いつも」
無愛想な表情を作り彼を真似ている。ジウォンから見てもシウってこうなんだ。
「俺そんな嫌な顔してんの?」
彼は笑ってそう言った。
チョルスは何を見ても「すげ~!」と驚きながら、落ち着きなく部屋を徘徊する。
間仕切り壁の後ろに吸い込まれていったチョルスが突如叫んだ。
何か凄いものを見つけたのか。
「は!? この部屋風呂もあんのかよ!」
隠されたスペースへ足を踏み入れた。
独りでは持て余しそうなキングサイズのベッド。
その奥でチョルスが勝手に開けたドアの先にはバスルームが見えた。そう手狭でもなさそうでちゃんとした作り。
まさかお風呂まであるとは。
「ほぼ家族と顔合わせないんだ。部屋の冷蔵庫が小さいからたまに1階のキッチンに行くことはあるけど」
冷蔵庫の存在に気づきさえしなかった。
「えぇ......まず冷蔵庫は普通自分の部屋にはないはずなのよ」
ジウォンは若干、引いている。
生活をすべて賄えるこの部屋。
シウは仕事のとき以外、ほとんどの時間をこんなに広い部屋で、ひとり過ごしている。
あらゆるものを用意してくれて優しいように見せかけて、何も優しくない気がした。
こうすることでシウをひとりぼっちにさせているというか。
血も繋がらない家族と顔を合わせずに済む。
最初は救われたかもしれない。
しかし、家族がリビングで過ごしているのを分かった上でこの広い部屋に佇むのは、独りで暮らすのよりもよっぽど孤独を感じると思う。
集団のなかでわざと孤立させている感じ。
一度見かけた彼のお父さんの顔が、決して良くはない印象と共に思い浮かぶ。
その人の狡猾さを感じ取ってしまい、一気に嫌な感情が湧く。
「どうした?」
はしゃぐふたりと対照的に黙りこんでじっとバスルームを見つめる私にシウが歩みよって様子を伺った。
自分の気持ちがよくわからない。
不思議そうにする彼を見て、何故だか目頭がじわっと熱くなる。
家に帰りたくないと言った彼の背景にはこんな環境があったなんて、私は彼に酷いことをしてしまった。
考えるよりも先に湧き立つ感情に追い付けない。
ここで急に泣き出すのはおかしい。ぐっと唇を噛み締めて、なんともないフリをする。
「ううん、なんでもない」
納得のいかない顔で「そう? ならいいけど」と返す。
「シウヒョン、みてみて~! ジャーンプ!」
私たちの視線を集めると手を大の字に開いてキングサイズのベッドに思いっきり飛び込んだ。
はじめは萎縮していたチョルスも完全にいつもの調子を取り戻した。
シウはふざけんなと言いながらチョルスを止めに入る。
嬉しそうで、楽しそうで、ちゃんと年相応にはしゃいでいるのが彼の後ろ姿から伝わってきてホッとした。
部屋ひとつが広いためか、隣の部屋のドアとも間隔がある。
隣は奥さんの連れ子、中学生の男の子の部屋だそうだ。
思春期でシウとは目も合わせないらしい。
シウが年下の男の子に手を焼いてるのを想像して、少し笑える。
彼の部屋は私の独り暮らししている部屋の何倍もあった。
この前、何時間もあの狭い空間に居たときはさぞ窮屈だったろう。
広い部屋は、天井まで塞がない間仕切り壁で分割してある。
ここから見えるのはテーブルや書斎、テレビなど。
あるはずのベッドやクローゼットは見当たらない。
壁の後ろに隠されているようだ。
ここで2人暮らしくらいならできそう。
部屋に入ってドアが閉まった途端、階段を登りながらも微かに聞こえていた1階からの生活音が消えた。
隣の部屋までも距離があり、私たちの声は他の部屋に届かない。
ようやく作られた4人だけの空間。
「すっげぇ~!」
チョルスの声量が普段に戻った。
ジウォンと感嘆の声をあげなあがら部屋のあちこちを見始める。
私も彼らにつられて部屋をうろちょろし始めた。
左奥に書斎があり、その背後に備え付けらしきシェルフ。
本だけでなく、彼の思い出の品も飾られている。
ふと目に入った写真たてには風景だけの一枚。
写っているのは高層ビルばかり、曇り空なのもあり無機質で物悲しい。
売ってある写真立てに元々入っている風景写真みたい。
もしかしてそのままにしているだけとか、シウってこだわりがないから。
「でっけ~! うちの事務所のモニターぐらいでっけえわ」
「さすがにそこまでないだろ」
聞こえてきた声のほうを見る。
彼らはテレビのそばに居た。
ちょっと離れてみないと首を痛めそうなサイズのテレビから少し距離をとってに4、5人掛けのソファー。前にはローテーブルがある。
そことは別に食卓になるようなテーブルと4脚の椅子もあるというのに、座る場所の多い部屋だ。
ジウォンはソファーのど真ん中に深く座り、腕を組んだ。
「オッパ、ここでこうしてんでしょ、いつも」
無愛想な表情を作り彼を真似ている。ジウォンから見てもシウってこうなんだ。
「俺そんな嫌な顔してんの?」
彼は笑ってそう言った。
チョルスは何を見ても「すげ~!」と驚きながら、落ち着きなく部屋を徘徊する。
間仕切り壁の後ろに吸い込まれていったチョルスが突如叫んだ。
何か凄いものを見つけたのか。
「は!? この部屋風呂もあんのかよ!」
隠されたスペースへ足を踏み入れた。
独りでは持て余しそうなキングサイズのベッド。
その奥でチョルスが勝手に開けたドアの先にはバスルームが見えた。そう手狭でもなさそうでちゃんとした作り。
まさかお風呂まであるとは。
「ほぼ家族と顔合わせないんだ。部屋の冷蔵庫が小さいからたまに1階のキッチンに行くことはあるけど」
冷蔵庫の存在に気づきさえしなかった。
「えぇ......まず冷蔵庫は普通自分の部屋にはないはずなのよ」
ジウォンは若干、引いている。
生活をすべて賄えるこの部屋。
シウは仕事のとき以外、ほとんどの時間をこんなに広い部屋で、ひとり過ごしている。
あらゆるものを用意してくれて優しいように見せかけて、何も優しくない気がした。
こうすることでシウをひとりぼっちにさせているというか。
血も繋がらない家族と顔を合わせずに済む。
最初は救われたかもしれない。
しかし、家族がリビングで過ごしているのを分かった上でこの広い部屋に佇むのは、独りで暮らすのよりもよっぽど孤独を感じると思う。
集団のなかでわざと孤立させている感じ。
一度見かけた彼のお父さんの顔が、決して良くはない印象と共に思い浮かぶ。
その人の狡猾さを感じ取ってしまい、一気に嫌な感情が湧く。
「どうした?」
はしゃぐふたりと対照的に黙りこんでじっとバスルームを見つめる私にシウが歩みよって様子を伺った。
自分の気持ちがよくわからない。
不思議そうにする彼を見て、何故だか目頭がじわっと熱くなる。
家に帰りたくないと言った彼の背景にはこんな環境があったなんて、私は彼に酷いことをしてしまった。
考えるよりも先に湧き立つ感情に追い付けない。
ここで急に泣き出すのはおかしい。ぐっと唇を噛み締めて、なんともないフリをする。
「ううん、なんでもない」
納得のいかない顔で「そう? ならいいけど」と返す。
「シウヒョン、みてみて~! ジャーンプ!」
私たちの視線を集めると手を大の字に開いてキングサイズのベッドに思いっきり飛び込んだ。
はじめは萎縮していたチョルスも完全にいつもの調子を取り戻した。
シウはふざけんなと言いながらチョルスを止めに入る。
嬉しそうで、楽しそうで、ちゃんと年相応にはしゃいでいるのが彼の後ろ姿から伝わってきてホッとした。