Too late
 一通り部屋を探索した頃、彼の部屋に何人もの家政婦が部屋に料理を運んできた。
 家族には何も伝えていないのに、専属シェフにだけはお願いしていたらしい。
 豪勢な料理の数々がテーブルに並ぶ。
 ジウォン、チョルスは目をキラキラさせている。
 シウが冷蔵庫のなかを見ながら何を呑むかと尋ねた。
 ジウォンたちは息ぴったりに「チャミスルー!」と言う。
 お酒の好みまで一緒らしい。
「ユリは?」
 私だけ呑まないのも場を悪くする。
 この面子だし、酔っても問題ないから今日は呑もう。
「私もそれで」

「親父がワインかウイスキーしか飲まないから普通のお酒がなくてさ、昨日買いに行ったよ。冷蔵庫のやつ好きに取っていいから」
 
 2人は感激した顔を見合わせて「お坊っちゃま~」と声を揃える。
 打ち合わせなしでこの合った呼吸、コンビで芸人デビューさせたいくらい。

 3人の食の好みを知っているシウがそれぞれが好きなものを準備して貰っていた。
 統一感はないが夢で溢れている。
 私は中華料理、ジウォンはピザやパスタでイタリアン、チョルスは肉一択。
 シウは無難に韓国料理。あっちにいたからか今は韓国料理が一番美味しく感じるって言ってたっけ。
 好みが点でバラバラの私たち3人は、一緒にご飯を食べる時は誰かの好みに合わせるのをローテーションする決まりがある。
 ここまで用意周到だと他のどのお店に行くよりも良い。
 緊張が解けたせいか急激にお腹が鳴り始めた。
 シウも皆と同じくチャミスルで、乾杯した。
 何品も用意された中に一際目を引く料理が、私の目の前に置かれている。
 中華料理のなかでも特に好きな炒飯。
 韓国の家庭料理の焼き飯ではなく、中華炒飯だ。
 仕事で中国へ行くと毎食炒飯を食べるほどのマニアだ。
 派手な紅色のお皿には大盛りによそってあるそれにしか目がいかず、乾杯してちょっとだけグラスに口をつけたらすぐさまスプーンを手に取った。
 黄金の輝きを放つ山を期待の目で見つめる。
 このおうちの専属シェフって選ばれた存在の人が作ったなら美味しくないはずがない。
 スプーンの上に乗る限りのそれをすくって、ゆっくりと口に運んだ。
 一口食べた瞬間、口いっぱいに広がった炒飯の旨味に顔が綻ぶ。
 ん~!と唸って、その美味しさを噛み締める。
 そんな美味しい?と尋ねるシウに満面の笑みで頷くと、連鎖したように同じ顔をする。
 お気に入りの炒飯はいくつかあるけれど、ひとつ頭抜けている。
 これ、お店だといくらするんだろう。
 ゆっくりと一口目を味わいつつ、新たに掬ったもう一口を隣の彼にあげる。
 彼の評価をじっと待つ。
 何かを熟考する人みたくどこか一転を見つめてその味を確かめる。
 ごくりと飲み込むと、あの人料理うまいな、と一言。
「感想それ? ねぇ、めっちゃ美味しい」
「うん、うまい」
 反応の薄さに納得がいかずムッとする。
 シウはすぐさまそれに気づいた。
「ごめんって、正直味よりもユリが喜んでんのが嬉しくて」
 拗ねちゃったかぁ、と目尻を垂らしている。
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